65話 猫の思い出話
俺の視界がまた白み始め、同じような中庭に戻ってきた。
年配の男性と小さなニーニャはいない。
俺の隣には、大きく成長したニーニャが座っている。
「今のって、」
「今のは俺の空間魔法を見る力の一つです。触った物の記憶が時々見れます。でも、共有できるのは今初めて知りました。」
「じゃあ、今のはこの噴水の記憶ということですね。」
「そうだと思います。…先生いい人ですね。」
「はい、何もわからない僕に一から丁寧に教えてくださいました。テーブルマナーに紅茶の入れ方、掃除や洗濯まで色々、一緒にいた時間は長くありませんが、彼からもらったものは数多くあります。」
「なんだか、本当にお城の執事みたい。」
「僕は執事ではありませんよ。僕はただのダイヤのお世話係です。まぁ、父の世話と言うと介護みたいになってしまいますが。」
ニーニャがくすっと笑うと、俺もつられて笑みがこぼれる。
他にもニーニャの先生について色々話してくれた。
先生は星八ランクの魔法使いということ、今は退職して東の国で暮らしているということ。
他にも休日に遊びに行った場所など、たくさんの話をしてくれた。
すっかり夜も深くなり、解散することにした。
「今日はありがとうございました。先生の顔が久しぶりに見れて良かったです。」
「俺も、ニーニャさんとたくさん話せてよかったです。また、ここに来てもいいですか。」
「はい、何時でも。僕がここにいなくても、鐘を鳴らせばここに来ますよ。」
ニーニャに笑いかける俺に返すように彼も微笑む。
庭から城の中を見ると、人影が一つあった。
ニーニャと一緒に庭から出ると、その人影はダイヤだった。
「おかえり。楽しそうだったな。」
「え、聞こえるぐらい大きい声だった!?」
「声の大きさ関係なくダイヤには全て聞こえていますよ。」
「前に、ウィルが説明してただろ。この城の中なら、聞こえているし見えている。
もちろん、俺を介護するって話もな。」
あ、という小さな声がニーニャから聞こえてきた。
片手で自分の口を隠すニーニャはダイヤの方を見ない。
「まぁいい。遊んでくれてありがとうな。ライト。」
そう言って、白衣をひらりと舞わせると俺に背中を向けて歩いていった。
ニーニャも軽く会釈をして、ダイヤの後をついていく。
少し歩いたところでダイヤが一瞬振り返る。
「そうだ、ライト。リリィから連絡があって、また別の魔導書の場所がわかったようだ。近い内にまた連絡する。」
「わかった。」
俺の返事を聞いたと同時に二人は夜の城を歩いていった。




