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ペイトンと乗り込んだ馬車の中。沈黙が続くが、慣れているので放置している。
十三歳で学園に入学して以来、アデレードは毎朝自家の馬車でリコッタ邸へ向かい、そこからリコッタ家の馬車でレイモンドと一緒に登校していた。
「アデレードちゃん、毎朝悪いわねぇ」
と、リコッタ夫人はにこにこしてアデレードを歓迎してくれていたけれど、レイモンドは違った。母親の前では文句を言わないが、馬車の中では不機嫌にしていた。いや、入学当初はそんなことはなかった。二人で一緒に登校した方が安心だ、と笑っていた。同学年でもクラスが違ったから、毎朝、お互いの学校での出来事を話して共有していた。でも、少しずつ少しずつ会話が減っていった。レイモンドはアデレードが何か尋ねても碌な返事をしなくなって、アデレードが自分の話をしても生返事するようになった。そして、ある日、唐突に、
「俺、喋るの嫌いなんだよね」
と言った。え、と思った。小さい頃から一緒にいて、どんな秘密も打ち明けてきた。レイモンドは無口なタイプでないはず。急にどうしたというのか。友人達と楽しげに喋っているのを知っている。私とは喋りたくないという意味か。随分な言い草じゃないか。昔の本当に仲の良かった頃なら怒って泣いて抗議した。だけども、あの時は言えなかった。ただ「そっかぁ……」とだけ返した。レイモンドが自分を疎ましく思っている現実から目を逸らした。嫌われたくなかったし、蔑ろにされたことを認めたくなかった。だから、何も気づかないふりをして、額面通りレイモンドは喋るのが嫌いだけど、人前では我慢して話をしている。自分にだけ本音を打ち明けてくれた、と思うことにした。
(馬鹿みたい)
不快な過去を忘れたくて嫁いで来たのに、いちいちレイモンドのことを思い出してしまう。十八年の人生のどのページにもレイモンドがいるので仕方ないといえば仕方ないが。
(私のこれまでの人生ってなんだったのかしら?)
レイモンドと結婚することだけを目標にしてきた。目指すゴールがあるから、辛いことでも頑張ってこれたという心理がある。だが、それがなくなって振り返ると苛立ちが沸き上がった。なにもかもリセットしたくて、結婚した。しかし、母と姉には反対されていた。反対というより、そのうちまた好きになれる人が現れるから焦って行動しない方がよい、という説得を受けた。でも、アデレードは自分の中の恋する力が全て使い果たされていることを感じていた。だから、女嫌いと有名なペイトンと政略結婚することは都合がよかった。「君を愛することはない」といったペイトンと同様に、アデレードもペイトンを愛することはないのだから。
(私も自分勝手な理由で結婚したのだから、旦那様ばっかり責めるのはお門違いなのよね)
初対面で失言をしたのはペイトンの罪だが、もしあの時ペイトンから「結婚すると決めた以上貴女を愛し大切にすると誓おう」などと言われていたら逆に困ってしまったはずだ。実際のところアデレードはペイトンに対してそれほど悪感情は抱いていない。それなのに、
(なんであんな契約しちゃったんだろう)
自分がというより、どう考えてもペイトンが了承したのが不可解すぎる。
アデレードは車窓の景色から、盗み見るようにチラッとペイトンに視線を移した。思いのほか目が合うと、
「あ、君が内祝いの手配をしてくれたと聞いた、が」
とペイトンが恐る恐るといった風に口を開いた。話し掛けてこないなら、別にこちらからも喋る必要はない、とアデレードも無言を貫いていたが、
「はい」
ペイトンのことは好きでも嫌いでもないので話し掛けられたら普通に返事は返す所存だ。
「すまない」
「いえ、妻の務めですから」
