2話 suspect clock
ベンチから立ち上がった俺は、店が並ぶ屋台のほうへ歩き出した。
(まずは、ここはどういう世界なのかを把握しなければ)
屋台のある道はさっきまでいた公園より人通りが多く、にぎわっている。
動物のような耳やしっぽ、角が生えている人や羽や鱗がついている人もいる。
見た目は俺と同じ人間だが、地に足がついておらず、藍色のローブを羽織っている人も見かけた。あれはきっと魔法使いだろう。
文字や言葉は俺が持っている本の表紙とは異なり、読むことができるし聞いて理解することもできる。
しばらく歩いていると、噴水のある広場に出た。
俺は日よけのパラソルが付いたベンチに座った。季節は春ぐらいだろうかぽかぽかしていて気持ちがいいが、日の下にいると少し熱く感じる。
俺は持っている本を開き中を見てみたが、やはり表紙と同じような文字が使われており、読むことはできなかった。挿絵が入っているが、何の絵なのかはさっぱりだ。
さっきは気づかなかったが、心なしか本がひんやりと冷たいような気がした。
(どうしてだろう。日に当たって俺の体温が上がったからかな?)
そんなことを考えていると俺の前に誰かが立った。
色白で、目と髪が茶色の小柄な男だ。
胸元には時計のようなものが輝いている。
「こんにちは、驚かせちゃったかな?」
「こんにちは。」
思わず、挨拶を返した。
(つながりがどうって人型の光が言っていたのは、この人とのつながりかもしれない)
俺は俺が想像するいい人のように優しく言った。
「どうしたんですか?俺に何かようですか?」
「それって君の本?」
男は俺の持っている空色の本を指さして言った。
「俺こういう書物に興味があるんだよね。少し見せてほしいな」
男は少しかがみ、俺に視線を合わせた。上目遣いで俺を見る姿は幼い少年に見える。
いや、そこにいるのは少年だった。
最初挨拶をしたときは20歳前後の男に見えたが、今俺の目の前にいるのは10歳くらいの少年だ。
俺の目の前に現れ、姿を変えて本を見せてほしいと言うこの男に俺は怪しんだ。
知らない世界で、知らない男に話かけられ頭が混乱していたが、これだけはわかった。
それは、、
”こいつに本を渡してはいけない”