王妃に武力行使された王様がチートスキル「SSR」を思い出したのでやっぱりお城が吹き飛ぶ話
前のお話→ https://ncode.syosetu.com/n1822me/
多分読まないとよくわからないと思います。
なんか膨らんだので。
「王様~?どちらにいらっしゃいますの~♡」
妻ヴィオレッタ王妃の猫なで声が聞こえる。
見つかるわけにはいかない。
今回はちょっとメイドに「今晩どうだねチミィ?」と声をかけただけなのだ。
その程度でまたあのわけわからん爆発物で攻撃されてはたまらない。
ヴィオレッタは公爵令嬢だった。
当時付き合ってた娘があまりに可愛かったので
「結婚しよ」
と思ったから奴との婚約破棄を宣言したら、あの女突如謎の魔道具を取り出して城を半壊させやがった。
本来謀反人として処刑となるはずが、その直後王都に襲来してきた地這い龍を魔道具で粉々に吹きとばしたおかげで救国の英雄となり、結局婚約破棄はうやむやになって結婚する羽目になった。
貴族どもはあの魔道具が恐ろしいのか私の方を直視していなかったので、つまりはそう言う事なんだろう。
いつか処してやろうと思う。
ともかく、私は王族に伝わる石壁の中の避難部屋に身を隠し、王妃の機嫌がおさまるのを待っているのだ。
我、王のはずなんだが。
王妃の謎の魔道具のせいか、近衛も側近も見て見ぬ振りしやがる。
正直離婚したい。
まあいい、そのうち暗部に頼んでそれとわからないよう毒を……
「王様、こんなところにいらっしゃいましたのね~?」
王妃が何やら言っているが、ここは先代王しか知らない部屋のはず。
ブラフだ。
ブラフに決まっているので、よく磨かれた豪奢なソファでくつろぎながらお気に入りのワインを傾ける。
王しか知らない部屋なのでソファや家具を磨いたりワインを持ち込むのは我の仕事だ。
このために王子なのに掃除の訓練をさせられてたと知った時は脱力した。
もう少し何とかなんねえのかなとは思うが我以降の王が辛い掃除訓練を免れるのは何だか癪なんで変える気はない。
そんなどうでもいいことを考えながらワインを傾けていたのが、この我の最期の記憶である。
目が覚めると我は……我?「俺」は知らない部屋で寝ていた。
これはアレだな。異世界転生ってやつか。
しがないサラリーマンだった俺は残業帰りの深夜、道端に落ちてた白いビニール袋を子猫と誤認して車道に飛び出し、走ってきたトラックに轢かれて死んだ。
トラックの運転手さんごめんなさい。
そして多くの妄想小説の如く、死んだはずの俺の前に女神が現れた。
「えーあなたはしょーもない理由でおっちんだのですが、慈悲深い私がスキル「SSR」を授けて転生させまーす。はいつぎー」
完全に流れ作業だった。
なんだよスキルって。
なんだよSSRって。ガチャか。
まあガチャみたいなもんだなあの流れ作業は。
そういう訳で転生した、と思ったら今に至る。
どうも記憶を失って20歳の今日までレオンハルト王子、ああ先月王位をついたのでレオンハルト王か、まあとにかくレオンハルトとして生きてきたらしい。
記憶が流れ込んできて自分のあまりのクズっぷりに頭を抱えたのは言うまでもない。
嫁さんのヴィオレッタには申し訳ないとしか言いようがない。
なんでこんな俺に嫁ごうと思ったんだか。
まあ公爵令嬢なんでなんか責任感強かったんだろう。かわいそうな事をした。
今後はきちんと妻として王妃として遇して上げねばならない。
というか、彼女の出してくる魔道具、あれ魔道具というか前世の携行式対戦車ミサイルじゃねえのか?
にわかミリオタだった俺としては何となくどっかで見たことがあるんだアレ。
てことは彼女ももしかしたら転生してチート貰った口か?
こりゃきちんと話し合わないとまずそうだ。
元のレオンハルトはあまりにもクズ野郎だったのでどこまで信じてくれるかわからんが、前世の社畜営業で培った土下座スキルで謝罪の意を示すしかない。
決心した俺はヴィオレッタの私室に向かったのだった。
結論から言うと、俺は対戦車ミサイルを突きつけられて土下座している。
取り付く島もない。そりゃそうだが、土下座してるんだから少しは察してくれんもんだろうか。
こっちにこの文化はないだろう?
