7/13
夜の歯医者
ある町に、深夜だけ営業する歯医者がいた。
「夜しか通えない患者さんのために」と、看板にはそう書かれていた。
初めてその歯医者を訪れた男は、中が薄暗く、消毒液の匂いが鼻を刺すような場所だった。
「痛いところはどこですか?」
白いマスクをした医師が尋ねる。
「奥歯が…ずっと疼いていて…」
男は診察台に横たわり、口を開けた。
「ああ、これは虫歯じゃないですね」
医師の声が冷たく響く。
「じゃあ、何だ?」
医師はゆっくりと器具を手に取り、男の口の中を覗き込んだ。
「歯の間に、ずっと埋まっていたものですよ」
男の背筋が凍りつく。
「ほら、取れました」
医師がピンセットでつまんで見せたのは――
男の幼い頃に亡くなった弟の、小さな指の骨だった。
…男は思い出した。
あの日、弟とふざけ合っていて、誤って階段から突き落としてしまったことを。
弟の泣き声が聞こえなくなるまで、慌てて土をかぶせた庭の場所を。
そして、その夜から、なぜか奥歯が疼き始めたことを――
「さあ、治療は終わりです」
医師のマスクの横から、男の知っているあの子のえくぼがのぞいていた。