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第1話 休日。
アーダがエーファ伯爵邸から戻った。
愛人の子を引き取って育てていると聞いてはいたが、そんな事情だったのか。
今は奥様付きの侍女が解雇したメイドたちが戻ってきたらしい。
貴族にかかわらず、嫁ぎ先で子供が生まれないのはつらい。
夫を愛しているかどうかは関係なく、女として全否定されてしまう。もちろん、それでも養子を迎えたり、何らかの方法で家を継続する必要がある。貴族社会では3年子ができないと離婚してもいいという、暗黙の了解もある。
愛人、側室、呼び名はいろいろだが、違う女に跡目を生んでもらうのも、まあ…手段の一つだ。
今回は特殊ね。自分の代わりに出産してもらって、実子として育てる気らしい。
ふうっ…
女は大変だわよね。男に原因がある場合だってないわけじゃないのに。
今…あの子は25歳。針の筵ね。
よく知っているイングリットの姿を思い浮かべる。王妃ともなると、子ができないのは国の一大事になるわね。
アグネスは報告書から目を離して、眼鏡をはずす。
窓の外は初夏。緑が濃くなってきた。