施設の脱走者
俺の地元には、昔から不気味な噂がある施設があった。山奥にあるその建物は、今は廃墟になっているが、かつて精神病院だったらしい。
「夜中に、そこから“脱走者”が出ることがある。でも、決して声をかけてはいけない」
そんな話を聞いて、俺と友達は肝試しに行くことにした。
深夜0時、懐中電灯を片手に施設の前まで来ると、扉は固く閉ざされていた。しかし、中からかすかに足音が聞こえる。
「……カチャ、カチャ……」
金属がこすれるような音。そして、誰かが廊下を歩く気配。
「おい、やばくね?」
友達が小声で言ったそのとき、ガタリと扉が揺れた。
俺たちは慌てて物陰に隠れた。
扉がギギィ…と開き、そこから誰かが出てきた。
白い病衣を着た男。頭を左右に振りながら、ゆっくりとこちらに近づいてくる。
「……見つけた……」
その瞬間、友達が悲鳴を上げて走り出した。俺も慌てて逃げた。振り返ると、男は追いかけてこなかった。ただ、施設の前に立ち尽くし、こちらをじっと見ていた。
それから数日後、その施設が完全に取り壊されたというニュースを見た。
だが、それ以来、俺の家の近くで、夜中に「カチャ、カチャ……」という金属音が聞こえるようになった。
まるで、何かがまだ“脱走”しようとしているかのように。