第4話 みんな!丸太は持ったな!!
いよいよ戦国時代感がでてきましたね。
(2020.3.18 一部の誤字を訂正しました。)
野盗。ようやく会えた人間が言葉の通じる相手だった喜びに冷や水をぶっかけるのに十分なほどにその言葉は重かった。現代日本ではまず耳にすることのない単語である。体育会系の学生が相手にする犯罪者なんて、甲子園の強豪校達が続々と集結する西宮市でノコノコと引ったくりを働いて大会注目投手達の豪速球を背中に受けて御用になる間抜けというのがお約束だ。それなのに、野盗である。6人はこの時初めて恐怖というものを自覚した。
聞けば戦続きで働き盛りの男手が不足する寒村が突如20名程の野盗に襲われて、幼い彼女達は大人達から必死の思いで送り出されて逃げ延びてきたという。強いものが弱いものから奪い、そして食らう。今いるこの世界がそんな修羅の世界であることを6人はひしひしと感じ取っていた。
恐ろしい。ここから歩いて1時間もしない距離でそんな弱肉強食の命のやり取りが行われている。その事に足がすくまないものがいるだろうか。ましてや、平和で安全な平成日本に生まれ令和の時代に青春時代を謳歌しようとしていた若者達である。鬼瓦はオーディブル"レッド"をコール、することを真剣に考慮していた。
しかし、逃げてどうなる。おそらくここは修羅の世界。山の中で生き抜く知識も経験も持ち合わせていない彼らにいつまでも山に潜み生きていくことなど不可能だ。それに、安全な場所なんてどこにあるだろうか。自分達は生きるために食らわなければならないのだろうか。流石の鬼さんも決断できずにいた。だが、時間は味方になってはくれない。目の前の可哀想な少女達の家族が親戚が、友人が今まさに命の危機に瀕しているのだ。
これまで、アメフトの試合には命のやり取りをする覚悟で臨んできた。もちろん、ルールの中ではある。万全の安全対策もしてある。それでも激しい肉弾戦は時に生命の危機さえ脅かすまさにフィールドの格闘技だった。その覚悟こそが、鍛え上げた筋肉と両輪になってレッドデビルスを猛者の集団たらしめ、時には弱者が強者を食らうアップセットも起こしてきた。それを誇ってきていた。だが、今となってはあまりにも脆い。目の前に命の危機が迫っている人に救いを求められて躊躇っている。自分の命を危険に晒す事に。そして、相手の命を奪うことに。
情と倫理と覚悟の狭間で身動きが取れないでいた。しかし、鬼瓦は強かった。一歩進む勇気を振り絞った。それは、これまで自らの歩んできたラインマンとしての誇り失わないために。ただ、何もせずに見過ごすことはできなかった。
「ハドルッ!」
「「「「「「トゥッスゥ!!」」」」」」
「正直に言う。俺にはどうして良いのか分からん。ただ、レッドデビルズのラインマンの誇りにかけて困っている少女を見捨てることはできない。この先、何をするのかは決めかねている。ただ、村の近くまで行き、そして、俺たちが何を成すべきかを見極めたいと思う!付いてきてくれるか?」
「「「「「ウィッス!!!」」」」」
ラインマンの誇り。この言葉に男達は弱かった。それは、その誇りを手にするために血のにじむ様な鍛練を積んできていたからである。故にラインマンの誇りはなんとしてでも傷つけたくはなかった。
「人を殺す事になるやもしれんなぁ。」
権田の独語に誰一人として口を開くものはいなかった。誇りの為に人を殺せるのか?自分にその覚悟ができるのか…..?それぞれが、その覚悟の時を先延ばしにしただけである事を理解してはいたが、異をとなえるものはいなかった。
中途半端なものではあったが、行動指針を決めた後の一行の動きは速かった。2人の少女をその場に残し、全員で走って村が見渡せる小高い丘まで走った。あっという間にも感じたし、永遠に終わらない時のようにも感じた。もしかすると、到着した時点で事態が収束していることを心のどこかで望んでいたのかも知れない。
丘の上から見た村の状況は凄惨の一言に尽きた。40〜50人の村人と思しき鍬や鋤で武装した集団に対して、20名程の野盗が弓を射かけ槍で突き、孤立した村人が出れば袋叩きにしていた。何とも、酷い。
働き盛りの男手が不足していると言うのは本当の様で村人側の人員は殆どが老人や女・年端もいかない少年達であった。よく戦っているが長くは持たまい。こうして傍観している間にもまた1人また1人と村人が命を失っていく。
6人の心中で共通していたのは怒りと羞恥心であった。それは、理不尽への怒りであり、これまで平和な世の中で己の力を誇示し強さを騙っていたことへの羞恥心であった。誇り高きラインマンでありたい。そう願ってきた自分達の全てを否定されたような気持ちになった。
しかし、それでも、誇り高きラインマン達はその誇りを守り抜く覚悟を決めた。誰もが口を開かなかったが、互いに目を見てその瞳の奥に宿る誇りを確認しあった。
「ハドルッ!」
「「「「「「トゥッスゥ!!」」」」」」
「実際にこの目で見て、肌で感じて思った。こんな理不尽をみすみす見逃す為に俺たちは厳しい鍛錬の日々を送ってきたのか!目の前の困っている人達を助けられずになにが力か!力こそパワーである!こらから、俺たちは人を殺すかもしれない。もしかすると、逆に殺されるかもしれない。そんな、修羅の道に足を踏み入れようと思う!皆んな!ついてきてくれるか!?」
「「「「「ウィッス!!!」」」」」
皆が鬼さんの覚悟を感じた。そして、その覚悟がたった今自分達のした覚悟と寸分違わぬことも知れた。これこそが赤鬼軍団、レッドデビルズの誇り高きラインマンだ。鬼さんを先頭に丘を駆け下りた6人は戦う覚悟はあっても武器がない事に今更気づいてしまった。しかし、もう引けない。最悪、この鍛え上げた筋肉でもって野盗どもを1人でも多く道連れにしてやろう。
そんなことをドカベンが考えていた時、頼れるリーダー鬼さんは村の入り口に積まれたある武器を見つけた。
「みんな!丸太は持ったな!!」
「「「「「おうっ!!!」」」」」
恐らく建築資材用に積んであったであろう直径20cm、長さ2mほどの丸太を手にした6人は一目散に戦闘の行われている村の中心部へと駆けていった。
本作では、丸太は使用しますが、吸血鬼の登場予定はごさまいませんので御了承ください。