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狂気の令嬢復讐譚 ~愛も忠誠も裏切りも、すべてが血に染まる~  作者: ぱる子


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第15話 最後の暗殺計画②

 カトリーヌもまた、独自に最後の準備をしていた。深夜の薄暗い部屋で、クリーム色のドレスを選びながら、心の底で快感に似た笑みを抑えきれない。


(さて、“最終計画”ね。リディアが本気でレオンハルトを殺そうとするなら、私はそれをちょっとだけ手伝ってあげる。失敗しようが成功しようが、どちらにせよ素敵な惨劇が見られるわ)


 勝ち組は誰か、まだわからない。リディアが成功すれば、公爵家が血に塗れて崩壊するだろう。しかし、レオンハルトの護衛網が勝てば、リディアが無様に散る。それを近くで見届けて笑うのがカトリーヌの楽しみだ。狡猾に振る舞い、どちらにも大打撃を与えるような情報操作をしてきた成果がここで爆発する。


「どんな結末でもいいわ。どうせみんな頭がおかしいんだから、華々しく散ってちょうだい」


 独り言が虚空へ溶け、夜の闇が部屋を包み込む。カトリーヌの瞳は獲物を観賞する外道な輝きに満ちていた。


    ◇ ◇ ◇


 “最終計画”の数日前。リディアは伯爵家の廊下でシエラとともに動き回り、武器と毒薬の点検、そして逃走ルートの確認をしていた。かつてはこんな露骨な暗殺準備など想像できなかったが、今は誰も彼女を止めない。伯爵家は父と娘に分裂し、管理能力すら失われているのだから。


「今度のパーティは夜遅く始まるらしいわ。舞踏会ほど大規模じゃないけど、貴族が集まるフォーマルな宴。レオンハルトやシャーロッテが必ず姿を見せると、カトリーヌが言ってた」


「もし嘘ならどうします?」


「嘘なら嘘で、あの女が裏切ったってことになる。どのみち、次が本番よ。これで決めるんだから」


 リディアはキッと歯を食いしばり、拳を握る。狂気じみた殺意が体内を巡り、彼女自身の体温を上げているようにすら感じる。


「もし成功すれば、あの男と女が死ぬ。私の怨みは消えて、伯爵家がどうなろうと知ったことじゃない。逆に失敗すれば……」


「いえ、失敗はあり得ません。今回わたくしが本気で仕留めます。絶対に狙いを外しません、リディア様」


「期待してるわ、シエラ。あなたこそが私の唯一の味方……ね」


 そう言うと、シエラは深く一礼して微笑んだ。すでに用意された短剣と毒、加えて逃亡を手助けする部下が数名。彼らも裏でシエラがまとめている。アルトゥーロには知らせていない。知らせれば邪魔されるのがオチだから。


    ◇ ◇ ◇


 そして夜。パーティが行われる屋敷では、いつもより控えめな光が灯っていたが、内部にはドレス姿の貴族たちが集まっていた。大規模ではないとはいえ、一定の名士が顔をそろえる場であり、レオンハルトもシャーロッテを伴って余裕の笑みで登場した。


「……あの伯爵家がどうなろうと、俺には関係ないが、とりあえず迎え撃つ準備は万全だ」


「うふふ、リディアがどこで飛び出してくるか見ものね。楽しませてくれるかしら?」


「まぁ、万が一ってこともあるから護衛を敷いてるが、俺がやられるはずもない」


 自信たっぷりな二人は、まるで一瞬の油断が命取りになるとは考えない。いや、考えたとしても、状況は彼らにとって有利に違いない。

 そんな彼らの視線の先には、カトリーヌが艶やかな笑みを浮かべて歩み寄る姿がある。彼女がいったい何を計画しているか、二人ともわかっていないが、情報を流してくれる“便利人形”という程度の認識だ。


(さあ、リディアは来るかしら。わたくしが誘導してあげるわ。もし殺されるようなら、レオンハルトもシャーロッテも不運だと思うしかない)


 カトリーヌが扇子で口元を隠して微笑む。すでに狂乱の舞台は整いつつある。パーティ会場を照らすシャンデリアの光の下、今度こそリディアが最後の暗殺計画を実行する――。


    ◇ ◇ ◇


 同じ夜、屋敷の裏手では、リディアとシエラが闇に紛れて待機していた。カトリーヌは中からうまく二人を誘導すると言っているが、リディアはまだ全幅の信頼を置けない。しかし背に腹はかえられない。チャンスを逃すわけにはいかないのだ。


「シエラ……全力でやるわよ。今夜こそ終わりにしてあげる」


「はい、リディア様。私も手は抜きません。二人とも確実に殺します」


「たとえカトリーヌが裏切ったとしても、今回は私自身が直接レオンハルトに刃を突き立てる。あいつがいくら護衛を増やしたって、隙はあるはず」


 互いに目を合わせ、手を取り合う。薄暗い月光の下で、狂った決意が結晶となる。伯爵家の滅びを前にしても、リディアの心は「レオンハルトとシャーロッテを地獄へ落とす」という一点にしか向かない。

 そしてシエラは、そんなリディアを絶対的に信奉している。父を捨て、屋敷を捨て、自らが血を浴びる覚悟を固めているのだ。


「最後のチャンス……絶対に成功させてみせる」


 リディアの瞳に映るのは、敵の死に際だけ。救済や情など欠片も残っていない。もし伯爵家が明日にも滅びようとも、彼女にとってはどうでもいいことなのだ。自らの手で宿敵を屠る――それだけが生きる理由だった。


 こうして二人は、再び血の暗幕へ足を踏み込む。「父は当てにならない」と腹をくくり、愛憎をすべて殺意に変える。カトリーヌも絡み、レオンハルトとシャーロッテは待ち受け、最後の暗殺計画は最高潮の緊迫感を孕む。

 その夜、まだパーティが始まる前の静かな裏庭で、リディアとシエラは目を見交わし、邪悪な決意に満ちた微笑を交わした。


「今夜こそ終わりにしてあげる……ね、シエラ」


「はい、リディア様。すべてはあなたの手の中にあります」


 まるで悪魔の契約でも結ぶかのように手を握り合い、闇へと消えていく。伯爵家の未来など、もはや誰の眼中にもない。この最終決戦で、誰が生き残り、誰が死ぬのか――その答えは血で血を洗う惨劇の先にしかない。


 狂った世界がさらに狂気を加速させる。復讐と裏切りの連鎖が最終地点へと突き進む深夜、リディアの胸には激しい鼓動と絶対的な殺意が渦巻いていた。ドレスの裾に隠された短剣の冷たさが、彼女の肌に鋭く触れている。

 父の破滅を横目に、伯爵家令嬢は自らを鬼神へと変えていく。これが“最後の暗殺計画”だ。そもそも、失敗などありえない。もし再びつまづけば、全てを失ったまま敵に嘲笑される――そんな屈辱を、リディアの自尊心は決して許さない。


 こうして幕は上がる。伯爵家の狂奔、リディアとシエラの血の約束、カトリーヌの謎の協力、そしてレオンハルトとシャーロッテの罠。誰もが破滅の風に煽られ、運命の針は真夜中を指して進みゆく。


 次回、その惨劇は否応なく顕在化し、血と狂乱の宴が繰り広げられるだろう――。

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