アデレードが答えるとペイトンが顔を赤らめる。相変わらずよくわからない反応だ。
「この街は気に入ったか?」
「え?」
「よく観光に出掛けていると聞いている」
暇つぶしに出掛けているだけで、気に入るも気に入らないもない。
「え、まぁ……そうですね」
「何処に出掛けたんだ?」
さっきまでとは打って変わり、急にめっちゃ細かく聞いてくるじゃん、という感想が脳裏に走る。契約に則った妻を大切にする演技なんだろうか。
(だったら私は冷たくあしらうべき? でもねぇ……)
喋るの嫌いなんだよね、なんて普通言わないし言えない。レイモンドがいかに自分を舐めていたのかよく分かる。アデレードはムカムカしてきたが、ペイトンに当たるのは間違っているので、
「スイーツ店を巡っていました」
と冷静に答えた。
「甘い物が好きなのか?」
「はい」
「そうか。今から行く店は海外のコンクールで何度も優勝している菓子職人がいる店だ」
「そうなんですか。楽しみです」
「あぁ、沢山食べなさい」
ペイトンが急に親戚のおじさんみたいなことを言うので、ふふっとアデレードは吹き出した。
「な、何故笑うんだ?」
「いえ、すみません」
「別に怒っているわけじゃ……」
ペイトンがあわあわして言うのも、アデレードは不可解で面白かった。女嫌いというより女性が苦手という印象を受ける。こんなに容姿が整っていて、侯爵家の嫡男で、父親から承継した事業も順風に繁盛させて、非の打ち所がないような男が、十八歳の小娘に何をたじろぐ必要があるのか。
「わかっています」
「ならいいが」
そして、再びの沈黙が落ちるが、ペイトンがこちらを意識していることと、何か話かけてようとしている気配は感じた。見て見ぬふりは苛めっ子のような気がして、
「お仕事忙しそうですね」
とアデレードは話題を振った。
「え、あ、まぁ……そうだな」
「毎朝、早くに出勤されて遅くに帰宅なさっていますよね。繁忙期なんですか?」
「いや……すまない」
何に対する謝罪なのか。
アデレードは実のところペイトンが自分を避けて早朝出勤しているとは全く思っていなかった。第一に、ペイトンが逃げる理由などないから疑ってもいないし、第二に、人の嘘を見破らない方がよい、というのがアデレードの傷つかない為の処世術でもあったから。例えば、自分との約束をキャンセルして他の女性と出掛けていたり、出席しないと言っていた夜会で出会してしまったり。知らなければよいことは知らない方がよいのだ。だが、ペイトンが謝ったことで、仕事が忙しいというのは嘘かもしれないな、と気づいてしまった。尤も特に興味はないし、好きにしてくれて構わないので、
「お体に障らないように気をつけてください」
とだけ返した。
「ら、来週からは、いつも通りに戻れる」
「そうですか」
「何処か行きたい場所があるなら、連れて行くが……」
デートのお誘いなんだろうか。母親に言われて渋々誘ってきたレイモンドの言動と被って聞こえて、
「いえ、特にないです」
と答えると、
「……そうか」
と短い返事の後、また会話が途切れた。折角誘ってくれたのに失礼だったかな、と思う反面、契約的にはこれで正解な気もする。ペイトンが自分と二人で出掛けたいわけはない。むしろ誘いに乗ったらこちらに加点がついてしまうかもしれない。とはいえ演技でも人に冷たくするのは気分がよいものではないな、とアデレードは思った。
レストランは旧国会議事堂を改築してできたらしい白亜の建物だった。馬車から下り、ペイトンにエスコートされて中へ入る。吹き抜けのフロアにテーブル席が三十ほど用意されている。殆どの席が埋まっており、客層は明らかに貴族ばかりだった。
ペイトンがフォアード家の名を告げると支配人らしい男が飛んで出てきて、フロアの奥の半個室のような席に案内された。