いや、これまでの夫婦げんかで最後は土下座させられてたな。
「東方に伝わる正式な謝罪の意を示す由緒正しいポーズ」
と言っていたが言いえて妙だ。
初手で土下座を求める客には何度も当たった事がある。
ここはひたすら謝罪するしかない。
下手すりゃあの対戦車ミサイルで粉々にされる。
……そういえばあの女神、「SSR」とか言うスキル寄こすとか言ってたな。
どんなもんか知らんが、ガチャでSSRといえば最上位のもの。
いや、最近のソシャゲだとその上もあるんだったか?
まてそれはどうでもいい。
これ使ったらなんとか粉々にならずにすむんじゃないだろうか?
問題はどう使うかわからんってことだ。
ヴィオレッタは無表情で対戦車ミサイルを構えている。
重くないんかアレ。
とにかく、人払いもすんでるし、説得をしなければ。
「ヴィオレッタ、すまない!今度こそは反省している!俺は生まれ変わったんだ!」
「……」
「どうして部屋で寝ていたかはわからんが、長い悪夢から覚めた気分だ。頼むからその物騒なものを下ろして話し合えないかな?」
「……王様が隠し部屋にこもっている事はこのATMの赤外線照準器のおかげで分かったのです」
ヴィオレッタがぽつりと話す。やっぱATM(対戦車ミサイル)なんかそれ。
赤外線照準器ってすごいの着いてるんだな。
「それで、わたくしは撃ちました。ATM(この子)を」
倒置法すごいですね。すごいからそのヤバいの向けるのやめてくれ。
「そしたら壁の破片があなたの頭に当たってしまって……殺してしまったのかと思いましたわ。まだ子をもうけてもいないのに」
それはもう少しオブラートに包もうよ。毒殺企んでた俺が言う事じゃないけどさ。
「というわけで、今回はおあいこですわね。あなたの頭の傷と土下座に免じて許します」
俺の価値安くない?頭の傷と土下座でメイドにちょっかいかけた事と相殺って。
一応王様よ?
とはいえやっとヴィオレッタがATMを消してくれた。
いやあんなデカブツどこに行くんだよ。
チートだからいいのか。まあ気にしたら負けだ。
俺は立ち上がってヴィオレッタの目をまっすぐ見て言う。
「本当に今まですまなかった。これからは夫婦として、寄り添って生きたいと本当に思ったんだよ」
「は?レオンハルトさまが?」
あれ、なんだろうこれ全然信じてもらえてない気がする。
「あ、ああ。信じられないのも無理はないが……」
「うそでしょ、きれいな女の子のお尻追っかけるしか能がないレオンハルトさまがそんな殊勝な事言うはず……誰か!誰か来て!お医者様を呼んで!レオンハルトさまがおかしいの!」
どんだけ信用ないんだ俺は。君も十分綺麗な女の子だと思うんだが。
そんなことを言うとヴィオレッタはますます顔を引きつらせて俺をベッドに押さえつけて
「こちらで安静に!お医者様はまだなの!?早くなさい!」
と侍女に指示を飛ばす。
「まてまてまて!少しは俺の話を聞け!」
「聞けますか!ああどうしましょうどこか変なところをぶつけたんだわ不能になったりしたら子種がもらえるかしらこの世界電気あったっけ電極ぶっこめば反射で種を出させられるらしいけど」
「待てって!俺は種付け用の雄牛か!違うんだ話を聞いてくれ!」
「あんたの価値なんて種牛くらいしかないじゃない!」
「ひどい!いやわからんでもないんだけど、聞いて!俺も転生者だ!山梨から来た!!」
「えっ。私静岡」
「お、すぐ隣じゃないか」
「ええ~、マジ?ほんとに転生者?」
「ああ。隠し部屋で頭に衝撃を受けて記憶が戻った」
「あらそうなの……もしかしてチート貰った?」
「あ、ああ。なんだかわからんが「SSR」とか言う……」
「何それすごい。どんなもんなのよ」
「いやわからん。今度検証しようかと思ってるけど。
とにかく前世の記憶が戻ってそれまでの俺……レオンハルトのクズっぷりにドン引きしてな。君に謝らないとと思ってすぐ来たんだ」
「ああ、どうりで初手から土下座してるわけだ……」
「前世で培った土下座スキルはたいしたもんだろ?」
「わかった。ふーん、あんたも転生者ねえ」
「あ、ああ。どうした急に?」
「いえね、私ってなんであんたと結婚したと思う?王子、王になるとはいえ、浮気性のクズ男に」
なんだか剣呑な雰囲気をだしてくるヴィオレッタ。
ヤバいなこの女。
「そ、そりゃあ、未来の王の母になれるチャンスだもんな?野心家なんだな君は」
「そうなの。ATMは思ったスキルじゃないけど、まあやりようはあるわ。この国を牛耳れるのよ。現代人の知識チートも使ってね」
「あ、ああ。それは俺も今後は手伝えると思うんだが」
「でもねえ、転生者って余分にいたら邪魔だと思わない?」
「えっ」
「だから、あなたはここで意識不明の重体になってくれるとうれしいなっと?」
にっこり笑って怖い事言い出したヴィオレッタは消した対戦車ミサイルをまた取り出して俺に向けた!
