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ミリアとコータ  作者: hachikun
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夢のアイテム

 宇宙船同士のドッキングといっても銀河文明の場合、機械同士をガシャンと接続するわけではない。

 お互いに力場(りきば)のようなものを干渉させて通路を作り、それだけで道は通じた。

 デメリットや危険がないわけではないが、銀河にあまねく国ごとに接続規格をガチでそろえるのは事実上不可能なわけで。

 つまりこの、ゆるい接続方式は環境が適合する種族同士なら問題なくつながるのだった。

 そうして空間的に接続したあと、空港の搭乗口みたいな、気密性はないが人を取り落とさない通路が接続され、その中を乗客は通るようになっている。

 だがミリアはシャトルとの接続口から木造なのを見て目が点になった。

『ほら、はやく。いつまでシャトルに乗ってるつもり?』

「ええええ、待ってまって!」

『どうした?』

「こ、こんなとこから木造だよぅ……」

『あたりまえだろ木造船だもの。ほらほら早く、もうすぐ出港だよ』

「う、うん」

 コータはミリアに天翔船について説明したが、ミリアは『木造』という点に不安をおぼえているのが丸わかりだった。

 仕方なくコータが声をかけて、ミリアはやっとシャトルから出てきた。

 トントンと足元をたしかめて、確かにきちんとした床なんだと、やっと納得した。

 コータはというと、そんな慎重すぎるミリアに首をかしげるばかりだった。

『なんで木造だとそんなにビビる?日本にも木造建築はあるよね?』

「おうちと宇宙船は違うよぅ」

『うーん、それもそうか。でも日本の船も昔は木造だったろ?』

「そんな昔知らないよぅ」

『そうか……なら無理もないのかな』

 そんな話をしていたのだけど。

(あれ?)

 ミリアは、ふと感じた違和感に首をかしげた。

 

【うーん、それもそうか。でも日本の船も昔は木造だったろ?】

(昔の日本の船?どうしてコータは、そんな昔の事まで知ってるの?)

 

 コータは人ではないが猫でもない。猫に似た何かだろう。

 ミリアはコータのことを、彼もまた『宇宙人』みたいなもんだろうと推測している。

 なのに。

 どうしてコータは、昔の日本で木造船が使われていた、なんてことを普通に知っている?

 強い違和感がミリアの脳裏に張り付いた。

 

「ねえコータ」

『ん?』

「コータって日本は長いの?」

『んー、何度かきているけど、合計してもそんな長くはないね』

「あれれ?」

 さらに首をかしげた。

「じゃあ、どうしてコータは日本のことに詳しいの?」

『あ』

 猫の表情なんてミリアにはわからない……が、目を見開いて固まったコータの心境くらいはミリアにも読めた。

「コータ?」

『──あー、それ聞きたい?』

「できれば」

『そっか──わかった、いずれね、でも今はとりあえず部屋に入ろう』

「わかった」

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 ブリキの人形みたいなレトロな案内ロボットに案内され、ミリアとコータは個室に入った。

 一人部屋なのだが妙に広く、さらにペット用ケージっぽいものまで用意されていた。おそらくコータに配慮したものだろう。

 だがサービスに対する反応は、当たり前ながら両極端だった。

「すごい、何も言わなくてもペット対応してくれるんだ!」

『だぁぁ、だから僕はペットじゃないっての!』

 間違いなくミリアに抱えられているせいだろう。対応したスタッフにペットと間違われていた。

『これミリアのせいだからね、僕はペットでなく乗客なのにさ!』

 当然といえば当然のツッコミをコータがするのだけど。

「……」

 何やら考え込んでいたミリアは、唐突にコータに質問をなげた。

「コータ、質問」

『なんだよ?』

「このお船って、切符とかどうなってるの?」

『ん?どゆこと?』

 コテンと首をかしげるコータ。質問の意味が理解できなかったようだ。

「だから、えーと……窓口で手続きもしてないし、何もしてないのにどうなってるのかなって」

『ああ、そういうこと』

 今度は質問の意図を理解できたようだ。

『そりゃあもちろん電子マネーだよ。地球のとは規格が全然違うけどね』

「あ、宇宙にも電子マネーあるんだ」

『電子マネーとは言わないけどね』

「なんていうの?」

『あえていえば「決済ツール」かな。国によって色々だよ』

「そうなんだ」

 ミリアは少し考えて苦笑した。

「ねえコータ、ソレ私もほしい」

『電子マネー?』

「うん」

『うーん、電子マネーと言ったのはあくまで比喩で、実際は全然違うものだからなぁ、そもそもインターフェイスが……いやまてよ』

「?」

『そうか、そういう事だったのか』

「え、なになに?」

『ああうん、ごめん、いいものがあるよ』

「え、いいもの?」

『僕の身元保証をしてくれてる人がいてね、その人に預けられたんだけど──これだよ』

「あ」

 クルッとコータがよそを向いたかと思うと、ミリアに向き直った時には口にイヤリングのようなものをくわえていた。

 妙にファンシーというか、かわいらしいイヤリング。ちっちゃくデフォルメされた猫の顔がとても可愛い。

 ミリアの目線では、どこかコータに似ている気もした。

 それを見た瞬間。

 

(っ!?)

 ミリアの脳裏に、とても強い印象がフラッシュバックした。

 

『ミリア、どうしたの?』

「……」

 コータがミリアの異変に気づいて声をかけたが、ミリアはそれにすぐ反応しなかった。

 そして何も言わず、無言でミリアはコータに手を出して、そしてイヤリングのようなものを手に受け取った。

「コータ、これって?」

『一種の補助具』

「う、うん。これをつればいいの?」

『そうだよ』

「……わかった」

 そして、そのままソレを耳につけた。

 だが次の瞬間。

(え?)

 イヤリングをセットした瞬間、ミリアはいつもの夢の中にいた。


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