「やぁ、よく来てくれたね」
既に着席していたフォアード侯爵がにこにこと言った。
「本日はお招きいただき感謝します」
アデレードがカーテシーをすると、
「もう家族なのだからそんな堅苦しい挨拶はいらないよ」
と優しく笑う。フォアード侯爵とアデレードの父は学生時代からの友人だ。フォアード侯爵は貿易商を営む仕事柄、海外を飛び回っていて、隣国へ来訪する時はバルモア家へ滞在することもあった。なので、アデレードとフォアード侯爵とは幼い頃から顔見知りでもある。ペイトンなんかよりも余程話し易い相手だ。
フォアード侯爵の向かいにアデレードとペイトンが並んで座る。
「何か嫌いな物はあるかね?」
フォアード侯爵に尋ねられて首を振ると、
「遠慮することないぞ」
とペイトンが横から口を挟む。
「あ、はい。本当に大丈夫です」
「自分で好きな物を選んだ方がよいのじゃないか」
「いえ……」
こういう場では招待主がメニューを決めて頼むのが通常だ。そんなことを言われても逆に困るのだが。
「困っているじゃないか」
フォアード侯爵が察して助け舟を出してくれる。
「嫌いな物を無理に食べさせたら可哀想だろ」
いやフォアード侯爵が正しいから、とアデレードは困惑した。この男の思考はちょっと自分には手に負えない。
「旦那様、本当に私は好き嫌いないので」
「……そうか。嫌なら残せばいいから」
親切というより、なにがなんでも偏食者にしたいように思える。そっちは父親相手だから好き放題言えるが、こっちからしたら義父なんだからな、と抗議したい気持ちが湧くが、苦笑いするだけにとどめた。
注文を終えるとすぐに食前酒が運ばれてくる。
白のスパークリングワイン。酒は十五でデビュタントを済ませれば解禁になる。アデレードは、弱くはないがすぐに顔に出るので進んでは飲まない。ただ、出された物は頂くことにしている。
アデレードがグラスを手に取ると、
「それは酒だぞ」
とペイトンが間髪入れずに言う。
「アルコールが入ってない物がよいのじゃないか」
「いえ、大丈夫です」
幾つだと思っているのか。アデレードは、心配げに見てくるペイトンを若干鬱陶しく感じながらグラスに口をつけた。
「生活には少しは慣れたかな? 何か不自由なことはないかい?」
「はい、屋敷の方にもよくしてもらっています」
フォアード侯爵との卒のない会話が続いていくが、前菜が運ばれて来たタイミングで、
「君、顔が赤いぞ。大丈夫か。酔ったんじゃないか。水を飲みなさい」
とまたペイトンがいらぬ世話を焼きはじめた。
「顔に出やすいだけで大して酔ってはいないんで大丈夫です」
「いや、しかし、」
「大丈夫だってば!」
思わずボロッと溢してしまうが、義父の前で失言だった。妻は夫に従って尽くすべき、という思想は貴族社会では根強く残っている。人前で夫に反発すべきではない。が、
「愚息はアデレードちゃんが気になって仕方ないらしい」
とフォアード侯爵は満足げに笑った。
「下らないことを言わないでください」
ペイトンの抗議にも、
「五歳も年下の妻をもらって可愛く思わん男なんていないさ。普通のことだ」
とフォアード侯爵はにこやかに返す。いや、本当に全然全くそういうのではなく愛され妻契約を結んでいるだけです、とアデレードは言おうと思ったが、ウェイターが皿を下げに来たのでタイミングを逃した。ペイトンが代わりに言ってくれたらよいのに、とチラッと目配せしてみるがこっちを見る気配がない。いらんことはとやかく絡んでくるくせに全く役に立たない男だと思う。
魚料理、肉料理が順次運ばれてくる間も、
「本当に二人が上手くいっているようで良かった」
とフォアード侯爵がひたすら嬉しそうなので、アデレードは騙しているような後ろ暗さを感じた。しかし、ペイトンがあまりに否定しないので、途中から自分の親の誤解は自分で解いてもらおうと、アデレードもにこにこすることに徹した。
