58話 黒い霧の中に
俺達は城の中に入り、夕飯を食べた後、ダイヤが指定した部屋に向かった。
彼の指定した部屋は他の扉と色が違うように見えたが、ウィルは同じだと言ったので、空間魔法によって作り出された部屋と扉なのだろう。
ノックをするとダイヤが扉を開けてくれた。
中に入ると会議室のようになっており、長い机と柱時計、ホワイトボードのようなものがあった。
「まぁとりあえず座れ、今日起こったことはかなりまずいと思ったから、色々なやつに集まってもらった。」
ダイヤはそう言うと一番奥の席に座る。
俺とウィルはソレイユの隣に並んで座る。
この部屋に集められたのは、
クロム、アリス、リリィ、各部隊の三番隊以外の隊長、ニーニャ、テオ、サイモン、シェム、メグ、ウィル、俺…。あとは、ダイヤと全身黒色の霧に身を覆った謎の人物がいた。
こんなに人が一箇所に集まったのを見たのは、入隊式ぶりだ。
俺は緊張しながら会議が始まる時を待つ。
「まず、全員の軽い紹介を俺の方からさせてもらう。」
ダイヤは順番にみんなの紹介をし、謎の黒い霧の人物の番がやってきた。
「こいつは、三番隊のやつだ。秘密部隊ということもあって、これ以上の情報は伏せておく。
ヴァイオレットを通して俺が名指しで呼び、みんなが来る前に本人確認もしている。」
「今回は三番隊の情報が鍵になるかもしれないと、連絡を頂いたので参上しました。皆様のお役に立てれば幸いです。この会議では私のことをトレイとお呼びください。」
ボイスチェンジャーで声を変えてトレイが話す。
「で、かなりまずいって何が起こったのかな。」
クロムのいつもより低い声が緊張の糸を強く張り直す。
「俺の魔法を掻い潜ってこの城の敷地内に入ってきた魔法使いが現れた。」
「どういうことや!そんなやつおるわけ…、」
「気づいたか?」
「あぁ、あの銀髪…やんな。」
「銀髪、ですか。」
「この前フォンシーレの地下倉庫で、ソルやテオが魔導書の捜索に行った時に会った青年だ。」
「その青年の情報は三番隊からテオさんに提供しました。あまり細かいものではないですが、全体にも共有しておきますね。
銀髪の青年の名前はザックです。十五年前に西の国軍に入り、今は幹部の一人となっています。南の国の魔法学校に通っていたというデータもありますが、ランクは不明です。」
「魔法学校か…。」
ダイヤは腕を組んで考える。少しの沈黙を切ったのはソレイユだった。
「その情報聞いた時、ダイヤなら知ってるかもって俺等思ったんだけど。」
「俺は、一度でも授業を持ったことのある生徒の顔と名前は覚えているが、アイツは見覚えがない。サイモンはどうだ。」
「僕も無いな。銀髪って珍しいから、校内にいれば分かると思うんだけど。」
「サイモンが知らないってなると、お前が入学する前ってことになるぞ。」
「アイツ俺と同じくらいの年齢やと思うけど。」
サイモンの年齢はわからないが、テオより歳上なのは言うまでもない。
部屋の柱時計が午後七時を指し、ゴーンと鐘が鳴る。




