Scene03: 両親の介入に対する予防的措置
私は戸をゆっくり開閉し、ただいまの挨拶もなく玄関に上がった。
階段へは直行せず、リビングに顔を出す。
「あら、ナツキ?」
「いつ帰ってきたんだお前?」
両親は朝食の最中だった。廊下から突然顔を覗かせたこちらを見て、きょとんとしている。私が「しぃー」と人差し指を立てると、食器を手にした格好のまま、互いに顔を見合わせ、さらにきょとんとする。
「新幹線とタクシーで、今の今帰りました」
「帰ってくるって言ってたか?」と、父。
「いいえ、聞いてませんよ」と、母。
「ごめん、あえて伝えなかったんだ。万が一、ナオヤに知られて逃走を謀られるといけなかったからさ。――あの馬鹿、部屋に居るよね?」
言葉がまったく足りてなく説明にもなっていないが、ふたりはすぐに察してくれたようだ。ノーメイクの怒りの形相が言葉以上に物語っていたのだろう。
父は「ほどほどにしておくんだぞ」と言って朝のテレビ番組に顔を向け、母も「そろそろ寝た頃合いじゃないかしら」と、早々に興味をなくして見返っていた体を食卓へ戻す。叱りつけに来た事情を聞かれなかったことも実にありがたい。
私は防寒着を脱ぎ、ハンドバッグと合わせてソファーに投げ置いてから廊下へ戻った。
「今から上で少しドタバタするかもしれないけど、我慢してね。ナオヤの悲鳴が聞こえても、それは空耳だから」