第8話 チバラギ!トチギ!!グンタマ!!!
たくさんのポイントにブクマ、感想ありがとうございます。大変励みになっています。
今更であるがレッドデビルズのチームカラーは赤である。なので、彼らはウエイトトレーニングの時も好んで赤を着ていた。その日も皆、アメフトマン御用達のアンダー◯ーマーのロングスパッツに長袖インナー、そして、ハーフパンツという服装であった。もちろん全て赤である。ついでに言うと履いている靴も赤のトレーニングシューズである。さて、ご存知の方も多いと思うが、アンダーアー◯ーといえば薄く伸縮性のある素材で身体にぴたりとフィットし筋肉の隆起や腹筋のシックスパックまではっきりとわかる、要はピチピチの伸縮性ウェアである。もちろん、彼らの転移した時代にそんな素材は存在しないので、全身ピチピチの赤いウェアをまとった大男達を見て又兵衛か赤い肌の赤鬼と思ったのも無理からぬ事であった。
「あ、赤鬼さまっっ!!この度は助太刀誠にありがとうございますっ!」
「此度は、何用でこの村にお越しになったかは存じあげませぬが、我々の窮地をお救いいただいた御恩は御恩。改めて伏して御礼申し上げます」
「「「「「「「「御礼申し上げます」」」」」」」」
他の村人達も又兵衛に倣いジャンピング土下座で続く。
「さすれば、お望みのものはやはり、生贄でしょうか?…見ての通り貧しい村ゆえ食いでのある者もそう多くはありませんが、お望みの者を差し出させていただきます。」
又兵衛は悲痛な覚悟でその言葉を口にした。村人達の顔にも緊張が走る…。
「いや、俺たち人間なんですけど…。」
困惑した鬼さんが口にするも、村人達の反応は芳しくない。まぁ、この外見でしかも散々人外としか言いようのない力を見せつけられた後にそう言われても俄かには信じ難いのだろう。あと、鬼さんってややこしい。
「あ、これ。服なのよ服。ほら、脱いだら普通の人間でしょ。」
察しの良いカバオがアンダー◯ーマーを脱ぎながら言った。確かに、普通の肌の色をしている。その鍛え上げ抜かれた肉体が普通の人間かと言われると疑問は残るが。
「「「おぉ!まこと、人間じゃ!」」」
「しかしなんと面妖な着物…。これまで見たこともない」
なんとか鬼ではないと納得した村人であるが、圧倒的な力を持って村の危機を救ってくれた恩人であり、同時に素性の知れない危険な存在であることは変わらない。
「これは、これは、大変失礼を申しました。申し訳ございませぬ。確かに皆様方は人間とお見受けいたしました。改めてご挨拶させていただきます。某はこの宮野村の名主をしております、宮野又兵衛と申す者でございます。この度は野盗どもに襲われ窮地に立たされていたところ助太刀いただきまして誠にありがとうございます。して、これ程の武勇をお持ちの方々、さぞ高名なものと存じます。失礼かと存じますがお名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「あ、そうですね。自己紹介もしていませんでしたね。これは、大変失礼いたしました。私は鬼瓦狂四郎と申します。」
「「ヒェッ!やっぱり鬼っ!!!」」
「いや、名前に鬼が付いているだけで人間ですよ人間。」
鬼さんは慌ててアンダー◯ーマーを脱いで見せるとなんとか騒ぎは収まった。
「隣にいるのが権田雄大、反対側が榎本勇気、それから、樺山源太に山田太郎、高梨弘樹です。我々は道に迷ったと言うか、気がついたら山の中にいてようやく集落を見つけたのでそこを目指していたのですが、あの辺りで2人少女と出会い助けて欲しいと頼まれまして、こうして馳せ参じたという訳です。」
鬼さんが少女達と出会った方角を指差しながら言うと、
「おお!峠の方ということはユキとハナの向かったほうじゃ」
「ということは、我々を助けにわざわざいらしてくださったのか!」
「ありがたや〜」
「ありがたや〜」
「なんまいだ〜…」
