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まったくライは!人が気にしてることを!
こんな格好をしてるが貧相な身体つきは気にしている。
逃げ出したことも忘れて自室へズカズカと歩く。すれ違う侍女や兵士達から遠巻きに視線を感じる。
あ、ヤバイ。
これじゃますます変人扱いだ。
「サラ」
「アル兄…王さま。」
気づけばこの国の王、長兄が立っていた。
「兄でいいって言ってるだろ。」
ポンポンと頭を撫でる。
栗色の髪はサラと同じもの。優しくも鋭さをもった瞳がすっかり王たるもの。
「ご立腹だな。」
「ライが!ひとを貧に…いえ。何も。」
「また、ライか?仲良しだな。」
違う。からかわれているだけだ。
「お兄様はどうなさったのですか?今日はご公務は?」
「謁見予定だったが、あちらが急病でな。
1時間程空いたんだ。お前と茶でも、と思ってな。お付き合い頂けますか?姫。」
「喜んで!」
アルがエスコートするように腕を差し出す。
それに、飛びついた。
甘えん坊だな、アルが苦笑する。
「ライにもそんなじゃ駄目だぞ。お前も嫁入り前だ」
「ライには甘えてない!それに何処にも嫁がない。」
先程のやり取りを思い出しムカムカしてくる。
「それがそうもいかないんだ。」
兄が、いや王が冷静に言い放つ。
「え?」
そんなやり取りがあった翌日。
キィン!バシッ!
男達が太陽の下、剣の鍛練に励んでいる。若き騎士団長、ライ率いる騎士団の一部。
「隊長〜休憩させてください〜」
「30分我慢しろ。」
男達は汗だくだがライだけは涼しげな表情をしている。
「本当に隊長の身体はどーなってんだよ」
「人間離れしすぎだよ」
ライは数人相手に稽古をつける。ふと、視界の端に見てはいけないものを見つけてしまう。
サラがこそこそと裏門に向かっているではないか。
しかも、荷物を背負っている。
「あれで見つからないと思ってるのか?」
また、厄介な。
「休憩だ」
「へっ?今、あと30分って…」
部下の言葉も最後まで聞かずライは走り出した。その先にはサラがいた。しかも、1人で大荷物を持って。
自国の姫は変わり者であるが皆もう慣れていた。
「あぁ、姫様か、本当に隊長は姫様至上主義だな」
何はともあれ、姫様に感謝だ。なにせ2時間も休みなしにしごかれていたのだから。
「サラ様。」
振り返らずとも分かるこの麗しい声。
またこの男。舌打ちしたい気分だ。
「今は休憩中!ちょっと散歩してくる。ライもそろそろ休憩したら?」
姫は嘘を吐く時、斜め右上に目線がいく。分かりやすく助かるが、それでいいものか。
「その荷物は?」
「あー、と、ティーセット?」
頼むから今回ばかりは見逃してほしい。人生がかかっている。
「姫」
顎を掴まれて上を向かされた。仮にも姫にそれどうよ?
ライと目線が絡む。
顔のいい憎たらしい男。その眼で見つめられると嘘がつけないんだ。
亡き両親にも兄達にもうまく嘘が吐けるのに、どうして。
ライは他の騎士や、侍女たちとは違う。
甘やかしてくれているのも分かる。厳しくしてくれてるのも分かる。
だからこそ、この男にだけは頼ってはいけない。自分がダメになる。1人で立たなくては。