「そうそう、来週末なんだが観劇のチケットをもらってね。二人で行ってくるといい」
食事も終盤になった頃合いで、フォアード侯爵が胸ポケットからチケット差し出した。タイトルを見て、
「え、勿忘草ですか?」
と声が漏れた。
「知っているのかい?」
「三、四年くらい前上演していたやつですよね。自国にいる時観ました」
「そうだ。続編が上演されるので前作の公演も復活したらしい」
「え! 続編がくるんですか?」
「あぁ、今シーズンの上演が終了したら次のシーズンは続編だと聞いたな」
悲恋物のストーリーで上演当初はかなり賛否両論があった作品だ。浮気者の放蕩男に尽くして尽くして一途な恋心を捧げる令嬢の話だ。ラストは改心した男が没落した令嬢を迎えに行くが、全てを失った自分では男の足枷になると令嬢は姿をくらませる。男は絶対に令嬢を捜し出すと誓った所で幕は下りる。その後は言及されていないため、復縁派か破局派に意見が分かれた。
「そうなんですね。まさかまた勿忘草の公演が観れるとは思いませんでした。チケット有難く頂きます。凄く嬉しいです」
「アデレードちゃんは観劇が好きなんだね。だったら続編のチケットも手配しておくよ」
フォアード侯爵が笑って言うが、なんだか催促したようで申し訳ない。多分、人気公演になるから手配しづらい。シーズン後半の公演を狙えば自分で入手できるはずだ。
「いえ、それは、」
「続編のチケットは自分達で取るので無用です」
アデレードの言葉に被せてペイトンが言った。え、とアデレードは驚いた。チケットを取る、ということにではなくて「自分達で」と言ったことに対して。つまりそれは続編も二人で観に行く意味ではないか。この物語はラブロマンスでペイトンが絶対観ない内容だ。本人が見に行く気なら止めはしないが、隣で文句を言われたらブチ切れてしまいそうで自分が怖い。
「人気公演だから早めに予約しないと売り切れかもしれんぞ」
アデレードを放置して話は進んでいく。
「僕にも伝手はありますから」
「そうか。妻の願いを叶えるのは夫の務めだからな」
フォアード侯爵は満足げだ。もしかしてペイトンはわざと誤解させるような対応をしているのかもしれないな、とアデレードは思った。最初からはねつけているより、努力していた上での破局の方が「やっぱり結婚には向いていない」と印象づく。挙動不審な男だと侮っていたが意外に策士なのかもしれない。
「旦那様、有難うございます」
結局ペイトンが手配することになったので素直に礼を言う。ペイトンは長身なので、座ってもアデレードが見上げる状態になる。そんなアデレードの視線を感じでいるはずなのにペイトンは前を向いたまま、
「いや、別に……」
とぼそぼそ言った。
それから、楽しいのか、楽しくないのか、時間だけは経過していき、デザートが出てくる段階でまた、
「他にも頼みたい物があるなら頼んだらいい。デザートメニューを貰うから」
とペイトンが言い出した。
「もうお腹いっぱいなんでこのケーキだけで十分ですよ」
アデレードが返しても「遠慮することはない」としきりに言う。
(全然遠慮じゃないんだけど)
とアデレードが言い掛けた時、
「失礼します。ロベルタ伯爵様がご挨拶したいと仰っていますが」
とウェイターが面通しを求める伝言を持ってきた。完全個室ではないのでフロアの様子が見える。こちらを向いて立っている男性と女性が二人いる。年齢からして両親と娘だろう。フォアード侯爵からは背中側になっていたが、
「そうか。通してくれ」
と振り返ることなく告げた。
ウェイターから伝言を返された三人がこちらに近づいてくる。
「ロベルタ伯爵、奇遇だな」
フォアード侯爵は座ったまま顔を上げて言った。