ちくしょうなんなんだこの女!ヤバすぎる!!
このままじゃ殺される!それは勘弁だ!
頼むチートスキル「SSR」!俺を守ってくれ!!
そして俺の肩にずしりと重い何かが乗っかった。
「あんた、それ。私と同じ……」
「あ?え?なんだこれ」
筒だ。第二次大戦期のバズーカ砲に見える。
何か書いてある。
「Surface-to-Surface Rocket……?」
「何それ」
「あー、地対地ロケットって意味だ。ロケット弾を発射するやつだな」
「ふーん……ますます私の地位を脅かすチートじゃない!生かしておくわけにはいかないわ!!」
「落ち着いてくれ!俺は君の邪魔をするつもりはない!落ち着けって!話せばわかる!」
「問答無用!死ねえ!」
「死んだら困るのはそっち……うおおあぶねえ!!」
至近距離で放たれた対戦車ミサイルを避ける。
マジで殺す気かこの女!?
後方で盛大な爆発が起こる。
こないだやっと城の修復が済んだばっかりなのに!
またあちこちぶっ壊れちまった!
「あらやだ。あなたが避けたせいでまたお城が壊れたじゃない」
「避けなくてもぶっ壊れるわ!なんなんだこの威力は!」
「対戦車ミサイルなんだからこれくらい強くないとダメなんじゃない?知らないけど」
畜生あのやる気なし女神め!テキトーなスキル寄こしやがって!
ATMのリロードには時間がかかるらしいが、これが完了したときが俺の人生の最期か。
とんでもないクズに転生したせいでろくでもない終わりになっちまった。
と、あきらめ全開でいると、部屋に近衛騎士が飛び込んできた。
「王妃様!王都の外に魔王軍が!」
「えっ」
「ぜひ王妃様の魔道具で討伐を!」
いやそういうの最初に俺に言うもんじゃない?
討伐の指揮は普通王様が……ああ、レオンハルト(俺)は女の尻追っかける事しかしないから誰も相手にしてないんだ。
政治回してたの王妃だし。
しばらく黙って何かを考えていたヴィオレッタは俺の腕をむんずと捕まえて言った。
「私と王が出ます。王都の門を閉め、城壁までの道を確保しなさい」
うわあ凛々しい。
元の俺はこういうところに嫉妬して浮気してたんだと今ならわかる。初恋だったとも。
人間こじらせるとろくなことにならんな。
んで、ヴィオレッタは万力のような握力で俺を引っ張りつつ城壁へ連行したのだ。
城壁の向こうにはおびただしい数の魔物。今にも襲い掛かってきそうだ。
「考えが変わったわ。あんた、その、なんだっけ。SSR?とにかくミサイルであいつらやっつけなさい」
「えっ」
ミサイルじゃなくてロケットなんだが。
「あんたが無能でカスだったから種しか使い道ないけど、ここで武功立てたら英雄王として祭り上げられるじゃない。そのほうがやりやすいのよ」
うわぁ政治家だ。怖い。ぼくにはとてもできない。
しょうがないので俺は彼女の言うとおりにSSR(というかバズーカ砲だよなこれ)を構えて魔物に放った。
結論を言えば、大爆発が発生して魔物はいなくなった。
俺は絶大な魔法の才に覚醒した英雄王として祭り上げられ、才気あふれる聡明な王妃とともにおしどり夫婦を演じている。
たまに夫婦喧嘩もするけれど、チート能力でやりあうので城が半壊して毎回盛大な公共工事になる。
なんか景気悪くなったな、と思ったら喧嘩を吹っ掛けて来るのできっとそういう事なんだろう。
なんでこんな世界に転生させられたのかは皆目わからんが、まあ子供もできたしそれなりに幸せにやっている。
富士山は山梨のもんだって口を滑らせたらいつ何時でも対戦車ミサイルが飛んでくるのは勘弁してほしいんだが。
富士山は静岡のものだからね、しょうがないね。




