第5話 俺達を、誰だと思っていやがるっ!!
ストックがない見切り発車ですが、ここまでなんとか毎日投稿出来ました。今後とも出来る限り更新頻度を上げていきたいと思っていますが、生暖かく気長にお待ちいただけるとありがたいです。
それと、初めて感想を頂きました。
自分でもびっくりするほど嬉しかったです。今日の更新分を書き上げられたのも感想で上がったモチベのおかげです。本当にありがとうございます。
「「「「「「うぉおおおおおおおっ!!!」」」」」」
6人が全速力で村の中心部へと猛スピードで駆けていく。平均体重が120kgに届こうかという巨漢ぞろいだが、彼らは決してデブではない!筋肉なのだ!!その証拠に彼らの40ヤード走平均タイムは5.2秒。一般の方にはピンとこない数字かもしれないが、あのアメフト漫画の金字塔、某シールド21のヒル魔のタイムが5.1秒だと考えるといかにすごい数字かお分かりいただけるだろう。時速に換算すると25km/hにもなる。まさに原付バイクが突っ込んでくる様なものなのである。
田吾作は日本人として初めての交通事故被害者として歴史に名を残すことになるのかもしれない。一味では下っ端であったが、弓の扱いに長けていたことから後方からの狙撃要員として襲撃中の村人達を追い込む一味の輪の外側に陣取っていた。そして、ちょうど矢筒が空になり補給しようと足元の矢束に手をかけたその時、時速20km超で駆けてきた120kgの筋肉の塊が抱えるこれまた20kgを優に越えようかという丸太に出会い頭に激突したのだ。運悪く筋力が、慣性が、そして重力の全てが集束する丸太の先端部が側頭部を捉えた。頭蓋骨は粉砕され弾け飛びおびただしい量の血液とともに脳漿を辺り一面にブチまけた。いや、かえって幸運だったのかもしれない。痛みを感じる時間すらなかったのだから。
一味の頭である弥七は困惑していた。今回の凌ぎもいつもの様に順調に事が運んでいて、そろそろ獲物達は降伏してその全てを差し出す頃合いだった。食糧を、金子を、家財道具一式そしてその身までも。しかし、である。突如として喧しい怒号とともに身の丈6尺はあろうかという大男達が襲いかかってきたと思った次の瞬間には田吾作の頭が弾け飛んでいたのだ。恐怖よりも驚愕が彼の思考を埋め尽くした。獣が一番無防備なのは獲物を狩るその瞬間であるのは世の道理である。こんな稼業をしていれば凌ぎの真っ最中の同業者を獲物もろとも狩るなんて話はいくらでもある。幸運にも狩る側に立ったこともあったし、逆もまた然りである。しかし、未だにこうして弥七が狩る側として立っているということは、そんな修羅場の全てを潜り抜けてきたということなのだ。だから、恐怖はない。ただ、驚愕はした。こんな大男の集団これまでに見たことは勿論、噂ですら聞いたこともない。さらに、手にしている得物はなんと丸太なのである。全てが常識の外にある。そんな存在に対する驚きは、やがてしかし困惑に変わる。
対峙しただけで分かる。こいつらは強い。とんでもなく大きな体に丸太を振り回して走り回る驚くべき膂力の持ち主だ。田吾作の最期を見れば分かる。尋常のものではない。だが、圧倒的な強者である彼らの顔には恐怖と怯えの色が浮かんでいるのだ。それが解せない。他を寄せ付けない力を持ち獲物を横取りしようと襲撃してきたはずの彼らが、ことここに及んで何を怖れる?何に怯えているのだ?全くもって理解の範疇を超えた闖入者を前にして一味を率いる身である弥七は困惑していた。
レッドデビルズは狼狽していた。ラインマンの誇りを胸に意気軒昂に丸太を抱えて横一線で突進した。そこまでは良かった。その様はキックチームのキックオフラッシュを彷彿とさせ戦場に身を投じる覚悟を後押ししてくれる様であった。6人の大男の全力疾走、そして、唸り声。かなりの大音量ではあったが、戦場の喧騒がそれを掻き消してくれたのか野盗どもはこちらに気づいている様子もない。彼らはラインマンだ。殺し合いなどしたことはない。だが、その鍛え上げた筋肉で突進すれば敵は地に倒れ天を見上げ絶望と敗北に塗れることになるだろうそう思っていた。自然といつもの習性でCのポジションとして隊列の中央で突進していた権ちゃんの丸太が男の頭を突くまでは。
むせ返るような血の匂い。6人の顔には飛び散った血や脳漿がへばりついていた。目の前には首から上が無残に弾け飛んだ人であったなにか。人を殺した。人を殺したのだ。そのことを五感で感じ取った6人はたちまちその「事実」に狼狽したのだ。アメフトに怪我は付き物である。これまで多くの怪我を目にしてきた。骨折、脱臼、腱断裂、脳震盪、失神、痙攣…ありとあらゆる惨状を見てきたつもりであった。しかし、この男は違う。いや、既にもう男だったモノである。初めて感じる死の匂い。どす黒い血の色。首のない死体。そして辺りを覆い尽くす殺気と怖れ、憎しみと希望、絶望。ここは間違いなく戦場なのだ。
