32話 紫の景色
「惑星の誘引」
青年がそう唱えた瞬間俺の視界が地面の石畳で埋め尽くされる。
上から押し付けられているというより、下から引っ張られているに近い感覚だ。
いつもの何倍、何十倍もの重力がかかっているのを感じ、体が重く思うように動けない。
俺の周りの地面の石畳が割れ、少しずつ沈んでいく。
なんとか少し顔を上げると、ウィルも俺と同じように地面に引っ張られ、うつ伏せで倒れていた。
もうだめかもしれない。
そう思った時。木の扉が開き、見慣れた箒が目に入る。
その箒が勢いよく銀髪の青年の腹に当たり、青年は後ろに飛ばされる。
青年の足が地面から浮くと同時に魔法が弱まったのか、体が動ごかせる。
青年の持つ魔導書が落ちかけたのを見て、俺は咄嗟に魔導書に飛びかかる。
俺が青年から魔導書を奪うと、それを確認したかのように、飛ばされている青年の後ろに扉が現れた。
扉は白い大理石のようなものでできていて、縁に金の彫刻が入っていた。
その扉が開くと青年は扉に吸い込まれるように飛ばされてしまった。
あの青年はこの戦場から退場させられたのだ。
俺は掴んだ魔導書をギュッと握ると、視界が白み始めた。
霧がかかったような視界の中で誰かが俺に近づき、話しかけてきたが俺には聞き取ることができなかった。
ぼやぼやとした視界の中に緑色が見える。
これは、、木? 広い庭の大きな樹の根本で俺は仰向けになっていた。
体を起こすと少し奥にガゼボと不自然な扉が見えた。
俺はそれに近づき、中を除いてみると、一人の少年が紅茶を片手に本を読んでいた。
よく見ると、その少年は空色の魔導書を持ったときに見えた人だった。
黒い長髪にターコイズの瞳、宝石のようなピン留めをしている。
”宝石のようなピン留め”、、、あのピン留めを俺はどこかで見た気がする。
そんな事を考えていると、この庭に不自然な扉から赤い巻き毛の少女が出てきた。
たしか彼女も空色の魔導書を持ったときに見えた。確か名前は…ミラだ。
「またこんなところでサボってる!」
ミラが言うと、黒髪の少年は本から顔を上げた。
「あいつの授業つまらないし、受けなくてもいい。」
「もともと3人しかいないのに1人サボりで抜けちゃったら先生が可哀想だよ。」
「じゃあ俺も受けたくなるような面白い授業しろよな。」
黒髪の少年は読書を再開した。
すると、扉から長身で白髪の人が出てきた。
「あ、またここにいる。次の魔法薬学小テストがあるらしいから授業来な〜。」
「え、昨日も小テストしなかった!?」
「ミラは魔法薬学苦手だもんな。可哀想に。」
「シルファー教えてよ〜!」
「またかよ…。しょうがないな、クッキー三十枚で許してやるよ。」
「やった!」
3人が扉から出ていくと俺の視界がまた白み始める。




