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紺碧の書 ~アトランティスの幽霊船~  作者: 蒼十海水
第五章【ガーディアンとの戦い】
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【Story.16】

「アクア…!」


手持ちの弾がすべて尽きるまで、アクアは決してガーディアンへの射撃を止めようとはしなかった。

レイスはそれを途中で止めようとしたが、アクアは今、頭に血が上った状態なのだということも感じている。

あの白銀の装甲を纏ったガーディアンに鉛玉をいくつ撃ち込んだ所で、それは蚊に刺されたようなものだと。

そうも思ったが、やけくそに乱射することで少しは彼女の頭も冷えるかもしれないと、その様子を見届けていた。


ギンッ! ギィン…! と、何かが金属に弾かれる音がいくつも響き、やはりすべては跳ね返されてしまっているのだと、音で聴きとる。

けれど視角で確認した時、レイスは耳で聞く事実とは違うものを感じ取った。

銃声が響く度に、ガーディアンの頭部が大きく揺れているのだ。

しかも、通常なら跳ね返されてどこへ跳んでいくか分からない弾が、ほとんど同じ場所に転がっている。


(…まさか…!?)


天に続く光の柱だけが照らす、この状況下で。よくは見えないのだが、レイスは自分が突き立てた剣先が、先ほどよりも深く食い込んでいるような、そんな印象を受けてしまった。

まさか、こんな若い女の子が―――有り得ない。そう頭で考える中で、この現象に関してだけは否定的な自分がいることに気付いた。

それこそ人生のすべてを銃に掛けてきた男達や、数百年も生きたような、自分と同じ人の道を外れた狙撃手も、これまでに何十人も見てきたが…こんな芸当が出来る者を、誰一人として見た事がない。

仮に剣柄の先端を狙うとして、数ミリでもずれればそれは、あらぬ方向に逸れて行ってしまうだろう。

それが、全弾をまったく同じ場所に命中させるなんてことが、可能なのか―――?


(いや、人の目で見ることだ。ひょっとしたらガーディアン側の何らかの防衛機能で、弾が同じ場所に転がってるだけかもしれないし。どこに当たってるかなんて、分かりっこない。)


「船長っ…!!」


ついに"逆上"したのか、二本の脚と槍を振り上げ、ガーディアンはこちらへと容赦なく襲い掛かってくる。それをアクアの盾とこちらのカットラスで、すんでの所で受け流した。剣は、なんとか折れずに済んでくれたようだ。

すでに行動を司る回路か何かに、異常が生じているのだろう。今までの様子とは一変し、目についた者に対して執拗に同じ攻撃ばかりを繰り出すガーディアンに、気付けば自分達の居る位置が大分ずれてしまった。

今や先程より、かなり女神像寄りになっている。


「くぅ…単純な攻撃なのに、光線も警戒しつつだと思うように逃げられないよ…。」


「…まずいな。」


動き続けていたガーディアンの行動が、ぴたりと止まる。

その赤い視線の先には、女神像の首元に登りつめたフレアの姿があった。

あの場所なら、先程とは違ってかわすだけの余裕はありそうだが、牽制されればうかつに手は伸ばせないだろう。

フレアが女神像の瞳に触れさえすれば、すべて終わるというのに―――。


「フレア姫っ!! 避けてぇ!!」


光を蓄えたガーディアンの口元から、光線が発射される。

よほど自身の目的だけに集中していたのだろう。普段なら勘の良いフレアも、この攻撃には一瞬対応が遅れたようだった。それだけ、自分達を信用してくれているのだ。


「あっ…!」


避けた瞬間に踏み外したフレアの片足が、女神像の肩をずり落ちる。

その瞬間にアクアは、今だガーディアンの前脚に絡んでいた鎖を手に取ると、思い切りそれを引っ張った。なんとか自分の方へ注意を向けたかったのだろう。

それでもガーディアンは、フレアから狙いを外そうとはしなかった。きっかり五秒のインターバルを経て、次の光線が発射される。

アクアが前脚を引っ張ったおかげで照準がずれたとはいえ、一瞬前までフレアの足があった場所を、光線は深々と抉るように焼いていた。なんとか肩に這い上がるフレアだが、このまま的にされ続ければバランスを崩すか攻撃を受けてしまうだろう。

