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第2話 午後のお茶会。

離宮は王都のはずれにある。

森に囲まれているが、風が良く通る。


「来たか、アグネス。お茶にしよう。」


今日はうちのメイド派遣協会のオーナーとのお茶会。

随分とお年を召したな…今の王の祖父がにこやかに笑いながら、席を勧める。

執事に椅子を引いてもらって、座る。この方がお気に入りの森が見渡せる席。


「随分と年月が経ってしまったが、元気だったか?」

「おかげさまで。毎日若い子に囲まれて、楽しく暮らしております。」

「お前の髪は…やはり、戻らなかったのか?」


若い頃は自分で言うのもなんだが、美しい銀髪だった。

2度目の夫がはやり病で亡くなったとき…一晩で白髪になってしまった。


「何をおっしゃいますか。私ももう、随分と年を取りましたから。」

「娘のわがままのために、お前にはしなくていい苦労をさせてしまったな。」

「・・・・・」


私のおじさまに当たるこの方は、会うと必ず昔話になる。もう、何十年も前の、どうしようもない過去だ。何と答えれば正解なのか、いまだにわからない。


この方の治世の最盛期、華国との交易を望んだこの方は、華国の皇帝に娘を嫁がせることにした。国王の命令は絶対だ。しかし、娘は拒んだ。

娘可愛さに白羽の矢が立ったのは、この方の弟の娘、私だった。あのとき、まだ15歳。皇帝は60歳。拒否権はなかった。

もちろん、正妃ではない。後宮の側妃の一人として、私は華国で7年間過ごした。

皇帝が崩御して、子のできなかった私は国元に返された。

そして…王命で再婚。

お相手は20歳以上も年上だったが、大事にしてくれた。

ただ、子はできなかった。

夫がはやり病で亡くなったとき、夫の弟が領主になった。

私は一晩で、何もかもなくして、再び実家に戻った。その時…綺麗だった私の銀髪は真っ白になっていた。


誰も恨めない。


子のいない、男の子を生めなかった女には、いる場所もないのか?


そんなのおかしいと、誰に言えばよかっただろう?


帰ってからも、後妻にどうかと縁談はあった。私は王家筋だったから、利用価値があったのだろう。

私は…もう結婚という選択をしなかった。


この方に許可を得て、王城で侍女として働いた。

名前も替えた。


何年か後に、この方の孫にあたる王子が生まれたので、教育係に推していただいた。

王子が王立学院の中等部に上がるのを見届けて、メイド教育と派遣を生業とする派遣会社を立ち上げた。その時に資金援助してくださったのが、この方。


憐れんだのか、同情だったのか?


利用価値を見抜いていたのか?


私の派遣協会は、王家と表立っての付き合いはないが、彼らが流してほしい情報を流し、消してほしい情報を消した。


前回、アーダが掃除したアルミン男爵家。お相手のベンノ子爵家が領地内で掘り当てた炭鉱の採掘に一枚かみたい王家からの依頼。結果、子爵が王に寄せた信頼により共同採掘の準備が進んでいる。


そうそう、イザーク伯爵の掃除では、娘を助け出して、ヴィム子爵に恩が売れた。あそこは豪商。華国からの輸入を一手に担っている。いい具合にお近づきになれたんじゃないかしら?新興の貴族は、王家に反発するところが多いから。


今、この国は子爵いぐらいの小回りの利く貴族が力を蓄え始めている。古参の高位貴族は、相変わらずその地位に甘んじようとしているように見える。



たかがメイドであるが故、諸侯の屋敷に深く潜入し、ありとあらゆる情報を手にすることもできた。

場合によっては…手を汚すこともある。

もちろん身を守るために必要な術は教え込む。上級者は、それ以上のことも。

後始末は王家に任せている。


まあ、ここのところ、そこまでの事案はないけれど。

平和ボケしていますよね。



「孫の妃のことなんだがな…。」

言いにくそうに、その方が話し出す。

「もう随分と立つが子に恵まれない。」

「・・・そうでございますね。社交界でも、もうそろそろ側妃を考えるべきだとささやかれておりますね。」

「そろそろ考えねばなあ。」


出されたお茶を飲む。

さわやかな草原の香り。


「同じタイミングでモーリッツ公爵家の嫡男の嫁問題もございます。公爵家に先に男子がお生まれになると、少々厄介かと。」

「・・・あの子は…どうするつもりだ?」

「・・・一度誘拐されてしまった令嬢は、何がなくても傷者扱いです。よくご存じでしょう?社交界には戻れないでしょう。それに、なぜあの子が誘拐されたのか、目的も犯人もわかっておりません。生家に戻しても、危険でしょう。本人も公爵家に嫁ぐのはあきらめているようですし…。」

「そうか…ではやはり、あそこにはドーリス侯爵家から娘を出すことになるか?」

「それも噂がかなり流れておりますね。どうされますか?いかようにでも。公爵家は嫡男が王の補佐を任されておりますので、社交をはじめ家の事、領地のことも管理できる娘、となると、やはり限られてまいりますのでね。」


「・・・ふむ。」


あの…誰にも何も言わせなかったような迫力は今はない…一人の老人を眺める。

孫嫁を気にかけるような、それでいて、いいように国を動かそうとしているような…。


この人も、年老いたな…。











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