迷子
第二層
二層に下りる階段で、森の匂いがした。二層は、照葉樹林だった。獣道があるから森だからと言っても、分かれ道さえ正しく選べれば迷う心配は無い。何より、二層には多くの冒険者もくる。一層は床が鉱石だったから目立たなかったけど、二層の床には大量の足跡があった。それを辿れば三層に行けるはずだった。え?迷宮の『迷』が足りないって?そんなのダンジョンの管理してる奴に言えよ。そもそも誰が造ったのかも分かっていないないけどな。話を戻そう。足跡を辿って三層に向かった。この層で襲ってきたのはトレントだった。普通の木とトレントの見分けがつかなかった俺たちは、気づいたら囲まれていた、という間抜けなことになった。この層で火属性魔術を放てば、トレント以外の木にも燃え移って、俺らが酸欠で死ぬ。だから、恭介は威力も精度も火属性魔術に劣る風属性魔術を使っていた。中村君がこの層では活躍した。この層の魔物にはコボルトの時のような罪悪感は感じなかったからだ。
「レベルアップした。」
中村君がみんなに言った。普通の人ならレベルアップしたかなんてわからないが、中村君は《英雄特権》の効果で、自分のステータスを常に見ることができるからだ。
みんな一層の時より殺してるはずなのに、一層の時よりも憂鬱そうではなかった。それが、「トレントの顔が気持ち悪かったから大丈夫」から来るのか「殺しに慣れてしまった」かなのかの判断がつかなくて恐ろしくなった。
第◾️層?
今はここだ。二層から三層へは魔法陣で移動した。え?階段?あー、あれは、数年前の大豪雨の影響で階段が埋まっちゃって、その時に突然発生したらしい。国王が、
「魔物のせいで修理工事に多くの予算が持っていかれるはずだったのがなくなってほっとした。」
と言っていた。で、魔法陣を通って移動したら誰もいなかった。この層は普通の洞窟だ。聞いていた話では、三層は遺跡なんだけどな。あれか?遺跡に着くまでは洞窟、ということか?魔法陣に入ったのは3人目だった。まず中村くんが入り、一分待って斎藤君が、その後に俺が入った。三層に着くとすぐにモンスターが襲ってくる罠が発動すると聞いていたから男子の前衛と、武器の修理係の3人で行き、10分経ったら他の4人が入ってくる予定だった。
俺がくるまでの間に二人ともやられてしまったのだろうか?それなら、二人とモンスターがいないことも説明できる。早く戻って恭介達に伝えないと危ない。そうして、もう一度魔法陣に入ろうとするが、そこにはもう何も残っていなかった………
まずい、俺一人で、二人がやられた量のモンスターを倒さなければならないのか。整備士の俺一人じゃ勝てるわけがない。と、身構えたものの何分経ってもモンスターが湧いてこない。
……10分、経ったはずだ。なぜ他の奴らもこない?上にも罠があったのか?流石に進まないとまずいか?もしかしたら魔法陣に不具合が起こったのかもしれない。俺一人が生き残ったよりも俺が迷子になったと考える方が自然か……
ただ、ここが何層なのかわからない今、何をしたら罠が発動するのかもわからない。数分かけて持ってきた鉄塊から武器と罠を《錬成》し、そして覚悟を決めてから一歩踏み出した。
罠は発動しなかった。もうすでにこの段階で三階層じゃないことがわかる。仕掛けた罠を一度全部延べ棒に変え、バッグに詰め込めるだけ詰め込む。