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「よいせっと。」
鳥達が囀り、風が木の葉をほのかに揺らす、穏やかな朝。
海と山に囲まれた小国ー
王宮でも穏やかな朝を迎えていたが。
1人怪しげな動きをする女がいた。
栗色の髪は肩にもつかない程短く、格好はカットソーにズボンという男のもの。
女性はドレスに長髪というのがこの国の普通。
窓から外へ出ようと脚をかけた。
「姫」
びくん!!
「わっ!」
唐突に聞こえた声に態勢を崩す。
顔から外に倒れるー
だが、痛みは襲ってこない。
「またお稽古事をサボるおつもりですか。
それにしても、一階とはいえ窓からとは。
顔からいくとこでしたよ、サラ様。」
サラは男に抱きとめられる格好になっていた。
黒髪に切れ長の目。高い身長、一見細身だが鍛えられた体躯。女性は必ずと言っていいほどこの男に見惚れる。
「ライがいきなり声をかけるからだよ!」
「・・・そーですか、それは失礼いたしまし
た」
言いつつサラを肩に抱き上げる。
「荷物みたいに!はーなーせー!」
「メイド達に泣きつかれましたよ。姫が逃亡したと。こっちは夜勤明けなんですがね。
もう20だ。そろそろ落ち着いていただきたい。」
男はわざとらしく溜息を吐いた。
「ライ!聞いてる?降ろしてってば!」
ライはサラを軽々しく担ぎ長い廊下を歩き続ける。
「荷物か、あたしは・・・。」
いっこうに聞き入れてくれないライに諦めの声を漏らす。
ふと、ライが立ち止まる。
「姫、ちょっと太りました?」
なんだって⁉
「最近何かにつけて、お菓子やらなんやら食べてますからね…。しかし肝心なところに肉がつかな…(ゴスッ!)」
膝蹴りが綺麗にヒットした。
ライが鳩尾を押さえる。
「貧乳で悪かったな!!」
隙をついてライから飛び降りたサラが真っ赤になって叫ぶ。
「貧乳が嫌なら私に構ってないで、寄ってくるグラマラスな女の人とよろしくやってたら!若き騎士団長さま。」
サラは振り向きざまライに舌をだした。
走り去るサラの後姿を眺めながら、ライはやや乱れた服を正す。その顔は痛みなど感じていないクールな表情。
その美しい唇は弧を描いた。
この男はこの国一とも呼び声高い、騎士。
その力を買われ、最年少で騎士団長へと出世した力の持ち主だ。しかも、この男は他国出身。その、出生を知る者はこの国ではほんの数人。
本来ならば、騎士団長が姫の護衛などは勤めることはないが、この男はその勤めを最優先としている。
重鎮達の中には意を唱える者も少なくはないが、現国王の許しあってのことだ。
しかも、この男なしではこの国の騎士団はまわらない。国の安泰のためでもあった。