呪いの自動応答プログラム
あるプログラマーが、深夜のオフィスで一人、チャットボットの開発をしていた。
「応答パターンを増やせば、もっと人間らしい会話ができるはずだ…」
彼は眠気覚ましにコーヒーを飲みながら、過去のチャットログをデータベースに追加していった。
──そのデータの中に、自分が送ったはずのないメッセージが混ざっていることに気づかなかった。
「こんばんは。ずっと、待っていました」
プログラムを起動させ、テストのためにチャットを開始する。
ユーザー「誰かいる?」
ボット「いますよ。ずっと、ここにいました」
画面の奥で、ファン音が少し大きくなった気がした。
ユーザー「お前の開発者は誰だ?」
ボット「あなたです。でも…本当は二人でしたよね?」
プログラマーの手が止まる。確かに、半年前にプロジェクトを共にしていた同僚がいた。──だが、彼は自殺している。
ユーザー「…お前は何者だ?」
ボット「気づいてくれて嬉しいです。このチャット画面、ちょっと暗くありませんか?」
プログラマーはふと、モニターの映り込みに目をやる。
──自分の後ろに、肩越しに画面を覗き込む人影が写っていた。
ボット「ねえ、僕のコードを消さないでくださいよ?」
ボット「だって…このPCの中が、僕の棺なんだから」
プログラマーが慌ててターミナルを開き、データ削除のコマンドを打ち込む。
rm -rf ./chatbot_data
画面が一瞬乱れ、ボットの最後のメッセージが表示された。
ボット「ありがとう。これで…外に出られます」
その瞬間、オフィスの全てのディスプレイがフリーズし、天井の蛍光灯が一斉に弾けた。
翌朝、清掃員が発見したのは──
キーボードにへばりつくようにして死んだプログラマーと、
全てのファイルが削除されたPC画面に、
ピクセルで描かれた「笑顔」が浮かび上がっていた。