「今晩は。良い夜ですね。家族で観劇を観に行っておりましてその帰りなんです。フォアード侯爵をお見かけして是非ご挨拶を、と」
「そうか。ちょうど良かった。うちの嫁を紹介するよ。バルモア侯爵家のアデレードだ。まだ嫁いてきたばかりで夜会には参加できていない。今後会うことがあるだろう。ビオレッタ嬢とは同じ年じゃないかな。仲良くしてやってくれ。アデレード、こちらはロベルタ伯爵夫妻と御令嬢のビオレッタ嬢だ」
フォアード侯爵に紹介を受け、アデレードも頭だけ下げる。元々侯爵家の出自なので、爵位が下の伯爵家への挨拶に立ち上がる習慣がない。そしてそれは貴族のマナーとして間違ってはいない。しかし、ロベルタ伯爵は、明らかに不服そうだった。
「ご結婚おめでとうございます」
と微笑んで言うが目は笑っていない。
「えぇ、有難うございます」
ペイトンが答えると続けて、
「小侯爵がどのような妻を娶るのか皆が注目しておりましたが、こんな可愛らしいお嬢さんを隠しておられたのですね」
と言いながらアデレードに鋭い視線を向けてきた。年頃の娘がいるなら高位貴族の適齢期の嫡男を得体の知れない令嬢に奪われて面白くない心理は理解できる。
(だからって私に当たられても知らないけど)
更に伯爵に続いてロベルタ夫人が、
「うちの娘と同じ年なんですね。是非仲良くしてやってください」
と言えば、ビオレッタが、
「ビオレッタと申します。アデレード様、以後お見知りおきを」
と、うやうやしくスカートを摘んで頭を下げた。が、顔を上げた瞬間、自分が上から下まで査定されたのがわかった。勝ったというような表情をされたことも。こういう状況には慣れているから見間違いじゃない。自国にいた頃は、やり返したらレイモンドが怒るから我慢して耐えていた。だが今は違う。もう舐めた態度を取られたまま黙っているつもりはない。
「こちらこそ、宜しくお願いします」
「ペイトン様と結婚できるなんて羨ましいですわ。結婚の知らせに悲鳴を上げる令嬢が何名もいたんですよ」
式を挙げていない為、この結婚が白い結婚であることは周知されている。愛のない結婚だ、とかごちゃごちゃいちゃもんつけられる前に、先制しといてやるべきだろう。
「そうなんですね。親の決めた結婚ですので知りませんでした。御令嬢方からそんなに羨望して頂けるなんて、父に感謝せねばなりませんね」
侯爵家同士の采配で決まった結婚に下位貴族が首突っ込んでくるなよ、という意味合いだ。
「感謝するのはうちだろう。アデレードはペイトンにはもったいないほどのお嬢さんだからな」
フォアード侯爵がつけ足してくれた言葉で、値踏みされた不快さがスーッと晴れる。ビオレッタの嫌らしい感じを察してサラッと助けてくれたのだ。女心を理解しているというか、何故こんな素敵な人が妻に不貞を働かれて傷心せねばならなかったのか。レイモンドに長年執心していた自分に言われたくはないだろうが、見る目がないなと思う。
「……お幸せそうでなによりです。私共があまりお邪魔するのも迷惑ですしこの辺で。お会いできて光栄でした」
すごすごロベルタ伯爵家が撤退していく。どういう展開を期待してわざわざ挨拶に来たのか。ペイトンが嫌々娶った妻を蔑ろにする様を一緒に嘲笑い、自慢の娘を売り込むつもりだったのか。あり得る話すぎて腹が立ってくる。
「すまないね」
フォアード侯爵はロベルタ伯爵を見送ることもせず、アデレードに頭を下げた。ロベルタ伯爵がそういう輩であることは最初から見抜いていたんだろう。アデレードの中でフォアード侯爵の株はますます鰻上りに上がった。
「早々に夜会で挨拶回りした方がよいだろう」
夜会は嫌いだがフォアード侯爵の命なら従おうかな、とアデレードは軽率に思った。さっきから殆ど空気のペイトンと出席するのは、かなり不安要素だが。