13
この町は静かだ。森に囲まれた穏やかな町。途中の山路はかなり物騒だが。
今歩いているメインストリートらしき通りでさえ人通りも多くない。
王都の隣町だけあって、旅人は多いのか見慣れないサラ達に不審な眼を向けることはなく気にも留めていない。
「この先ですね。」
ライが二股の道の右を指差して言った。
「よく知ってるね?」
「数回来ていますから。」
は?聞いてないぞ。私が料理長に会いたがっているのを知っているはずなのに、なんて男だ。
「そんな眼で見ないで下さいよ。言ったら連れてけだの連れていかなかっただの、煩いでしょ、貴方は。」
思考だだ漏れかい。悔しいな。
「足は?痛くないですか?」
「へーき。……リュウ!!!」
赤い屋根の家の前で何やら作業している恰幅のいい男が元料理長のリュウ。
料理長を辞めてから髭を生やしたらしい。
男はサラとリュウに気づくと持っていた鍬を落とした。
「は⁉サラさまっ…」
言って自身の手で口を覆い辺りをキョロキョロし、安堵の息を吐いた。
「どーしたんですかい?こんな所に何故姫さまがっ?」
ボテボテ走り寄ってきて声を落として問われる。懐かしいなぁ。この感じ。
「その姫が貴方に会いたい会いたい煩いものですから。お忍びでお連れしました。」
「、、、へぇ。ライがか?よく外に出るのを許可したもんだ。」
ライがサラを連れてきたことに心底驚いたらしい。
「リュウ!会いたかったよー!全然文もくれないんだもん!」
「さあさあ狭い家ですが入って下さいよ。姫さんのお好きなお茶いれましょう!」
2人を迎えいれてくれた家は物があまり無い慎ましい部屋だが、なんだか安心する家だ。
「1人暮らし?」
「ええ。妻は随分前に亡くなったしね、子供もいませんからね。」
暖かい茶が出された。昔から好きな甘いがスッキリとした後味のお茶だ。
「で、駆け落ちでもしてきたんですかい?」
ゴホッ!!!
家に招き入れられてから口を開かなかったライが豪快にむせた。