覚醒
『ミリアっ!!』
「え……!?」
その瞬間、コータがミリアの前に飛び出した。
そして──バンバンと大きな音と共に、その体にいくつもの穴があいた。
◆ ◆ ◆ ◆
たしかにミリアには優れた才能があったが、しかしまだ初心者。
なにせ、つい先日まで日本で暮らしていたのだ。
たしかに一般人よりは不穏な環境に育ったが、それでも常在戦場というほどの鉄火場ではなかった。
その些細な相違が、一瞬のところでコータとの差になってしまった。
だが。
(……)
小さな猫の体には、どうみても死ぬとわかるレベルで着弾していた。
たとえ銀河の技術によるサイボーグだからって、これでは無理だろう。
すべてが命中したわけではないけど、それでもミリアに当たった弾丸など存在しなかった。
完璧に守るべきひとを守り──そして倒れたコータ。
そしてあとには、凍り付いたようなミリアが立ちすくんでいた。
普通なら、それで終わり──フリーズしたミリアに次々と弾丸が撃ち込まれ、彼女は死んだろう。
(……)
だけどその時、ミリアに異変が起きた。
黒い瞳が突然、虹色にキラキラと輝き出した。
そして、かわいい口が言葉をつむぎだす。
【障壁展開】
その次の瞬間にバン、バンと音がしたが、しかしただの一発もミリアには当たらない。
いや、弾丸がそれたのではない。
すべての弾丸は──ミリアの手前の空中で停止していた。
【……】
その冗談のような風景を、ミリアは無言のまま睥睨した。
たしかに元々饒舌なタイプではないが、それにしてもおかしい。
そしてコータに弾丸を撃ち込んだ者を見た。
【……】
それは先日、ミリアに缶コーヒーを売った店員だった。
もしミリアがまともな状態だったら、自分が情報共有してなかった迂闊さに気付いたろうが、今のミリアは全く頓着しない。
ミリアの目が細められ、同時に口が動いた。
「あ……」
女が何か言おうとしたが、もうその時間はない。
【空間切断】
「ぎ!?」
その瞬間、女の体は構造も何もかも無視して、三つの横のラインで音もなくスライスされた。
ボロボロと床に崩れ落ちる肉塊。生暖かい、おびただしい血液が周囲にまき散らされた。
少し遅れて、強烈な鉄錆のような異臭が漂う。
頭がきれいなのが奇跡のようだが、もちろん即死していた。
ミリアの挙動はまだ止まらない。
弾丸たちに向かって、一言つぶやいた。
【遅延反射】
そしてコータの元に移動した。
亡骸にしか思えない血まみれの肉体を抱え上げたかと思うと、そのまま、ミリアもコータも陽炎のように揺らぎ消えてしまったのである。
『──な』
だが彼らは最後の言葉を続けられなかった。
なぜならその瞬間、止まっていた弾丸のすべてが冗談のように180度後ろに向いたかと思うと、飛んできた勢いそのままに打ち返されたからだ。
たちまち、数名の悲鳴が広がった。
さすがにプロだけあって最初の女以外は死にはしなかったが、一発も当たらない者はいなかった。
彼らが騒ぐまでもなく、警備ロボットたちが駆け付けた。
区画は閉鎖された。
そして──数体のロボットにミリアとコータを探す役目を与えられ、それらは船内に散っていった。
◆ ◆ ◆ ◆
コータを抱えたミリアの転移した先は、先の精霊界だった。
しかし妖精たちと精霊女王を見た瞬間、ミリアの虹色の目は光を失った。
そして、そのままミリアはコータもろとも昏倒した。
たちまち妖精たちと精霊女王に保護された。
『たいへん、コータ死にそう!』
『このコもたいへん、どうするの?』
『ちりょうよ、ちりょう!どっちも!』
『すぐなおすの!』
『このコ、まりょくがないよ!つかいきってる!』
『中の子にまりょくあげるの!』
ミリアは意識がないようで、まったく動かない。
『魔力を使い切ったか』
精霊女王がミリアのそばにやってくると、身をかがめた。
ミリアの中にある何かが女王に反応した。
手をのばすと、女王の体から何かがミリアに流れ込みはじめる。
『じょおうさま』
『なんじゃ?』
『中の子、だいじょうぶ?』
『だいじょうぶじゃが、少々無理をしすぎたのう』
『……おそとでだいじょうぶ?』
『あくまでミリアの一部じゃからな……ミリアとて成長するし、コータもいるから問題ないじゃろう』
『んー、でもコータも、あれだよ?』
『ふふふ、まぁそう言ってやるな。幼子は皆で守らねばな』
『……それもそうだね』
『うむ、それが大人の役目というものよ』
『うんうん』
『まったく、こもりはたいへんだ!』
『あ、こら、さぼってないで、てつだいなさーい!』
『おー!』
妖精たちは、わちゃわちゃと団子のようになりながらも仕事を果たし、そして用がすめば好き勝手に散っていく。
しばらくすると、コータとミリアの息がやわらかい寝息にかわった。
『問題ないようじゃの、よし、そろそろ打ち止めじゃ』
『はーい』
残りの妖精たちも治療の手をやめ、思い思いの場所に散っていた。