鬼瓦狂四郎は醒めていた。レッドデビルズでは狂気を身に纏えと教え込まれてきた。思考は常にクールに、しかし、ひとたびプレイが始めまればその身体を支配するのは狂気。相手をなぎ倒し押し潰し蹂躙する。その狂気こそが敵を圧倒し勝利を引き寄せるのだ。マインドセットと言う言い方も出来るだろう。一瞬の切り替えで狂気に身を投じる。それがレッドデビルズに求められた能力だ。狂四郎はその名を体現するが如くいつでもどんな時でも瞬時に狂気に身を投じ闘える男だった。そんな彼が醒めている。眼前にに広がる狂気の世界。それを目の当たりにした狂四郎は明らかに怯えていた。それは狂気とは最も遠い精神だ。死の匂い、そしてそれが自分に今にも牙を剥くかもしれないという恐怖。その感情が彼の思考を驚くほど醒めさていた。もはや彼の醒めた思考ではこの狂気に向き合うことすらままならぬ。そんなリーダーの姿に5人は引き摺られる。6人はただ、茫然と立ち竦み次なる行動を起こせずにいた。
修羅の男たる弥七はそんな6人の闖入者の様子を見てある結論に達した。こいつらは人を殺したことがない。死を怖れている。間違いなく剛の者達ではある。しかし、修羅ではないのだ。そう結論づけた弥七にとって、目の前の6人は「獲物」へと変わった。一味に指示を出し6人を囲ませる。何の目的でこの狩場に闖入してきたかは知らぬが、今こいつらはただの獲物である。狩ろう。
「てめぇら!ひとの凌ぎにちょっかい出してきてなんのつもりでぃっ!!狼の狩場に迷い込んだ哀れな兎となれば、情けの1つもかけてやるって筋もあるが、テメェらは俺の大事な仲間を殺した。この始末どうつけようってんでぃっ!!!」
殺気を込めた弥七の啖呵に6人は怯む。弥七はさらに畳み掛ける。
「図体だけでかい木偶の坊がたったこれだけ揃ってわざわざ殺されに来たってのかい。全く手間かけさせやがって!」
「テメェら人を殺めたことがないんだろう?揃いも揃って腰抜け揃いと来たもんだ。かぁちゃんのお乳でも吸って大人しくしてれば死なずにすんだのになぁ」
「やめとけ。テメェらに人は殺せねぇ。分をわきまえろ腰抜けどもがっ!」
弥七から見て6人は明らかに心が折れていた。勝敗以前の問題だ。こいつらはそもそも、戦場に立つことすら出来ていない。わざわざ畳み掛けるように侮蔑の言葉を連ねたのは、その心をさらにへし折り圧倒的優位を持って葬り去るためだった。
しかし、弥七は失敗した。時間を与えすぎたのだ。心が折れかけていながらも、最後の最後でその胸の誇りを拠り所になんとか立ち向かおうとしていた6人に弥七の言葉は少しずつではあるが、闘志の火を生じさせていた。
アメフト用語に口パンというものがある。有り体に行って仕舞えば野次なのだが、アメフトの場合は敵味方が近距離で向かい合って戦う競技である為、他のスポーツとは若干の趣が異なる。特にラインマンにとっての口パンはスクリメージライン越しに向き合い頭と頭を突き合わせながら行うものなので、その内容は苛烈を極める。作戦に関する欺瞞情報を囁く心理戦のようなものから、相手を口堅く罵ったり、侮蔑し嘲笑することすらある。弥七の言葉は最初は恐怖をもたらすものであったが、回を重ねるたびに徐々に誇り高きラインマン達の闘志の火を燃え上がらせる燃料となり始めた。戦う前の口パン合戦。それは、これまで、幾度となく経験してきた闘争へのルーティンであり狂気へのスイッチとなったのだ。
「黙れ下道!!人を喰らいて我が身を保つ。その所業、畜生にも劣るものと知れっ!」
鬼さんの声には、もはや怯えはなかった。闘いに身を投じる覚悟を決めた声だ。それを聞いて他の5人も奮い立つ。彼らの瞳には再び闘志とラインマンの誇りが宿っていた。
「は、人も殺せぬ腰抜けどもに何が出来るっ!野郎ども!やっちまいな!!!」
6人の雰囲気が変わりつつあることに危機感を覚えた弥七は、これ以上の猶予は下策と判断し一気に型をつけることを選択した。
互いに背を預けあった6人は四方を囲む約20人の野盗どもに対して丸太を掲げた。
「無茶で無謀と笑われようと!」
「意地が支えのライン道!」
「壁があったらぶつかりどかす!」
「道がなければこの手で作る!」
「心のマグマが炎と燃える!」
「令和国際大、レッドデビルズ!!」
「「「「「「俺達を!誰だと思ってやがる!!!」」」」」」
作者の性格というか趣向の影響で、作中の随所にオマージュというかパロディを織り込んでいます。
元ネタが分かる方はこの糞虫めと同年代なんでしょうね…。お互い健康には気をつけましょうw
基本的には元ネタが分からなくてもストーリーを楽しめるように書いているつもりですが、カッチョいい台詞とかは大体元ネタがあったりしますw
お暇な方は元ネタを探してみたりしたら楽しんでいただけたら他力本願で作品の魅力がアップするかも知れませんw
次回更新は書き上げれば明日の予定ですが…どうなることやら。。。