アクアが邪魔をしているとはいえ、逆にそれは、照準の位置がまるで予想できないとも言える。

だからこそレイスは今、下手に手出しが出来なかった。

こんな状況でも、フレアは真っ直ぐに女神像の眼球を見据えている。制限時間はあと数分か、それともあと何秒か。―――もう、時間が無い。


「レイス船長! この鉤縄、女神像の冠の所に引っかけて!! 私の力じゃ、きっと届かないから…!」


両手で鎖を引きながら、アクアは腰に下げてある鉤縄を目線で示す。

この緊迫した事態の最中で、それは深く考えずともレイスに先を予想させることとなった。


「それは出来ないよ、アクア。自分がフレアの盾になるつもりでしょ。」


「この白銀の盾だって、あと一度か二度は持つよ! 早く!!」


―――はっきり言ってしまおうか。自分の目的よりもフランベルグの未来よりも、君の方が遥かに大事だと。

どうしてアクアはそこまで、フレアに対する想いが強いのだろうか。


「出来ない。君の性格上、無茶するに決まってる…!」


「レイス…!!」


名前を呼ばれて、戸惑ってしまう。真っ直ぐすぎる瞳の力に、負けそうになる。

ここでアクアを止めたら、一生恨まれることになるだろうか。

それでも、彼女がいなくなるよりはいい。

世界のどこかで生きていてくれると、分かってさえいれば、それだけでまた―――。



「絶対、死なないから…!!」



瞬間、頭の中で何かが弾けたように、すべての思考が止まる。

彼女の腰から手繰り寄せた鉤縄に、急いで足を掛けれるような結び目をいくつか作っておいた。

大きく振り被った手元に、すでに迷いは無い。


「盾が壊れた時点で、次は俺が撃たれると思っておいて。」


「船長、それは…!」


「そこは譲らないよ。アクアがフレアの盾になる前に、俺が間に入ってみせる。」


頭では、行かせることはできないと思っていても。

心では、彼女の言葉を信じる方を選んでしまった。


アクアが手を離した反動でガーディアンの体が傾き、何度目かの光線がまた、フレアから離れた位置を焼く。

その時にはもう、アクアはしっかりと固定された縄の先端を持ち、足場を蹴り上げていた。





――――ここへきて、ガーディアンは初めてその人形部分の腕を振り上げていた。

その先には、白銀の槍が握られている。先程まで熱で混乱していた人工知能も、今は自己修復機能で少しは回復したようだ。

次の光線が発射できるまで、あと五秒。その照準は〈管理者(フレア)〉に合わされていたが、それよりも宙擦りになっているもう一人は、今なら到達地点が予想出来そうだ。そちらを先に狙った方が確実だろう。

だが、腕を振り上げた瞬間、ガーディアンは自らの背中にどんっと重みが加わるのを感じていた。

確認の為に視覚センサーを周囲へ向けてみたが、もう一人の男の姿が捕えられなくなっている。


「させないよ。絶対に。」


振り上げた腕が、動かせない。…これは、人の力では無い。人の力では不可能だ。

この男の体内にもまた、通常ではない〈竜脈〉の流れを感知できる。これは焔竜(ニーズヘッグ)の―――いや違う、もう一匹(・・・・)の龍の恩恵だ。


『ならば、管理者を先に始末するまでです。』


光の力が溜まる。思考回路が正常に戻りつつある今、今度は外したりはしない。〈管理者〉が避ける位置まで、計算してみせる。


頭部に埋め込まれたチップから、命令が全体に行き渡る。

と同時に、光が蓄えられていた発射口に熱いエネルギーを感じ、それは次の瞬間、顔中に広がるほどの焔となって弾けていた。


『―――――――!!』





「あっつ!!」


ガーディアンの顔面から吹き出したように思える炎に、一瞬チリっとした風が届いたが、どうやら燃え移る心配は無かったようだ。

額の傷口周辺が溶けたのだろうか。先程レイスが渾身の力で突き刺した長剣はカランと音を立てて、下に転がる。

今や握っていた槍さえも離し、両手で覆って顔の熱を取ろうとするガーディアンの行動は、人間となんら変わりはなかった。

―――今の炎は、一体誰が…。

そう思いフレアの方へ視線を移すレイスだったが、彼女は今も自身の目標だけに集中しており、女神像の耳に必死にしがみついている所だった。あそこから髪飾りを経由して進めば、もう眼球に触れるまでは時間の問題だ。

アクアもそんなフレア姫を手助けするために、縄の結び目に足を掛けたまま、女神像の髪飾りと目元の間で待機している。


(…まったく。手助けするにしても、もう少し優しくできないものかな。)


女神像の頭の上に、二羽の鴉が留まっている。

その様子は、まるで戦いの行方を見守っているかのようだった。





「姫、手を…!」


ガーディアンの攻撃が止んだ今、フレアの行く手を阻む物はない。

アクアの手を借りて、片足を縄の結び目に掛け、女神の眼球に向かって伸ばされたフレアの手。

その手の平がエメラルド色の虹彩に触れると、途端に、女神像の体が淡い光で包まれていった。


「あ…。」


そこに初めて認証を行った時のような不安はない。ただ漠然と、暖かい力に包まれていく感覚を覚える。

フレアは、自分達が何かに守られながら、大きな竜脈の只中に居ることを知った。

その流れさえ、今は強く感じることが出来る。アクアが普段行っているのは、こういう事かもしれない。


「止まった、の…?」


覗きこんだ眼球の端で、一秒ごとに移り変わっていた文字が点滅したまま止まっている。

それはひょっとして、残り時間を表していたのかもしれなかった。


女神像を包み込む光が強まっていく度、都市の灯りが消え、光の柱が先端からほろほろと崩れていく。

まるで雪のように辺りに降り注ぐ光の名残りに、ほっと息をついたフレアは見とれずにはいられなかった。


(終わった…。これで、フランベルグは守られたんだ―――。)


