私が宇宙人?いったいなんの漫画?
しばらくポカーンとしていたミリアだったが、すぐに我に返った。
そして二通の封筒をもち家の中に入った。
家には誰もいなかったが、ミリアにはちょうど良かった。自分の部屋に入ると扉をしめ、机上に手紙を広げた。
まず一通目。
『無事にこれが届くことを祈る。俺は君の父だ、事情があって君がうんと小さい時に離れてしまったが、大人になる頃に迎えにいくつもりだった』
「……」
どうやら、父と名乗る者の近況を示すものらしかった。
あまり上手でない手書きのものだが、インクがちょっと風変わりなものだった。緑のようでもあり黒のようでもあり、あまり見たことのないもの。
それに手紙もそうで、具体的なことは何も書いてない。
ただ元気にやっている事と、いつか会いに行くから、お母さんと元気にやっておくれというものだった。
そして。
(お母さんのことが伝わってない?)
そして、返事を書く時の宛先もあった……なぜか東京で、働いている会社の日本支社みたいなところらしい。そこに送ると転送してもらえるそうだ。
直接郵便が送れないとは、いったいどんな場所なのだろう?
いや、そもそもそれ以前に、さっきのクルマ?と猫の配達人だって色々とおかしい。
状況や言われたことをまとめると、この手紙は宇宙から──しかも太陽系の外から届けられたことになる。
そんなバカなと思うミリア。
けど、フラッシュバックした記憶のかけらみたいなものが、その常識的な否定を許さない。
(まったくもう、意味がわからないわ)
だけど、なぜかドキドキするのも事実だった。
そんなミリアの疑問は、二通目を開封して氷解する事になった。そう……読めない文字で書かれていた方の手紙だ。
手紙は普通に切って開封するものではなかった。開け方は裏面に記載してあったが、これすらも読めない文字で書かれていた。
特定の言葉を唱えると、封を切らなくても中が読めるらしい。
どうやら、この言葉がわからない者には開けてほしくないようだ。
手紙を手にもち、そして指示されたように目を閉じて、その言葉を紡いでみた。
『わたしは読み手。この中身を読みたいので頭の中に投影せよ』
その瞬間、頭の中に映像が浮かんだ。
◆ ◆ ◆
それは見知らぬ街だった。
ミリアが見たこともないような超近代的な町。
行きかう人々に混じり、さきほどの猫の人に似た、ネコ科やトカゲなどの動物頭の人たちも見える。
(なにこれ、ファンタジー映画?)
そして。
『この映像を見ているということは、言葉がちゃんと読めたようだな』
「!」
振り向くと、そこにはひとりの男性が立っていた。
なぜか意味のわかる、でも知らない異国語で話しているのは……ミリアの遠い、遠い記憶のままの人だった。
「おとう、さん」
『ああ、少しだけ訂正しておくね。
私は君のお父さんであるユービ・オルクスから、君に手紙を届けるメッセンジャーだよ。
見た目はたしかに君のお父さんそっくりにしているし、口調も真似ているけどね』
フフフと楽しげに笑うのは、ミリアの記憶の中にいる人物によく似ていた。
『これは「通話方式」の手紙といってね。
手紙を読むというより、直接相手と話すようにやりとりできるのが特徴かな。
知りたいことだけを聞きたいなら質問すればいいし、全て聞きたい時には全て話してと言えばいい。どうする?』
「すべて話して」
『わかった』
映像の中の人……メッセンジャーは微笑み、そして話しはじめた。
『どうやら通話方式に馴染みがないようなので、第三者モードで話すことにするね。
まず君は知らなかったかもだけど、君は地球人と、それからボルダ人のハーフなんだ。ユービさんとアキさん、君のお母さんとのね』
「……」
おまえは宇宙人ハーフと言われているのだけど、ミリアにはあまり実感がなかった。
自分は父と母の娘、それでいいというのがミリアの正直な気持ちでもあった。
『そういえばアキさんの反応がないね、一緒にいないのかい?アキさんは何をしてるの?』
こっちもか。ミリアはためいきをついた。
相手が手紙では話しても意味ないかもしれないが、言わずにはいられなかった。
「おかあさん、死んじゃったよ」
『アキさんが死んだ!?なんだって!?いつ!?』
「あ、話せるんだ」
『そりゃ通話方式ってそういうもんだから……ああしかしなんてこった!』
まるで本当に当人と話しているみたいだった。
しかも当の父親の容姿と声で。
手紙なのに対話できる……これが『通話方式』とやらなのか。
面白いといえば面白いが、変なのとミリアは思っていた。
『すまない、事情を聞いていいかな?取り急ぎ対応するから』
映像の中の父親は少し考え込んで、そしてミリアにその意味も説明してくれた。
「とりいそぎ対応?」
『僕らは非常の際には緊急対応もするようになっているんだ。
ユービさんはこちらの状況がよくわからないわけで、いろいろな状況に応じた指示を受けているんだよ。
君とお母さんが無事なら、普通に手紙を読んで代わりに彼に君たちの近況を伝える。
どちらかの、あるいは両方の状況がよくない場合、緊急報告を送る。
そして──お母さんが亡くなられて君がひとりなら、君を保護するエージェントを呼ぶ』
「エージェント?」
『私はあくまで手紙だから、物理的に君を保護はできないからね。地球にいるエージェントに連絡をつける──ああ、今連絡ついたよ。
あとで、こんな者が現れるからね、指示にしたがってね』
「え?ねこ?」
ポンと現れた映像は、ただの黒猫だった。
ただし違和感があるが。
手をやると映像に触れたので、むむっとソレをこねくりまわしたミリアは、その違和感にすぐ気づいた。
「あ、オスだ」
小さいけど、ちゃんとアレがついていた。オオと好奇心に目をキラキラさせるミリア。
『気にするのはそこじゃないんだけどね……たしかに彼は猫だけど旅のベテランだよ。
見た目で頼りなく見えるかもしれないけど、彼なら安全に君をお父上の元まで届けられるだろう』
「……えっと、それは私がお父さんのところに行くってこと?どこに?」
『マドゥル星系の惑星ボルダ。地球の単位で2千光年ほど向こうにある国だね。
お父様の名前、ユービ・オルクス・ボルダというでしょう?
これはボルダ式の命名だけど、名前はユービ、第二節はお父さんの名前かな?で、最後はボルダ人という意味なんだ』
「2千光年!?」
いきなり、そんな彼方に連れて行かれるというのだろうか?
だけど。
「……そこにいけば、お父さんに会えるんですか?」
『もちろん、君を心から心配しているよ』
ミリアは、思うところを言ってみた。
「そんなに心配なら、どうして本人がこないの?いえ、それより、どうしてもっと早く!!」
もっと早くきてくれれば、お母さんだって死ななくてすんだかもしれないのに。
もっと早くきてくれれば、自分だってこんな、ひとりぼっちでなくてすんだのに。
そんなミリアの言葉に、メッセンジャーは悲しげな顔になった。