Scene01: 怒りの北上時速320km
私は怒っていた。
とてつもなく怒っていた。
飛び乗った始発の東北新幹線は、一人暮らしを送る仙台市から、北に向かって北上を開始している。目指す先は、実家のある岩手県一ノ関市。県をまたぐが、宮城との県境なので、乗車時間は四十分にも満たない。帰省するときはいつも在来線か高速バス。こんな贅沢な移動手段は一度だって使ったことがなかった。五臓六腑から沸き立つ怒りが、時速320㎞という選択肢を取らせたのである。
年末年始で帰省したばかりだというのに、まさか一月中にとんぼ返りするはめになるなんて思わなかった。要件は電話でも済むといえば済む。でも、この激しい怒りは、面と向かって罵倒してやらなければ治まらない。
景色がビュンビュン通り過ぎる。
出発してものの数分で茶色い田んぼばかり。
窓ガラスに般若が映り込んでいると思えば、怒れる自分の顔である。ねぐせを整えたくらいで化粧もろくにせず、齢27歳の素肌を剥き出しでアパートを出ていた。いつもはコンシーラーで隠す目の下のクマも、顔に点々々と存在する憎らしいホクロも、そのまま。描き足さなかった短い眉が、般若感をいっそう醸している。
「今に見ておれぇ……」
鬼の口調で吐き捨てると、通路を挟んだ席に座る中年男性がこちらをチラ見してから席を立った。休日出張だろうか、日曜日にもかかわらずスーツ姿だ。
足音が十分遠のいてから私は再び口を開く。
「せっかくの日曜休みを潰しやがって、あの糞野郎」
車窓から遠くを睨みつづけた。