「フレア姫っ…!」


くたりと力を失ったフレア姫の体を、アクアが支える。それでも、姫の片手はちゃんと縄を掴んでいて、その意識が完全には途切れてないことを物語っていた。

きっと緊張から解放されて、一時的に力が抜けているのだろう。


「まだだっ! アクア…!!」


だから、そんなレイス船長の声に、すでに新たな光源が生まれていることに気がつかなかった。

とてつもなく嫌な予感に襲われたアクアは、光が生まれた方向に顔を向ける。

その瞬間、ガーディアンの口元から放たれた光線は、女神像の左目に撃ち込まれていた。

間近で弾けた熱と光に、アクアとフレアは大きくバランスを崩し、宙に体を躍らせる。

レイスがガーディアンの口元に咄嗟に剣を突き立てていなかったら、光線は二人の体を貫通していたかもしれなかった。


―――まだ、止まってはいない―――。


「くっ…! …アクア…。」


片方の手で縄を掴み、もう片方の手でアクアの足と結び目を支えるフレア姫は、自分も朦朧とした頭で、アクアの意識すら一瞬途切れていたことを知った。

アクアの体は今、逆さ釣りで片足だけが縄の結び目に引っ掛かっている状態だ。

これでフレアが手を離したら、その片足でさえ結び目の間を滑り抜けてしまうだろう。

こんな状態では、次の攻撃は避けられない―――。

しかも、宙擦りになった時にアクアは後頭部を打ちつけたのだろう。女神像の唇の端に、赤黒いような色が付着しているのが分かった。


「待ってて、すぐ引き上げるから…!」


女神像の淡い光よりも強く、眩しく収束していく光に、ガーディアンの口元がこれまでにないほど輝き、その力を蓄えている。

今や柄の辺りまでどろどろに溶けた剣を持って、レイスはガーディアンの首の関節を狙い、思い切り突き立ててみた。

だが、すでに全体が固まって動かなくなっているガーディアンに、それすら無駄なことのように感じてしまう。

先程首だけを無理やり動かそうとした時も、まるで死後硬直のように動いてはくれなかった。

その発射口に蓄えられていく光の量に、恐らく今度の光線は、ガーディアンの最後のエネルギーを収束したものなのだろう。全体の動きを先に止めてまで、残っている力を込め、最後の一撃を放つことを選択したのだ。


そこには凄まじいほどの熱量と、そして前管理者の…ガーディアンの怨念すら蓄えられているようにも見える。


「…船長。大丈夫だから、そこから離れてくれる?」


先程のアクアとの約束に、決意を固めようとしたレイスだったが、ふいに聞こえた声にはっとしたように女神像を見上げた。

こんな状況なのに、それはとても優しく、強い意志を宿した声だ。あの時、希望を失いかけたフレア姫に掛けられたもののように。


「アクア…。」


「フレア姫、私を信じて。もう少しだけこのままで居て下さい。」


逆さになったまま、アクアはもう一つの銃を構えて、真っ直ぐに両手を伸ばす。

それは、アクアが今だかつて使ったことのない代物だった。

冷静に考えれば、こんな分の悪い賭けはない。それでも、この場に居る全員がアクアの決意を見守っていた。


少しだけ、竜脈の力を借りて。フレアが目にしたのは、アクアの銃の先端に回る、幾重もの図形と光の輪だった。

それはいつか物語の本で見た、〈魔法陣〉によく似ている。

まるで音の無いような時の流れの中で、その一瞬はとてもゆっくりとフレアの脳裏に焼きつけられていた。

普通の人間には捕えられない世界の姿が、この時のフレアには確かに見えていたのだ。



「―――これで、最後だよ。」



アクアは銃口をぴったりと〈魔法陣〉の中心に置き、その引き金を引く。

そこから跳び出したのは、煌めく様な白銀の弾だった。

撃ち出された銃弾は竜脈の力を纏い、やがて蒼い光の槍となって、ガーディアンの額の中心を正確に貫いていく。

それはまるで、遠くの針穴に糸を通すような、とんでもないコントロールだった。


例えるならば、ガーディアンや都市を動かしていた力は、(あか)く大きな竜脈のよどみ。

そして今、アクアが放ったもの、女神像から新たに生まれ出ずるは、蒼い竜脈の断片とも言うべきか。


蒼い槍により断たれた、赤い竜脈の力。人形の額から生じた亀裂に、そこからいくつもの電流が走っていく。

やがてガーディアンの口元に集まっていた光は行く先を失い、風船のように内側から膨れ上がっていった。

そこから人形の頭部が蒸発するまでは、本当に一瞬の出来事だったと思う。

溢れた力はそれに留まらず、眩いばかりに蜘蛛の全身を駆け巡ると、その内部を余すことなく焼き尽くしていった。

がしゃん、がしゃんと力無く落ちていく部品(パーツ)に、おそらく内蔵されていたのだろう、竜脈を吸い上げる赤い液体がどろどろと零れ、周囲を濡らしていく。


その目で心配していた女神像を見ると、エメラルド色の眼球には傷一つ残っておらず。今度こそすべてが終わったことを告げるように、光の柱は完全にその姿を消滅させていった。


この都市はまた、永い眠りに付くのだ。









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