第n +1層
次の層は、2層と同じように洞窟内なのになぜか明るい照葉樹林バイオームだった。しかも、2層に比べて天井が高い。そして、この層に来てから、モンスターに遭遇していない。なぜかって?それは、俺の隣を歩くヒナの魔力に怯えているからだ。洞窟よりも隠れる場所の多いこの層では、単純な戦闘能力よりもいかに隠れて気づかれずに獲物を狩れるかが大切になってくる。彼らはその方法で格上も圧倒するが、ヒナのような圧倒的上位者には敵わない。それがわかっているから隠れて出てこないのだろう。
「森は好き?」
俺は退屈を紛らわせるために聞いた。それに自分の彼女の好みくらいは知っておかないと、と言う気持ちもあった。
「好き。私の中には、エルフの血も混ざってるからだと思うんだけど、森にいると落ち着く。」
「へえ、俺も森は好きだよ。だってほら、こんなにうまそうな木の実がある。」
そう言って、俺は近くの木からりんごのような果物を一つもぎ取る。
「そうだね、果物って美味しいよね。私、何個でも食べられる。」
そして、ヒナがりんごをもいだ。そしてそれを一口齧る。ヒナが笑顔になる。
「美味しい。」
俺もさっきもいだリンゴを齧る。思った通りりんごの味がした。
「うまい。思ってた通りりんごだったな。」
でもこの木、今果実取ったばっかりなのにもう花が咲くぞ?早すぎだろ。もしかしてりんごがこの層のモンスターの食事なのかもしれない。さっきちらっとモンスターがりんご食ってる姿を見かけたから、このリンゴの木はそのためにあるのかもしれない。
さあ、そうこうしているうちに階段が見えてきた。階段の直前に広場がある。この広場は、おそらく_
「どれだけ待機してるの?多すぎでしょ。」
ヒナの言う通りだ。おそらくあれはトレントの群生地だろう。
「俺たちを待ってるな。」
「そうだよね…」
トレントの気配がするのだ。トレントの戦闘能力はかなり高い。しかも、スキル《樹木》で地面から魔素を吸い上げて自分の力にするから、実質無限に魔法が使えてしまう。だからこそヒナのような圧倒的上位者に挑んでも勝算があると思っているのだろう。たしかにヒナだけだったらわからなかったかもしれない。だが俺がいる。え?俺に何ができるかって?たしかに俺の戦闘能力は低い。だが、俺は生産職だ。罠を作ることだってできる。
バックの中の金属を細い糸状に《錬成》する。ヒナにはここで待っていてもらって、俺は罠を仕掛けに行く。俺達が広場に入るまでは襲わないことにしているようで、その広場と周辺の森のギリギリのラインで、金属の細糸を壁のように張り巡らせる。これでトレントを細切れにして数を減らせるはずだ。それに、安直だが厄介な突進を牽制することもできる。で、この樹がトレントであってもいいように、仕掛けをした全ての木を糸でぐるぐるまきにして、二、三箇所ずつ、地面に打ちつけた杭に《溶接》して固定する。そして、俺はさらに地面に糸を張り巡らせる。さっきの杭に糸を《溶接》し、広場の反対まで外周を回って持っていって反対でも杭に《溶接》する。これを何箇所にも張り巡らせる。これで完璧だ。ちなみに《溶接》は俺の鍛治スキルの一つで、二つのものの一部を接着できるものだ。さらに、このスキルの効果で,今のを例にすると、「杭」と「糸」という二つのアイテムが「杭と糸」という一つのアイテムに変わるように、二つのアイテムが一つのアイテムとして管理されるようになるので、途中で分離することがなく、結びつきが強固になる。炉があれば、大剣2本を接着することもできるが、今は炉を持ってないから、杭と針金のような小さいものの狭い面積しか接着できない。