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階段の会談
大学のサークル仲間と合宿に行ったときの話だ。泊まったのは、山奥の古い旅館。そこには、ある噂があった。
「夜中に階段で誰かが話している声が聞こえる。でも、決して覗いてはいけない」
最初はみんな笑っていたが、夜中になると、俺は確かに聞いた。
ひそひそと話す声が、階段の方から聞こえてくる。
「……まだ足りない……」
「……もっと必要……」
薄暗い廊下をそっと覗くと、階段の中ほどに何人かが座っているのが見えた。全員、うつむいたまま、何かを話している。
「……あそこにいる……」
突然、声が止まり、全員が一斉にこちらを向いた。顔は、ない。ただの黒い穴がぽっかりと開いている。
俺は悲鳴を上げ、部屋に逃げ込んだ。
翌朝、仲間に話しても誰も信じなかった。しかし、旅館の主人がボソリと言った。
「ああ、また誰か見たのか……。あれはね、階段で事故に遭った人たちの会談なんだよ。仲間を増やそうとしてるんだ」
それ以来、俺はどんなに気になっても、夜中の階段を覗かないことにしている。