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狂気の令嬢復讐譚 ~愛も忠誠も裏切りも、すべてが血に染まる~  作者: ぱる子


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第16話 裏切りの連鎖②

 その奥からレオンハルトが現れ、シャーロッテも隣で優雅に微笑む。二人とも堂々たる態度で、リディアを迎え撃つ形だ。


「よく来たな、愚かな伯爵令嬢め。お前を殺すのも手だが、まずはせいぜい苦しんでもらうか」


「私たちを殺す? そっちが先に死ぬのよ!」


 リディアが吠えるように怒鳴り、シエラは無言で護衛に向かって短剣を構える。奇襲の利は完全に失われたが、もはや彼女らには退くことなどできない。


「シエラ、やるわよ! 一人でも多く殺す!」


「はい、リディア様――!」


 シエラが突進し、近くの護衛を躊躇なく斬りつける。悲鳴とともに血が飛び散り、場が一気に戦場と化した。護衛たちも容赦なく武器を構え、シエラを取り囲んで攻撃を繰り出す。小柄で俊敏な彼女は、くるりと回転して一人の胸を短剣で深く突き刺し、倒れた敵の剣を奪うと二刀流のように振るいはじめる。


「きゃはは、いいわね、伯爵家の侍女はこんなにも凶暴なんだ」


 カトリーヌが離れた位置で面白がるように拍手するが、リディアは聞く耳持たず、別の護衛に向かって猛然と突っ込んだ。だが、彼女の戦闘経験はシエラほどではない。護衛が軽く受け流すと、リディアはバランスを崩して体を回転させる。

 追撃が来る前にシエラがカバーに入り、相手の腹部に斬撃を入れて怯ませたが、多勢に無勢。レオンハルトの側には更なる兵がいて、隙を与えない。


「シエラ、大丈夫……?」


「はい、何とか……っ!」


 シエラは何人もの護衛を倒しながら奮戦するが、刀身を受け止める腕が震え、かすり傷を負う。複数の敵を同時に相手にするのはさすがに厳しい。リディアも必死に短剣を振るうが、そのうち一人の護衛が背後から襲いかかり、肩を浅く切り裂かれて痛みに声を漏らす。


「ぎっ……く、うう、こんなの……まだっ!」


 血がじわりとドレスの袖を染め、鈍い痛みが走る。それでもリディアは倒れるわけにはいかない。ここで死んだら、憎きレオンハルトとシャーロッテを道連れにできないから。


「ふん、無様だな、伯爵令嬢。恨むなら自分の脳の足りなさを恨め。お前はもう終わりだ」


 レオンハルトが冷笑とともに進み出る。シャーロッテは隣で「リディア様、お気の毒だわ」とわざとらしい慈悲の声をかけて笑っている。カトリーヌは更なる興奮を期待し、拍手を再開する。


「さあ、リディア。まだ暴れてみせてよ。もっと狂ってあがく姿を私に見せて」


「このっ……ふざけんなぁぁ!」


 リディアは二刀を構えたシエラと一緒に突撃するが、敵の数が圧倒的すぎる。シエラは複数の護衛を倒し、負傷しながらもギリギリ立ち回っているが、まったく状況が好転する兆しはない。


「リディア様……すみません、少し辛いかもしれません」


 シエラの息が荒い。腕に深い切り傷を負いながらも剣を構え続けているが、このままでは長くもたない。リディア自身も肩の痛みに力が入らず、再び敵の一人に弾かれ、転倒しかける。


「く……っ、こんなのって……!」


「愚かな娘。お前の復讐心もここまでよ」


 レオンハルトが護衛を従えてリディアに近づく。シャーロッテが薄い笑みを浮かべ、カトリーヌは遠目で「もう終わりかしら?」と勝手に楽しんでいる。そこには伯爵家の命運や親子の絆など、微塵も存在しない冷酷な嘲笑があるだけ。


