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2.暁(あかつき)(1)

画面が、でかい。

画像も綺麗で、音もいい。

映画館みたいだ。


は~

あかつきは、溜息をついて感心した。

でも、さっきから、超ローカルCМしか流れていない。

これじゃあ、役不足だろう。


もっと、ましな仕事をさせろ!

もし、この大画面に口が付いていたとしたら、怒って言うだろうなあ。


ここは、西センター。

一階エントランスホールの待合コーナーだ。

区出張所を利用する人の為に、カウンター前に設けられている。


リニューアル前には、ちょっと大きめのテレビが、お義理のように置いてあった。

バリアフリーを考慮してだろう。

字幕表示が出るように設定されていたっけ。

だが、家庭用テレビに毛が生えたような代物だ。

小さくて読めやしないって、ぶつぶつ言ってる利用客がいたものだ。


それが、これに化けた。


一転して、壁を埋め尽くすほどの大画面だ。


西センター名物だった、紅葉のタイル画は、割を食っていた。

捨てられはしなかったものの、壁の右端ぎりぎりに追いやられてしまっている。


新しいスクリーンと並ぶと、完璧に位負けしていた。

こっちは、小さくて、古めかしい代物だ。

時代が、二世代分くらい遅れている。


まだかな。

暁は、座ったまま、足をパタパタさせた。

なかなか、お目当ての映像が出てこない。


大画面では、引き続き、地元色満載のコマーシャルが続いている。


この西センターの向かいに建っている、マイナーな信用金庫。

あ、次は和菓子屋さんだ。

ここ、たい焼きも店先で焼いてるんだよね。

夏場は、かき氷もメニューに加わるから、今は大賑わいだ。


う~ん。これはこれで、おもしろいけど。

そろそろ、上のトレーニングルームで、稽古けいこが始まってしまう。


やっと出た。


あなたも一緒に空手を始めてみませんか!

当館にて 毎週《水》《木》3時半から

詳細しょうさいはこちらまで

ゆう仁会じんかい ○○〇-〇〇〇〇-〇〇〇〇


思わず、暁は固まった。

いまどき動画ではない、文字だけが書かれた静止画だ。

バックミュージックは、なぜか優雅なクラシック。

一瞬、放送事故かと思わせる出来上がりだ。


暁の口から、正直な感想が出た。

「ひどい」

予想以上だ。


宣伝を出すんだけどさ、予算が無かったんだ。

うん。確かに、先生はそう言っていた。

悲しい大人の事情だ。どうしようもない。


だけど、これじゃあ、あんまりだ。

先に見たことのあるあおいが、さんざんにき下ろしていたわけである。


「あれじゃあ、まず、新しい入会者はやって来ないね」

すっぱり断言していた。

「そこまで?」

半信半疑だったが、完全に納得がいった。


いつもながら、自分の幼馴染は正しい。

冷静な予言は、今回も当たりそうだ。


あ~あ、楽しみにしてたのになあ。

新しい友達が増えるかもって。

女の子が入ってくれれば、なおいい。

来年、自分がいなくなっても、桃ちゃんが一人きりにならなくてすむから。


今の受講生は、6人ぽっきり。

しかも、女の子は自分と桃ちゃんだけなのだ。


昨晩も、母親から釘を刺されてしまった。

いい? 空手は今年いっぱいまでよ。

わかってるでしょ。

小学6年クラスに上がったら、塾の日が増えるんだから。

いよいよ受験だし。

中学に合格したら、部活に入って、またやればいいじゃない。


たいへん不本意だが、既決事項だ。

こっちの事情も、どうしようもない。


だから、とっても期待していたのだ。

その分、深く突き落とされた。

碧に引き続き、暁も完全に絶望モードだ。


せめて、イラストでも入っていればよかったのになあ。

もしくは、BGMを変えるとか。

もっと、ノリのいい曲に。


あ、いいかも。

ちょっと希望が出てきた。


もともと、あかつきは前向きな性格なのだ。

後ろは、あんまり見ない。

テストの見直しも、しないタイプだ。

だから、いつも母と塾の先生に怒られている。


そうだよね。お金をかけなくたって、まだ工夫できるじゃない。

元が酷すぎるってことは、イコール、改善の余地が広いってことだよね!


暁は、ものの5秒ほどで立ち直っていた。

呆れるほどポジティブだ。


今日の稽古が終わったら、先生に提案してみよう。

……ええと、なるべく、ソフトに。


いかつい容貌に似合わず、師匠は繊細な心の持ち主なのだ。

ありのままに述べたら、へこんでしまうだろう。

巨大なグリズリーベアーが、一転、ぺしょんとしょげてしまう。

かわいそうだもんね。

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