36話 rainbow’s memory
俺はクロムの部屋に通され、一人掛けのソファに座る。
少ししてから、ダイヤが部屋に入ってきて、部屋の扉のノブにオーナメントボールのようなものをかけた。
「外部魔法遮断の魔法を置いたから、盗み聞きされることはないぞ。」
「ダイヤありがとう。で、話ってなんだい?」
「魔導書の力の一つに記憶を見せる能力ってありますか。」
「魔導書自身にはそうな力は無いはずだぞ。俺もその”記憶”ってやつは見たこと無いしな。
それがどうかしたのか。」
「実は俺がこの世界に飛ばされるときに”物の記憶を見ることができる力”を多分手に入れたみたいで、
これまでに、空色の魔導書・花精霊の槍・紫の魔導書の三つの物の記憶だと思われるものを見たんです。」
「なるほどね。具体的にどういう記憶を見たのか説明できるかい?」
「空色の魔導書で見えたのは、赤い巻き毛の少女が、黒髪の少年と白髪の人の方に走っていって、三人でお城のような建物に入っていく場面です。赤い巻き毛の少女の名前は確かミラって呼ばれていました。」
「ミラ!?ミランダのことかな?3人の魔法使いの。」
「たしかにそこだけ聞くとミランダ・ルヴィだな。」
「3人の魔法使いって何ですか?」
「3人の魔法使いはトヤヘリノの有名な魔法使いたちのお話なんだ。
とても優秀な魔法使いがいろいろなことをする子供向けのお話なんだけど、実は実際に大昔にいた魔法使いたちがモデルになっているんだ。他にも歴史書や、研究された内容まで様々なんだけど、作者がわからないんだよね。」
「なるほど、そんなお話があるんですね。」
「あと二つはどんなの?」
「花精霊の槍で見えたのは、リリィさんとクロムさんらしき人が会話している場面です。花精霊の槍をクロムさんが持っていたのでなにか知っているんじゃないかと思って…。クロムさんに話そうと思ったのはこれがきっかけです。」
「僕そんな覚えがないんだけど…。」
「リリィさんに花精霊の槍を見せて、”シルファー・ブラックに会いたい”って言っていましたよ。」
「シルファー…。あ、それクロムじゃなくてアルじゃね?」
「アル?」
「僕の父さん、アルクスのことだよ。それなら辻褄が合うね。」
「あれはアルクスさんという方だったんですね。
紫の魔導書で見えたのは、広い庭で読書するシルファーでした。―――そういえば、シルファーがしていたピン留め、クロムさんがいましているものと同じような物でした。」
「あぁ、これ?このピン留めは父さんからもらったものなんだ。」
「アルがシルファーを探していたのは結構有名な話だからな。たまたまどこかで似たのを見つけて買ったんじゃないか?」
「ダイヤはシルファーに会ったこと無いって言っていたもんね。」
「無ぇな。シルファーのことならサイモンの方が知ってるんじゃないか?」
「だよね…。」
「そういえば、今日フォンシーレの倉庫で思ったんですけど、クロムさんが魔導書を集める理由って何かあるんですか?
前話したときは、集まること自体が重要って言ってましたけど。」
クロムは少し考えているようだ。
多分集める理由について考えているのではなく、俺に話すべきかどうかを考えている。
「ライトになら教えてもいいかもね。」




