第6話 てめえらに今日を生きる資格はねぇ!!
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常識的に考えれば20人対6人の闘いとなれば勝ち目はない。3倍以上の人数に完全に包囲されているのだ。確かに、6人の目には誇りと闘争心がみなぎり士気は高い。しかし、多勢に無勢。所詮、戦とは数なのである。ところが、彼らは常識の枠外の存在であった。野盗達この時代の平均である157cm前後の身長であるのに対し、レッドデビルズの面々は平均184cmに届こうかという偉丈夫揃いである。1番背の低い榎本ですら約15cmのアドバンテージがある。身長が高いことはそれだけリーチが長いことを意味している。戦闘においてリーチの長さは致命的なまでに優劣を決めてしまう。加えて使用する得物である。野党どもの手にする武器は太刀や小槍である。それに対して筋肉達が振り回す丸太は長さ約2mにして重量20kgは降らないという恐ろしい鈍器なのである。しかも、彼らはそれを縦横無尽に振り回すだけの膂力をそなえている。アウトレンジから一撃で致命傷になり得る攻撃を一方的に繰り出せるのである。そう常識が通用する存在ではないのだ。さらに、つい先程、野盗達は田吾作の衝撃的な死に様を目の当たりにしている。恐怖と警戒心からその動きは鈍っていた。一方の筋肉軍団は互いに背を預けながらまるで旗竿を振るかの様に軽やかに丸太を振り回す。野党達は丸太の間合いに入らないよう遠巻きに取り囲みつつ、隙を見て勇気のあるものが斬りかかるという形で戦闘は始まった。
榎本は無我夢中で丸太を振り回していた。この手で人を殺めている。彼は6人の中で1番小柄な為か標的にされやすい。刀を、槍を振りかぶって突進してくる男達を既に3人ほど返り討ちにしていた。ズシンと重たい衝撃とは別にネットリとした人を殺しているというその感触が丸太越しに確かに伝わってくる。その度に返り血が、はらわたが、そして怨嗟と呻き声が降りかかってきたが、もう気にはならなかった。まさに無我夢中である。今、彼の中に我は無い。だが、決して理性を失っているわけでは無い。ハドルが解けて敵と対峙したラインマンは理性の上に狂気を纏うのである。目の前の敵を倒す。ただその一点を見据えて冷静な状況判断と選択を行い、迷いなく、躊躇いなく、そして、熱く突き進む。正真正銘のレッドデビルズのラインマンの姿がそこにはあった。
高梨と山田は闘いの中で包囲網の綻びに気づいていた。2人の間にいる榎やんに攻撃が集中し、それらが悉く撃退されたことで自分達3人の前の包囲が手薄になっているのだ。その人数差から守勢に回っていた彼らであるがその僅かな綻びに持ち前の攻撃的な闘争本能が目を覚ましつつあった。彼らは関東中のQBやRBに怖れられたDEなのである。ディフェンスラインと聞くと大抵の人は守備的なポジションだと考えるだろう。しかし、違うのだ。逆なのだ。アメフトにおいてディフェンスラインの役割とはボールホルダーを守ろうと立ちはだかるオフェンスラインを時に薙ぎ倒し、時に華麗にかわしてボールホルダーへと襲いかかる狩人なのだ。それ故、彼らの得意とするところは現状の様に相手に囲まれて守りに入ることではなく、むしろ、相手を囲い追い詰めて狩ることなのだ。そのチャンスが見えた。
「コンテインッ!!!」
高梨が叫ぶと山田はもちろん、6人全員がその言葉の意図するところを理解した。コンテインとはフィールドの外側を使って攻められないようにするために、外側から内側へと詰めて包み込むように守るディフェンスのことだ。幾度も修羅場をともに乗り越えてきた仲間達はこのたった一言で戦況をひっくり返す時が訪れたことを理解し動き出した。
「「「「「「うぉぉおおおおおおおお」」」」」」
高梨と山田が包囲網が手薄になっていたところへと猛然と突き進み丸太で薙ぎ払う。包囲網はいとも容易く破られた。その動きと連動するように背中を預けあい円になっていた他の4人も一気にその輪を広げる。そして包囲網を食い破った2人が相手を逆に包み込むように回り込む。6人は半円状に相手を半包囲することに成功した。
弥七は焦っていた。楽に勝てる筈の闘いだった。十分な人数差を生かして包囲殲滅するただそれだけのことの筈であった。だが、その包囲網はあれよあれよと言う間に崩れ去った。気づくと半分ほどに減った一味は弥七の周りを囲むような形で密集隊形をとり、それを弧を描くように並ぶ筋肉達によって逆に半包囲されていた。完全に形勢逆転である。まだ、こちらの方が人数が多い。そんなことはなんの希望にもなりはしなかった。ほんの先程まで、殺しを知らないただ力が強いだけの獲物であった筈の者達が正真正銘の修羅へと変わり、今まさに自分達を狩ろうとしている。理解が追いつかない。このままではまずい。全滅する前に手仕舞いすることを考えた方が良さそうだ。だが、目の前で並々ならぬ殺気を放っている6人の男たちを前にして、果たしてそう上手くことが運ぶだろうか。
一気に形成が逆転し半包囲の形となったことで闘いは、ほんのひと時の小康状態を迎えた。互いに間合いを取りながら睨み合う。だが、そんな時間は長くは続かなかった。
「参ったよ。降参する。何もとらずに立ち去るし二度とここへは来ない。だから、助けてくれ」
おもむろに弥七はそう声を掛けながら6人の方へと歩き出す。だが、もちろん。はなから降参するつもりなどない。参りましたという表情を作りながらも、さりげなく一味に目配せをする。こいつらは強い。このまま、まともに戦っても勝ち目は薄い。ならば搦手でいくまでよと。中央にいる鬼瓦の前まで歩み寄ると、
「死にさっ…
「「「「「「てめえらに今日を生きる資格はねぇ!!」」」」」」
弥七が鬼瓦に斬りかかろうとした瞬間、6人のぶん回した丸太によって弥七はじめ一味全員はただの肉塊へと成り果てた。
なんだか、アメフト豆知識を披露する小説の様相を呈してきましたが、設定上仕方ないですよね。しれっと使ってるアメフト用語などで意味がわからないものなどございましたら、感想等でお知らせください。