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ユキチ冒険譚  作者: 霧島遠夜
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2話・帰ってきたユキチ

 一週間後、ユキチを乗せた馬車はようやく帝都の門をくぐった。毎日馬車を揺られたため、ユキチの肩や腰はバキバキである。

 メインストリートを馬車の窓から眺める。フォントンより遥かに南に位置するため、帝都はまだ晩秋の装いだ。

 活気溢れる通りの正面に、白い巨大な塀と門が現れた。異世界フリードリフィアきっての魔法帝国エルムントの王宮である。

 白門の兵士は馬車を見て、丁寧に礼をとった。馬車はそのまま、貴族や有力者の部屋が集う紫宮へと向かう。エルムント王宮は、一つの城ではなく、様々な役割ごとに分けられた宮の集まりなのだ。

 たくさんの宮を通りすぎ、紫宮へ着くころには、帝都到着から二時間が経っていた。

 紫宮の一番南、ユキチの自室には既に侍女が待ち構えていた。


「お帰りなさいませユキチ様!お荷物を」

「ただいまアンナ。あー、もー肩凝ったあ」

「大分お疲れですね。お湯を用意してありますよ」

「さっすがアンナ!気が利くーっ」


 湯の中で体をほぐし、ようやく生き返った。湯から上がるとアンナが丁寧に髪を梳いてくれる。腰まである髪は傷みやすいからだ。


「なにかお飲みものでも?ナギに持たせますが」

「お茶おねがーい。ナギの様子はどう?」

「そうですねえ。まだまだ失敗は多いですけど、多少は手際よく……」


 話ながら、髪を整え終えたところで、


「ユキチ様!お帰りなさい!」


 小柄な少女が勢いよく飛びこんできた。噂をすればなんとやら、ナギである。新人侍女ナギの先輩であるアンナは、盛大に顔をしかめた。


「ナギ!扉の開閉は静かに!主人の前でノックもしないとは……やはりまだまだ全然ですわ」「ごめんなさい!だってユキチ様久しぶりなんだもん」

「あはは、絞られてるねー……頑張れナギ」


 叱られてしょぼんとしたナギだが、ユキチが声をかけるとぱっと目を輝かせた。


「うん!あ、ユーリさんもすぐこっちに来るって。ユキチ様にお手紙がたくさんあるから、いま取りに行ってるの」

「ナギ、敬語はどこに行ったのかしら」


 わああごめんなさーいと叫びながら、バタバタとお茶の準備を始める。侍女に召し上げて一ヶ月。嵐のような言動とは別に、お茶の入れ方は優雅で様になってきたようだ。


「それにしてもユーリ遅いなー。いろいろ相談したいんだけど、仕方ないか。先に殿下にご挨拶に行ってくるわ」


 帰還の挨拶は必須だ。めんどくさいけど、嫌なことはさっさと終わらせて寛ぎたい。 

 ユキチが重い腰を上げようとしたとき、


「その必要は無いよ。だって僕会いに来たから」


 再びノックをしない闖入者が現れた。しかし今度の相手は確信犯である。タチが悪い。

 アンナは慌てて礼をとり、ナギに礼をとらせる。

 ユキチは仕事用の笑顔をあからさまに貼付けた。


「これはこれは御機嫌麗しく殿下」

「ああ機嫌は最高だよ。二週間も宮を離れていたユキチが帰ってきたんだからね。とても寂しかったんだよ?」

「それは申し訳ありません。そんな殿下にお土産として、ノックをお教えしますわ」

「嫌だなあユキチ。曲がりなりにも僕は第一皇子だよ。礼儀作法は一流さ」

「あらまあ、じゃあ使ったらいかがです?ところで、貴方の横でへばってるのは、うちのユーリじゃありません?」

「そうだよ。侍女はともかく、君にべったりなこの侍従より早く君を出迎えたくてね。柱に括りつけて来たのだけど、どうして僕と同時に到着できのかな」


 矢継ぎ早の厭味の応酬に、ナギは目をパチクリさせ、アンナは疲れた顔をしている。二十四、五歳の青年−−ユキチの侍従であるユーリは、走ってきたのか肩で息をしながら律儀に礼をとっている。

 笑顔なのは、ユキチと殿下だけである。


「それはユーリが働きもので、よく体を動かすからですわ。運動神経が良いのです。誰かさんと違って」

「そうか、僕のようによく働くとは良いことだね」

「ああ、働きものの殿下を探しに来られたようですわ」


 ノックと共に、皇子の筆頭侍従が訪れていた。

 公務をさぼっていた皇子は、一目会いたかったんだまた来るからねーと手を振りながら、筆頭侍従に引きずられていった。

 ああ、疲れた。もう来るなストーカーめ。


「災難だったねユーリ」

「慣れてます」

「……それも災難、だね」


 傍らに立つ青年に苦笑した。灰色の髪と目を持つ寡黙な侍従は、留守中の書簡を机に積み上げていく。


「それで、ユキチ様!仕事はどうなったんですか!?」

 ナギがたまり兼ねたように尋ねた。再びアンナがしかめっ面になる。


「ナギ、お仕事に口出しするなとあれほど」

「でもユーリさんも気にしてたじゃない!」

「いや。答えはわかる」


 ユーリの淡々とした返事にナギもアンナも驚いた。


「今回の日本人は幸せそうだったのでしょう」

「おおっ正解」

「もし帰るというならば、北から帝都に自分で来させて、決意を試すのでしょう」

「ユーリは何でもお見通しだ」「当たり前です」


 ユキチは楽しくてクスクス笑った。ユーリも少しだけ微笑む。


「お帰りなさいませユキチ様」


皇子なにしに来たんでしょうね。嫌がられてるのを楽しむのはMなのかSなのか……

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