表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

25/28

13.アクセス(1)

夢の世界、ガルニエ宮。

それが、西センターの地下深くにあるなんて、思ってもみなかった。


案内板の説明通りだと、現実の世界とガルニエ宮は、物理的に繋がっているということになる。

根性出して、地下100階を上り切れば、ちゃんと帰れるわけだ。


でも、楽観はできなかった。

そもそも、ここは閉鎖された空間だ。

ドアも通路も、見当たらない。

まず、西センター地下100階まで、どうやって行けばいいのか。


巨大な岩石を刳り貫いた中に、この劇場があるという。

要は、岩石の上に、無駄にひょろ長い西センターが乗っかっているって寸法だ。

果たして、アクセスなんて、あるんだろうか?


黙って考え込んでいるあおいに、あかつきが話しかけてきた。

「ここも、西センター扱いなんだね」

垂直方向に、かなりの距離があるが、そうなっているらしい。


「ああ。だから、さっきの聞き方じゃダメだったんだ」

西センターへのアクセスを教えて。

はい、到着しました。

で、終わりだ。


どう尋ねればいい?

どうすれば、正答が導き出される?


しばらく考えてから、碧は、ゆっくりと口を開いた。

「1階のエントランスホールへのアクセスを教えて」


また、沈黙だ。

碧と暁は、じいっとピエロのお面を見つめた。

「止まっちゃったか?」

「作動中なのかも……」

まったく見当がつかない。


「やっぱりダメかな……」

碧が諦めかけた時だ。


『アクセスをご案内致します』


「よかった!」

暁が笑顔になる。

ほっとしたのも束の間だった。


流暢なアナウンスは、こう続けたのだ。

しも側の舞台袖に置いてあるバーで、二人同時に、目をつぶって前回りをして下さい』


「はぁ?」

碧は、速攻で聞き返した。

とても感じが悪い。

おもむろに手を伸ばすと、お面をガタガタと揺らす。

「やっぱり壊れてるのかな」


「ちょっと、碧。かわいそうだよ」

すぐに暁が止めた。

無生物の案内板に、なんだか情が移っちゃっている。


もちろん、お面は表情を変えない。

淡々と説明を続けた。


『それがアクセスです。そうすれば、1階エントランスホールに到着します』


「嘘だろ」

碧は吐き捨てた。

自分の頭で納得できなければ、信じないし、行動にも移さない性格だ。


だが、その真逆を体現した幼馴染が、元気よく提案した。

「とにかく、やってみようよ!」


「……言うと思った」

誰よりも暁を理解している碧は、がっくり肩を落とした。


「ダメだったら、また案内板に聞けばいいでしょ」

暁は、あっさり言ってのける。


悔しいが、その通りだった。

試してみないことには、始まらない。

碧は、しぶしぶ頷いた。


「下手側って、どっち?」

暁が、さくさく話を進める。

舞台袖は、左右両方にある。

『客席側から見て、左を指します』


ああ、あれのことか。

記憶を辿っている碧の腕を、暁が引っ掴んだ。


「分かった! ありがと!」

言うなり、歩き出した。

ほぼ、走っているのと同じ速度だ。


「うわ、ちょっと待って暁!」

引きずられた碧が、悲鳴を上げた。


ピエロのお面は、もちろんノーリアクションだった。

鏡を縁どる蔓バラに、じっと埋もれている。

青と白に塗り分けられた顔は、ぴくりとも動かない。

弧を描いた赤い口は、なぜか、ちっとも笑顔に見えなかった。


シュンっ

鏡面から、動作音が響いた。

まだ、さっきのタスクを続行しているのだ。


描き終えた画が、一気に縮小された。

真っ黒なキャンバスに、地上8階、地下100階の建物が浮かび上がる。


その下に、ガタガタと曲がった線が描かれ始めた。これが岩石のようだ。


黄金の筆は、止まらない。

岩石は、相当、でかいらしい。

全てを鏡面に収めようと、建物の姿は、どんどん小さくなっていく。


岩の中に、ぽっかりと空洞が描かれた。

その空間に、黄金の線が走り始める。

劇場、ガルニエ宮だ。


そして。鏡面の端っこの方でも、お絵描きが始まった。

岩石の上に、もう一つ、画が描かれ始める。

西センターの地下部分だけを、コピーしたような建物だ。

お揃いの一対が、並んで建った。


見る者は、誰もいない。

なのに、黄金の筆は、まだ止まらない。

案内板は、静かに、オーロラの地宮の姿を描き続けた。

読んで頂いて、有難うございます。

感想を頂けたら嬉しいです。

ブックマーク・評価なども、とっても励みになりますので、ぜひよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