大騒ぎ
「非常に言いにくいんだが…騎士団の奴等にきいても、魔法陣に入っていくのを見た奴は多いんだが、その時に魔法陣からは何も出てきていなかったそうだ。」
慌てた口調で団長さんが言う。
「え?じゃあ…」
私がそれを言い終わるよりも早く団長さんが
「おい!騎士団!命令だ!撤退の用意をしろ!召喚者の一人が行方不明だ!魔族の罠かもしれないから、召喚者の安全を第一に迷宮から脱出!ただし、準隊長クラスは残れ!この周辺二、三層を探すぞ!」
と言ってしまった。それに対する騎士団の人の反応も早い。
「「はい!」」
「私も探します!」
私は必死になって団長に懇願する。しかし
「だめだ!さっきも言ったが魔族の罠だったらどうするんだ!召喚者が死んだら、魔族との戦線のバランスが崩れてヒト族が滅んじまう!俺らに任せて帰れ!」
「いやです!行かせてください!」
言葉を続けようとしたところで中村くんと斉藤くんに取り押さえられてしまう。そのうえ凛に
「結衣、聞き分けなさい。」
「凛もそっち側なの?」
「逆に何が不満なの?別に七海くんを見捨てるわけではないのでしょう?騎士団が探してくれるんでしょ?私たちよりここの地理に詳しい人たちだから、私たちがいてもいなくても効率は変わらないわ。なら、私たちまでどうにかなるよりもいいでしょう?結衣が七海くんを人一倍心配するのはわかる。だから、一旦戻りましょう?」
そんなこと言われたって、納得できないよ。やっぱり私も手伝いたい!
「これは意地でも探しに行くわね…」
「何か言った?」
「いいえ、なんでもないわ。中村くん!斉藤くん!結衣を押さえてて!」
凛が何かをぼそっと呟いたと思って聞き返すと途端に大声で叫ばれて気がつけば私は斉藤くんに羽交い締めにされた。
「邪魔しないでよ!」
「いやぁ、結衣ちゃん、そう言うわけには行かないんだよねぇ。白川さんに言われたってのもあるんだけどぉ、今の結衣ちゃんが探しに行くことはぁ、得策っじゃないと俺も思うわけ。だから、大人しくしてねぇ。」
「斉藤くんの言う通りよ。結衣は一回寝なさい。」
そういうと凛は私に手刀を振った。そこで私の意識は途絶えた。
fjfjfjfjfjfjfjfjfjfjfjfjfjfjfjfjfjfjfjfjfjfjfjfjfjfjfjfjfjfjfjfjfjfjfjfjfjfjfjfjfjfjfjfjfjfj
『おはよう、結衣。』
ゆうやの顔が目の前にある。よかった。あれ?でも何でだろう?だんだんゆうやの顔がぼやけて手を伸ばして届く距離のはずなのに全然届かない。なんで?やだよ。ゆうや、どこにも行かないで!ゆうやがいなくなっちゃったら、私は何に縋って生きていけばいいの?ねぇ、待ってよ。ゆうや……
fjfjfjfjfjfjfjfjfjfjfjfjfjfjfjfjfjfjfjfjfjfjfjfjfjfjfjfjfjfjfjfjfjfjfjfjfjfjfjfjfjfjfjfjfjfj
「寝てるわね…」
「ほんとにねぇ、三日くらい寝込みっぱなしっしょ?白川さん叩くの少し強すぎたんじゃね?」
私は斉藤くんの質問に答えながら、他の召喚者たちにさらに説明する。
「いいえ。そんなことはないわ。家が剣道場だから、こういう手荒な事には慣れてるつもりよ。だからこれはきっと精神的なものでしょうね。相当七海くんがいなくなったことがショックだったのね…しばらくの間は交代で看病しましょう。目が覚めたら七海くんは命に別状はないけど、ひどい怪我を負っていてしばらく会えない、と説明しましょう。」
「…?」
「中島くん何か言ってるの?ごめんなさい。よく聞こえなかったわ。もう一度、今度はもっと大声で言ってくれないかしら?」
「このこと、誰が恭介くんにに説明するの?」
「「「…」」」
天音くんは七海くんが迷子になった瞬間は平気そうな顔してたのに、帰ってきた途端部屋から出て来なくなっている。しかもそれ以来部屋からおかしな笑い声と爆発音、独り言が連続している。それも仕方ないわね。なんて言ったって、天音くんにとって七海くんは英雄だったのでしょうから。中学の時「ガリ勉野郎」とか言われていじめられて不登校になっていたところに七海君が彼をいじめていた一人を殴って、天音くんに謝らせた、と結衣が自慢そうに言っていたし。
に、しても召喚者の7人のうち1人が行方不明、2人が戦闘不能状態、これでヒト族は魔族に勝てるのかしら?