ヘルニアの夜
ある寒い雨の夜、疲れ切った整体師・森田は、最後の患者を診終えて施術所の片づけをしていた。
「ああ、今日もヘルニアの患者が多かったな……」
最近、森田の元には「原因不明の腰痛」を訴える患者が増えていた。レントゲンには異常がないのに、激痛で動けなくなるという。奇妙なのは、全員が「背中に冷たい手が触れたような感覚があった」と口を揃えて言うことだった。
片づけを終え、森田は施術台に腰を下ろして一息ついた。その時──
ギシッ……
不意に施術台が軋んだ。
「……誰かいるのか?」
振り返っても誰もいない。しかし、ふと自分の腰に鈍い痛みが走った。
「なんだ……まさか俺までヘルニアか?」
次の瞬間、背中に氷のように冷たい指が這うのを感じた。
「ッ……!?」
振り向こうとするが、体が動かない。まるで何者かに押さえつけられているようだった。
そして、耳元でかすかな囁きが聞こえた。
「……ずっと、痛いでしょう……? 私と同じように……」
鏡を見ると──そこには首の曲がった女が森田の背中にへばりつき、椎間板を引き抜こうとする手が見えた。
翌日、森田の施術所は閉鎖された。彼は消息不明となり、代わりに施術台の下から「30年前に行方不明になった女性整体師」の遺骨が見つかったという。
彼女は、重度のヘルニアに苦しみながら、誰にも看取られずに亡くなっていたのだった……。
(……あなたのその腰痛、本当に「ヘルニア」ですか?)




