進路変更
一日目夜。
旅は続く……といえば風流なのかもしれないが、あいにく銀河の旅は某東北の巨匠が描いた旅のように幻想的ではない。むしろ圧倒的にヒマだった。
地上の旅と違い、銀河の旅はほとんど風景も変わらない……というか、変化するということは異常事態を意味するのだから、変わらなくて当然ではあった。
変化のない旅はよい旅だが……いささかミリアには退屈にすぎた。
「うーん、目がしょぼしょぼする……」
『すごい集中力だね、けど少し休もう。眠ってもいいよ?』
「んー、そうす……あれ?」
目をパチクリとさせるミリア。
『どうしたの?』
「誰かくるよ。あっち」
『ん?誰かって……あ』
続けてコータも気づいた。
『これに気づくのか……ほんとに空間魔法が得意なんだな』
「すごい?すごい?」
『ああすごい……これはたぶん確定だな』
「確定?」
『ゲーム的にいえば「空間魔法に極振り」って感じ?』
「あー……ほかがダメダメ?」
『うん、なかなかに珍しいけどね』
「そうなの?」
『だって魔法や魔術にはそもそも、属性なんてゲームみたいな概念ないんだぜ?
でも現実には不得手なジャンルがある。なんでだと思う?』
「んー……まさかと思うけど、使い手の問題?」
『うん正解。属性とかそういう「色付け」は僕ら使用者側に原因があるんだ……さてお客さんだ』
入口のベルが鳴った。
「どなたですか?」
『船長のマダル・ロミです。おふたりに相談がありまして』
◆ ◆ ◆
「進路変更ですか?」
「はい」
やってきた『船長』は、古臭くも渋い礼服のようなものをまとった初老風の男だった。
コータは『おそらく外見は偽装で実年齢は不明』とカテゴリーしていた。
余談だが、きちんと正装し、そして通信でなく直接きたのはもちろん理由がある。
進路変更というのはそれだけ特殊事情であり、客にきちんと確認をとるのが伝統だからだ。
「立ち寄る予定だった『デムデラ』で現在、大規模な戦闘が起きています。他にも近隣の星系が巻き込まれています。
当船にも寄港をやめ、可能ならボルダに直行せよと連絡がきましたので」
『なるほど』
「コータ?」
『あのねミリア、寄港地に立ち寄らないというのはかなりの異常事態なんだよ。
特に僕らは客だから、その地に行くために乗ってた可能性もあるわけだろ?
だから船長がわざわざきたんだよ。通信でなく直接』
「あー……なるほど」
納得げにミリアもうなずいた。
「おふたりは『デムデラ』にご予定はありましたか?」
『いや、特にないね』
「なるほど。
もしよろしければ、お知り合いに何か連絡をいたしましょうか?即時連絡は難しいですがメッセージくらいは送れるかと」
『あー……デムデラじゃないけど、ルークに連絡がつく?』
「ルーク?ロディのルーク団ですか?つきますが?」
『相手はラビ・ティナリア・バドッターシャ・ルークで。また機会があればと』
「確認なのですが、そのお名前は現ルーク総帥の奥方様の意味になりますが、間違いありませんか?」
『間違いないよ、ステーションの超高速通信で挨拶しようと思ってたんだ。ご無沙汰してるからね』
「承知いたしました、では『また機会があれば』とお送りさせていただきます」
『よろしく頼みます』
「はい、ではよい旅を」
船長はミリアにもニッコリと挨拶すると、部屋から立ち去った。
「……ねえコータ」
『なに?あの、ちょっと力が強いよ、ねえ』
ちなみに例によってミリアはコータが抱きかかえているわけだが……妙にさっきから力が強い。
特に、メッセージの送り先の名前をきいた時から。
「ラビさんて誰?」
『だからルーク総帥の奥さんさ。
このあたりの宙域は久しぶりだから、たまには挨拶くらいしとくつもりだったんだよ』
「ふうん……で、どうしてその奥さんとコータが知り合い?」
『昔、乗ってた船がテロにあって、僕の収容されたカプセルがロディにおちてね。
ラビさんは当時、警察と組んで治安維持活動している民間協力者だったんだ。
あの時ラビさんには本当にお世話になって……ミリア?』
「とりあえずボコる」
『なんでさ!?』
航路が変更になったことで、あと2日でボルダに到着するとのことだった。
「ちょっと早くなった?」
『だいぶね。ハイパードライブ間は亜光速で飛ぶわけだけど、結果的に元の便とそんなに変わらなくなったかも』
「そっかぁ……あと2日以内で到着かぁ」
『そうだよ、あと2日でお父さんに会えるわけだけど……ミリア?』
「……」
ミリアは何かをじっと考えていた。真剣な顔で。
いったい何を考えているのか。
何か問題があったのかとコータは首をかしげた。
『ミリア、何か問題でもあるの?』
「問題が発生した。何とかする必要がある」
『そうなのか。僕が手伝えることはある?』
「とりあえず、到着いっぱいまで魔法を教えて」
『ボルダについてからでも、お父さんに言えば魔法の勉強はできると思うけど?』
「それだと遅い気がする。今すぐに覚えたい魔法があるの」
『……よくわからないけど必要と感じるんだね、具体的には何を?』
「ひとつはアイテムボックス、自分で使えるようになりたい」
『なるほど、空間魔法が専門なら是非マスターしたいよね。わかった』
「もうひとつは移送術関係なんだけど……うまくいえないけど、空間を切り出して自由に動かしたりしたい」
『ふうむ、より高度な応用のために空間制御のレベルをグッとあげたいってことかな?』
「そんな感じ」
『わかった。まぁ僕の技術でどこまで教えられるかわかんないけど、空間魔法なら何とかなるし』
「何とかなる?」
『最後まで教えるとはいかないけど、初級脱出くらいまでなら任されたよ』
「ありがとう!」
うれしそうなミリアの笑顔が何を意味するのか、まだコータは知らない。
だがコータの内心だってミリアにはわからないのだから、同じといえば同じだった。
そうしているうちに慣れない魔法を使っているミリアが眠くなり、おやすみの時間となった。
──しかし。
(……)
ベッドの上。
コータを抱きしめて幸せそうに眠っているミリア。
そんなミリアをコータは優しく見ている。
キラキラとコータの目が光りだしたかと思うと、めくれていたシーツが直されてミリアの寝相も修正される。
まるで見えないメイドがいて、やさしくミリアの世話を焼いているようだ。
(……こんなの見せたら、これも魔法かって言われそうだな……魔法じゃないけどねコレは)
空間制御と重力制御は、星間文明の華。
光より早く宇宙を飛ぶハイパードライブは空間制御技術。
安価に惑星の重力を振り切るには重力制御技術。
このふたつの技術は、星の海に広がるには不可欠に近い技術なのだ。
……なのだが。
(やばいぞ、この子)
科学技術によらない『魔法』による空間制御は、銀河にある数多の空間制御技術の中でも異端にあたる。
しかも、その分野の天才児。
最前線の空間制御技術者がミリアの真価を知ってしまったら……イヤな予感しかしない。
(ユービ神殿長。あんた、なんつー娘を隠してたんだい)
たしかに垂涎と言われるほどのレベルではないが、護衛としては変な付加価値は勘弁してもらいたい。
しかも、もともと素養があったとはいえその天才児に魔法学習のとっかかりを与えてしまった。
イヤな予感しかしないコータだった。




