72話 タイムリミット
ザックが俺に何かを突き刺してきたが、それが俺に届く前にニーニャが俺を抱えて、大きく後ろに下がる。
俺は驚いて、体の力が抜けてしまった。
ニーニャに抱えられ足をぷらぷらとさせていたが、そんなことをしている場合ではない。
ザックの手に握られていたのは、何かの液体が入った注射器だった。
「あれ…。」
「それ、何ですか?」
「ん?あぁこれのことね。新しいものを試してみたくて。」
「ニーニャさん。」
俺は小さな声でニーニャに話しかける。
「あの注射器の中身、多分前にソルさんにかけられた呪いの元だと思います。」
「わかりました。」
ニーニャはそう言うと、俺を下ろしてズボンのベルトについているキーホルダーを外す。
すると、キーホルダーは何倍も大きくなり、二メートルくらいの長さになった。
これは…、如意棒だろうか。
紫色の本体に金色の月の装飾、マイクの持ちてくらいの太さで、真ん中には三つのボタンがついていた。
「ライトさん、下がっていてください。ここは僕が引き受けます。」
「ニーニャさん…、気をつけてください。」
俺は助けを呼ぶためにその場を離れ、下の階におりた。
「あんなやつ、逃がしたってすぐに死んじゃいそう。でも、彼のあの能力は気になるね。」
「ライトさんは、この世界を変えてくれる気がするんです。実際、ライトさんが東の国に来てから、たくさんの魔導書の情報が出てきました。偶然ではないと思うんです。」
「確かに、紫の魔導書の情報が出てから、ここの黄色の魔導書の情報が出るまでのスパンが短かったのは事実だね。でも、それを証明する証拠が、まだ少ないんじゃないかな。」
「あなたの言うとおりです。証拠はまだまだ足りていませんし、彼が世界を変えてくれるというのは僕の考えに過ぎません。」
ザックは腰の剣を抜く。
「僕と一緒に彼にかけてみませんか?僕の大切な人にはあまり時間が残されていません。あなたと同じように。」
「君のようなきれいな子は斬りたくないんだけど。」
ザックは剣を強く握り、ニーニャに斬りかかる。
ニーニャは如意棒を床に突きつけ、飛躍する。
ニーニャはザックの上を通り、背後を取るとザックの脛のあたりを薙ぎ払う。
ザックは跳んで避けると、ニーニャの方を見る。
「君、バフかけれるの!」
「それが何ですか?」
「魔法学校にどれくらい通っていたのかな。」
「僕は学校には一度も通っていません。全てダイヤに教えてもらったものです。」
「ダイヤ…あぁ、そうか。」
ザックはそう言うとニーニャに次々と斬りかかる。
ニーニャは如意棒で振り払うが、どんどん押されていってしまう。
カンカンという金属音が三階に鳴り響く。




