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狂気の令嬢復讐譚 ~愛も忠誠も裏切りも、すべてが血に染まる~  作者: ぱる子


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第5話 公爵家の実態②

 退屈そうに見えたレオンハルトは彼女の腕を軽く撫で、再び酒を口に運ぶ。ダラダラとした時間を潰すこのサロンこそ、彼にとっては一時の安息の場だ。けれど、同時に新たな狩りの計画を練る場でもある。公爵家の権威を利用できる身分と財力があれば、容易く裏社会を動かせるからだ。


「にしても、リディアとの婚約破棄は当然の結果だったな。あんな傲慢な令嬢、最初から長続きするわけがない。ちょっと遊ぶにはいいが、真面目に相手をするほどでもない」


「うふふ、そうでしょう? あの娘は身分と自尊心をこじらせていただけよ。あなたにはもっと相応しいお相手がいるのだから……たとえば、私のような?」


「お前もよく言うな……」


 レオンハルトはシャーロッテの唇をつつくように指先を当てる。シャーロッテは仕種を変えてさらに寄り添い、周りの女性たちを牽制するように視線を送る。

 その光景を取り巻きの愛人たちは苦々しい思いで眺めているが、誰も口に出さない。レオンハルトが本気で気に入っているのはシャーロッテだとわかっているから、波風を立てたくないのだ。


「でも、レオンハルト様。あなたもアルトゥーロ伯爵に気をつけたほうがいいですよ。裏でどんな仕掛けをしてくるか、わかりませんもの」


「問題ない。あいつが何か仕掛けるなら、こちらも王宮を巻き込んで粉砕してやるまでさ。公爵家に逆らう奴は皆、潰してきたからな」


「まあ、何て頼もしいの」


 シャーロッテは声を上げて笑う。彼女の内面には、レオンハルトを手玉に取る自信がしっかりと芽吹いている。今はその権勢を利用する形だが、いつかはもっと大きなものを手にする――そんな企みを秘めているのだ。

 実際、伯爵家を陥れて公爵家の威光をさらに拡大させることは、シャーロッテにとっても利益が大きい。アルトゥーロが隠し持つ利権や資金源を奪い取れれば、レオンハルトとともに絶対的な地位を築ける。


「なあ、シャーロッテ。お前、伯爵家の連中がどう転ぶか想像してみろ。リディアがどんなに復讐心を燃やしたところで、俺には何もできない。笑えるな」


「ええ、本当に……。想像しただけで、かわいそうなくらい」


「はは、同情するのか?」


「いえ、むしろ早く追い詰めてあげてほしいと思ってるだけ。私の手が及ぶ前に、あなたが全部を壊してくださるなら、それはそれで素敵ですもの」


 シャーロッテの言葉に、レオンハルトは「お前も悪趣味だな」と苦笑する。二人は同じ穴の狢――相手を破滅させる快感に酔いしれ、その先にある支配欲を満たしたいだけ。

 そんな彼らの周囲で、音楽がさらに激しく響く。ヴァイオリンやチェンバロの調べがサロンを満たし、愛人たちが笑いさざめく。華麗に着飾った女たちと、美酒を振る舞う使用人たち。見た目は華やかな宴に違いないが、その裏側は毒と利害で渦巻く歪んだ世界だ。


「そろそろ面倒になってきたな……。おい、もう少し刺激のある遊びはないのか?」


 レオンハルトが取り巻きに声をかける。その言葉に「もう少し盛り上げようじゃありませんか」と笑みを浮かべる女たち。高価そうなカードゲームのセットが運ばれてくる音が聞こえる。やがて部屋は大人の玩具と化し、夜に向けてさらに狂騒がエスカレートしていく。


「レオンハルト様、ご一緒に」


「まあ、少しだけ相手してやるか。……シャーロッテ、お前はどうする?」


「私は端であなたの雄姿を拝見させていただきますわ」


 シャーロッテは微笑みを浮かべたまま、ソファに腰掛ける。その笑みの下では、さらなる策略が脈打っている。どれほどの高級娼婦や愛人が集まろうと、彼女にとっては大した問題ではない。真の目的は、公爵家を手のひらに収めて“女帝”となることだ。

 いつの日か、レオンハルトすらも思い通りに操れる未来を夢見て……今は鷹揚に観察するのみ。


「さあ、楽しみましょう、レオンハルト様。どうせなら派手に伯爵家を叩き潰して、ご気分を晴らせばいいんですよ」


「わかってるさ」


 レオンハルトは投げやりに言い放つが、目の奥には冷徹な光が宿る。彼もまたシャーロッテに対して「ただの愛人」としか思っていない。互いに利用し合う関係がいつまで続くかは不明だが、少なくとも今は利害が一致しているのだ。

 周囲の嬌声が大きくなる。グラスに注がれた酒が満たされ、カードの札がテーブルに散らばる。視線を絡ませながら、女たちが微笑み合う。

 この華麗なサロンは、飽きるまでレオンハルトが嗜む遊び場でしかない。破産者が出ようと、命を賭ける者が出ようと、そんなものは些細な事件にすぎないのだ。


「うん……そうだな。リディアなどもう眼中にないし、伯爵家ごと潰してやるとするか」


 言葉の端に悪意が染み出る。その宣言は静かにサロンを浸し、シャーロッテは愉快そうに微笑む。

 遠からず迫る伯爵家との激突。その余波がどれほど悲惨なものになるか、レオンハルトもシャーロッテも全く恐れてはいない。むしろ、その混沌の中で誰が地獄を見るのか、心待ちにしているかのようだ。


 夜は更け、サロンの狂宴は続く。だが、その華やかさの裏には確実に不穏な暗雲が立ち込めていた。レオンハルトが放った一言――「伯爵家ごと潰してやる」は、いずれ大きな波乱を引き起こす火種となる。

 リディアとアルトゥーロの伯爵家、シャーロッテと共謀するレオンハルト。互いの野心と恨みがぶつかり合うとき、そこには血と絶望しか生まれない。そんな狂気の序章が、今まさに公爵家のサロンで静かに幕を開けようとしていた。

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