村人は口々に感謝を伝えしまいには拝み始める始末である。
「この御恩何ものにも変えられません。この通り寒村ゆえ大した御礼もできませんが、ご所望のものがありましたら何なりとお申し付けください!」
「それならば…」
「「「「「「プロテイン!」」」」」
「はて?」
「あぁ、だめか、、」
「「「「「「タンパク質!!!」」」」」」
「はて?」
「ま、そうだよな、え〜と、、、」
「「「「「「肉か魚か卵か大豆!!!今すぐ食べたい!!」」」」」」
「承知いたしました!鶏を潰しましょう!あと、今朝ほど川で取れた魚もあった筈です。大豆も少しばかりではありますが蓄えがありますので、すぐに用意致します!」
又兵衛がそう告げると、村人のうち数名が準備をする為だろうそそくさと走り去った。
「それと、鬼瓦様、本来なら村人全員で皆様方を歓待すべきところなのですが、野盗の襲来に際し方々の山に幼い子供達を逃しております。彼らを迎えに人を出してもよろしいでしょうか?」
「あぁ、そうなのですね。もちろん構いませんよ。子供達も不安でしょう。すぐに迎えに行ってあげてください。」
「ありがとうございます」
又兵衛が頭を下げると、ほとんどの村人達が方々へと走り去った。場に残るのは6人の筋肉と又兵衛をはじめとする村の長老達であろう数人の老人のみとなった。
念願のタンパク質の摂取の見込みが立った筋肉達は安堵していた。筋肥大トレーニングから山中行動、そして激しい戦闘である。一刻も早いタンパク質の摂取が望まれていた。そんな、最重要事項に目処がついたことで自分達の置かれている異常事態にも目を向ける余裕ができた。普段の読書で召喚・転移・転生に馴染みのある男ドカベンが尋ねた。
「先程、鬼さんが言ったように、俺たちは急に知らない山の中に飛ばされて右も左も分からない状態なのです。今は何時代でここはどこなのか教えてもらってもよろしいでしょうか?」
「なんと!これは、まさに天が使わしてくれた救いの使者なのかも知れんな」
「ありがたや〜」
「なんまいだ〜…」
改めて転移してきた事実を告げたことで長老達は再び興奮してしまった。
「あの…えぇと、まず今は何時代何ですか?」
質問を絞ることで長老達はようやく興奮から覚めて会話が成り立つようになった。
「はて、何時代と言われてもなぁ…」
「たしか、寛正だったような…」
「いや、それはいつの話だ!もう変わっとるよ!確か…文正の筈じゃ!」
「いや、この前町へ藁を納めに行った時にまた変わったと聞いたぞ!たしか…応仁じゃ!」
応仁!!!脳筋とは言っても一般入試で大学に入った程度の歴史知識は皆持ち合わせているのだ。世界のキタノ風に言えば「応仁の乱くらいわかるよバカヤロウッ」である。その聞き覚えのある元号に加えて先ほどまでの刀や槍、弓を使った戦闘、村人達の着ている着物などを総合して、彼らは自分達がどうやら日本の戦国時代辺りもしくはそれに近い世界に転移したのだと推測した。
「戦国時代…だよな」
「おそらくな…」
「戦国時代かぁ。」
皆口々に確認し合う。一度、覚悟を決めて修羅になった後とは言え、自分達がどうやら修羅が修羅を食らう日本の歴史上でも屈指のハードモードな時代に来てしまったらしいことに暗鬱とした思いを抱えていた。
「それで、ここはどこなんです?」
「はい、宮野村ですが。」
「それはもう聞きました!もっと、こう広い地名とか国名とか!?」
「あぁ、それならここは上野国ですじゃ」
上野国…。脳筋達でも聞いたことはある地名だ。
「ということは、」
「「「「「「チバラギ!トチギ!!グンタマ!!!」」」」」」
脳筋達の限界であった。
歴史知識ほぼゼロの脳筋達の物語です。
上野国と聞いて北関東辺りだと分かったのは上出来なんじゃないかと思います。
鋭い方はだいたい察しがついていると思いますが、ここら辺から徐々に舞台が明らかになっていきます。
作者の歴史知識もポンコツですので粗が出てくるとは思いますがご容赦ください。