Scene02: シーズ・バック
トンネルを抜けて岩手県に入ると白銀世界が広がっていた。
仙台の市街地では雪はあまり降らないけれど、地元はそうはいかないだろうと思い、服だけは着込んできて正解だった。
まだ朝早い時間帯で日曜ということもあって、一ノ関駅は閑散としている。
在来線と共用なっているので、電車で帰ってきたときにも利用する駅。
ここから自宅までは、ふだんなら親に車で迎えにきてもらう。
しかし今日は秘密裏の帰省なので呼べない。
バスはとうてい待っていられない時刻表だった。
「仕事の都合があってちょっと遅い帰省なんです」
初老のタクシー運転手と適当に会話をしながら雪道を揺られる。
地元のタクシーを利用するなんて、死んだおばあちゃんと小さい頃に乗ったとき以来だろうか。
自宅は街場から外れた地域にあり、料金メーターが上がっていくけれど出し惜しみはしない。
あとできっちり、あのゴミムシに請求してやろう。
「ありがとうございました」
明るい声でタクシーを送り出し、スッピン隠しで目深に被っていた上着のフードを脱ぐ。
振り返れば、正月に見たばかりの懐かしき我が家のお出迎え。
まっさきに二階角部屋の張出し窓を睨む。
時刻は午前8時になっているが、カーテンは締め切られたままだった。
あの馬鹿はたしか夜行性の生き物なので、寝付いたところかもしれない。
ぐっすり眠っていてくれると好都合だ、おもいっきり蹴り起こすことができるから。
掻き残された庭雪をザクザク踏つけ、私は玄関へ足を運ぶ。