プロローグ
拙い文章ですが、気軽にお楽しみくださると幸いです。
白い。白い。
すべてが白である雪原は、人の感覚を麻痺させる。方角も気温も。色彩も奥行きも。
見渡す限りの雪原にぽつんと建つこの家と、その家主がなければ、あたしは何もかもを見失っていただろう。
今朝、今年初めて雪が降った。この世界に来て3度目の冬が来たのだ。
感慨深く景色を眺めていると、背中に温かなものがふれた。後ろからそっと抱きしめられたのだ。そのまま、ポツリとこぼされる。
「どこかに行っちゃ、だめだよ」
「あはは!もう、心配性だなぁ」
お腹に回された腕に、自分の腕を絡める。大好きな大好きな、そして今は夫となった人の腕。
「そう、心配だ。マリーは雪と一緒に来たから、雪と一緒に消えちゃいそうだ。元の世界、えっとなんだっけ、ニホンとかいうところに」
「だいじょーぶ。そんなことできるなら、最初に帰ってたよ」
大学1年の冬。スキーサークルで雪山へ行った。まぁよくある話で、突然の悪天候で遭難。そのまま意識を失い、次に目覚めたときには、この家で治癒魔法にて看病されていた。魔法のおかげで、すぐに異世界トリップしたのだと気づかされた。
それから2年。はじめはひたすら帰りたかった。自分がこの世界に来た意味もわからないままで。辛くて辛くて毎日泣くじゃくるあたしを支えてくれたのは、この人だった。色々あって、そして恋をして……。
今はとにかく、ここで彼とおだやかな生活をしていたい。
「さ、朝から惚気てないで、朝食にしましょ!」
景気づけるように夫の肩を叩きながら、室内へ戻った。本格的に雪で閉ざされる前に、街へ買い出しに行かなくてはならない。
手早く食べれるサンドイッチで朝食をとりながら、今日の予定を確認する。
この世界の暮らしにもなれたもので、買わなくてはならない必需品を二人で上げていく。
そうして食後のお茶を飲み、少し寛いだところで、突然部屋に冷気が吹き込んできた。
来客には朝早いと思いながら夫と扉を見やる。
雪まみれになりながら立っていたのは、あたしと同じ、この世界では珍しい黒目黒髪の女性だった。
彼女は、安心させるようにぺこりとお辞儀した。長い黒髪が、さらりと舞う。
「お食事中ごめんなさい。はじめまして。マリー・クラウチさん……または倉内真理さんをお迎えに上がりました」
「あの……あなたは……」
「ああ、申し遅れました。わたしは異世界迷子係のフクザワ・ユキチです」
彼女は名乗って、にこりと微笑んだ。そう笑うと、あたしと同じくらいの年齢なのに、大人っぽく、けれどどこか無邪気に見えて……とても綺麗だ。
しかし名前がおかしくないか。もちろんあたしだって知っている誰もが欲しがるお金の名前。それも、元の世界の。
混乱するあたしと、わけがわからない夫に向って、彼女はさらに笑みを深くする。
「真理さん。日本に帰りたいですか?」
まるで、帰れるとでもいうかのように。
ありがとうございました。まだプロローグすぎて、わけがわからないと思います。
倉内って友達がいたんですが、この名字って頑張れば外国の名字にも聞こえますよね。クラウチ。
かっこよいです。