54話 秘密の中庭
野球場くらいの大きさの中庭には沢山の花と小さな噴水、中心にある大樹にはブランコがかかっているのが室内からでも見える。
中庭にいるニーニャを眺めていると、偶然目が合った。
すると、ニーニャが手招きしたので、俺は今いる場所から一番近い入口から中庭に入った。
中庭は暖かな春の香りが漂い、噴水の水の音が響いている。
「とても綺麗ですね。なんだか落ち着きます。」
「鍵は常に開いているので、何時でも遊びに来てください。」
「ここの花、全部ニーニャさんが管理しているんですか?」
「はい。もとは僕の先生が管理していたのですが、今は僕がお世話していますよ。」
「先生?」
「僕の前にいたダイヤのお世話係の方です。僕はその方からたくさんのことを教えてもらったので、先生と呼んでいます。」
「ニーニャさんは何時からこの国に?」
「そうですね。二十年いるか、いないかぐらいだと思いますよ。」
「二十年!?」
「はい。クロム様が生まれる前からここにいますよ。」
ニーニャはいったい何歳なのだろう。
テオと同い年くらいだと思っていたが、ニーニャのほうがかなり年上らしい。
「それにしても、よくこの中庭を見つけましたね。ここは先生の空間魔法で通常見えない場所なんですよ。」
「え、そうなんですか?」
「はい。ここは秘密の中庭なのでね。他にも隠された場所や物がこの城にはたくさんあります。興味があれば探してみるのも楽しいかもですね。」
ニーニャは微笑み噴水の方へ歩いていく。
「ニーニャさん!」
俺はニーニャを呼び止めた。
彼はくるりとこちらに振り返る。
「ライト〜!どこだ〜?稽古に行くぞー!」
ウィルの声が聞こえてきた。
どうやら稽古の時間になってしまったようだ。
ニーニャを呼び止めたが、何も伝えられず彼と出入り口のドアを交互に見ていると、
「行ってきてください、何時でもここにいますよ。僕がいない時はこれを鳴らしてください。」
そう言うとニーニャはブランコの近くにあった小さな鐘を鳴らす。
虹がかかったような優しい音が鳴る。
「お稽古頑張ってくださいね。」
「はい!」
俺は中庭をあとにした。
その後花精霊の槍を取り、ウィルと合流した。
あの中庭は本当に魔法で見えないらしく、横を通ってもウィルは中庭の方を一度も見なかった。
訓練場に行くと珍しくメグがそこにいた。
「メグ!久しぶりだな、訓練場に来てどうしたんだ?」
「四番隊の戦場班に決まったから、今日からここで練習させてもらうの。」
「練習?何の?」
「花派生の全部の魔法よ!」
後ろから元気で、明るい声が聞こえてくる。
声の正体はリュンヌだった。