「なぜ、カトリーヌ……? 本当は……私の……友達だったのに……」


「友達? うふふ、そう思い込んでいたのね。ごめんなさい、私、他人の破滅を見るのが大好きなの」


 カトリーヌの残酷な宣言に、リディアは言葉を失いかける。しかし、シエラが血を流しながらリディアの背中を支え、かろうじてその体を起こす。


「リディア様……逃げましょう。ここにいたら、本当に全滅する」


「……でも、奴らを殺さなきゃ……」


「今は無理です。まだ機会はあります」


 シエラが必死に説得する。実際、ここで立ち止まれば、本当に二人とも殺される未来しかない。護衛は既に包囲態勢を取り、レオンハルトやシャーロッテは好機を伺っている。

 リディアは無念に唇を噛むが、仕方なくうなずき、シエラの手を借りて立ち上がる。その刹那、数名の護衛が突撃してきたが、シエラが持ち前の身体能力で一瞬の隙を作り出し、投げナイフを投じて距離を取る。


「くっ……追え! 逃がすな!」


 レオンハルトが吠えるが、シエラが撒き散らす投げナイフや煙幕のような小道具が敵の視界を乱す。二人は血だらけのままよろめきつつ廊下を駆け上がり、裏口へ向かう通路を全力で走る。


「止まれ、伯爵令嬢!」


「下がれ、このっ!」


 シエラが短剣を振り回して威嚇し、追っ手の護衛の動きを一瞬止める。その隙にリディアも軽く蹴りを放ち、どうにか裏口方面へ逃げ込んだ。カトリーヌが高笑いする声が遠くから聞こえるが、まともに相手をする余裕などない。


「くそっ……シエラ、大丈夫? ひどい傷を負ってるじゃない」


「わたくしは……平気です。まだ動けます……」


「ごめん、こんな失態……でも、今は逃げるしかないわ」


 二人は涙と血をまき散らしながら、なんとか裏口の扉を突き破るように外へ飛び出す。まわりにはレオンハルトの手下らしき者が配置されていたが、狂気じみたシエラの斬撃がぎりぎりのところで道を切り開く。その中でリディアも敵の腕を短剣で切りつけ、悲鳴をあげさせる。

 なんとか邸宅の敷地を脱出した二人は、夜の闇へ駆け込むように逃亡を開始する。顔をあげれば月が白々と笑っているようだ。背後では「追え!」「あいつらを逃がすな!」という怒号が響き渡り、まさに袋の鼠状態。しかし、それでも諦めるわけにはいかない。


「シエラ、ごめん……このまま逃げるわよ!」


「り、了解……少しだけ辛いですが、まだ走れます……!」


 リディアがシエラを支える形で走り、後ろから迫る敵の足音と怒声が着実に近づく中、森の暗闇に身を沈めるように必死の逃走を続ける。呼吸は荒れ、体中の傷が痛むが、ここで倒れれば本当に“終わり”。

 こうして暗殺計画は再び失敗に終わり、血と屈辱だけが残った。レオンハルトやシャーロッテはほぼ無傷で笑い、カトリーヌの二重スパイ行為は明白になった。恨みは増大し、リディアの絶望も深まる一方だ。


「なぜ、カトリーヌ……あなたは……」


 リディアの嘆きが闇夜に溶ける。シエラは必死に痛みをこらえつつ、「もう一度、機会を作ればいい」と自分を奮い立たせるようにつぶやく。

 背後では、騒ぎを聞きつけた護衛たちが懸命に追跡を続けているようだ。次に捕まれば、死は確実。しかし、このままでは伯爵家の行く末も二人の命運も風前の灯。

 夜の闇が二人を飲み込み、血の匂いが混ざり合った冷たい風が森を揺らす。もう後戻りはできない。リディアとシエラは絶体絶命の逃亡を余儀なくされるが、ここで朽ちることを認めるわけにはいかない。父も捨て、カトリーヌを恨み、レオンハルトとシャーロッテへの激しい怒りを新たに刻んだ彼女たちは、さらなる狂気を胸に駆ける。


「シエラ、死んじゃだめよ。絶対に生きのびる。今度こそ……奴らに止めを刺すために!」


「……はい、リディア様。私、あなたのために、まだ……走ります!」


 こうして狂乱の夜は終わりを告げず、未だ闇の中で続いている。二人は傷つき、次回以降の波乱が確実に待ち受ける中、血塗られた夜の罠から必死に逃げおおせようと足を動かす。

 そして森の奥へ消えゆく彼女たちの背後で、カトリーヌは「ばいばい、リディア。生き延びて、また楽しませてね」と、ふざけた口調で一人つぶやく。狂った世界がさらに深い地獄を生み出す前夜は、まだ何も終わってはいないのだ。

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