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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

異世界童話  ~魔物使いの少女~

 明日香ちゃんには友達がいませんでした。子供の頃から体が弱くて、ほとんど病院から出ることができなかったからです。そんな明日香ちゃんの15歳の誕生日。


 「ごほごほっ……今日は誕生日か…もしなんでもプレゼントがもらえるなら、友達が一杯できる人生が欲しいなぁ……」


 明日香ちゃん切なる願いに心を打たれた神様は、明日香ちゃんを転生させてあげることにしました。

 夜、明日香ちゃんの魂は、神様の世界へと連れていかれました。


 「明日香よ、そなたの願いを叶えてさしあげよう。わしの管理する異世界に転生させてあげよう。」


 「神様ありがとうございます。」


 「しかし、わしの世界は魔物が人々を襲う世界じゃ。魔物に襲われぬよう、魔物使いの能力を与えよう。」


 神様はそういうと、明日香ちゃんの体が光に包まれていき、明日香ちゃんは目を開けることができなくなりました。光が止み、目を開けるとそこは森の中でした。

 



 アスカちゃんが森を歩いていくと、一匹の怪我をしたオオカミがいました。アスカちゃんはオオカミに駆け寄り手を伸ばします。魔物使いのアスカちゃんが伸ばした手を、魔物はぺろぺろと舐めました。


 「うふふ、かわいいわね。名前はなんていうの?」


 そう聞くと、オオカミの魔物は首をかしげました。


 「名前がないのね。じゃあ私が付けてあげる。あなたの名前は”ペロ”ね!私は明日香。よろしくね!」


 こうしてアスカちゃんは初めての友達ができました。


 ペロと一緒に歩いていると、のっしのっしを大きなオークと出会いました。


 「あら?あなたは大きな豚さんね。この子怪我をしているの。どこかに休める場所はないかしら?」


 するとオークは踵を返し森の奥へと歩いていきます。アスカちゃんはオークについていくと、木と藁で作られた家が何軒かある、オークの集落に着きました。オークはその中でも一番大きな家に入ると、アスカちゃん達も一緒に中に入りました。


 「ここで休ませてくれるの?」


 オークは言葉を話せませんが、いいよと言ってくれたような気がしました。


 こうしてオークとオオカミとアスカちゃんで、仲良く村で暮らしました。






 1か月が過ぎ、ペロは足の怪我も治り、一人で狩りに向かうようになりました。村にはオークが三匹住んでおり、”イチロー””ジロー””サブロー”とそれぞれ名付けられました。


 ある日、村に小さなお客さんがやってきました。


 プルプル…


 小さなスライムがやってきました。


 「あら、かわいいお客さんだわ♪こんにちはスライムさん。あなたはどうしてここまで来たの?」


 プルプル…プルプル……


 「そうなのね。食べるものを探してここまできたのね。あなたは何を食べるのかしら?」


 プルプル…


 「生き物の体液を食べるの?じゃあこれはどうかしら?」


 そういうと、一つの家から、鎧や剣を持ってきました。それには乾いた血がついていました。


 「たまにイチローやジローが拾ってくるの。ここは魔物がたくさんいるから、私のような魔物使いじゃないと襲われちゃうの。最初は驚いたけど、私も死んじゃう人をたくさん見てきたから、もう慣れちゃった。」


 スライムは鎧に飛び乗ると、見る見るうちに血を吸い取っていき、瞬く間にきれいになってしまいました。


 「まぁまぁ素敵!お掃除が簡単だわ!あなたもこの村に住まないかしら?」


 プルプル…


 「良いの!?嬉しいわ!あなたの名前を付けないといけないわね。”スー”でどうかしら?」


 プルプルプル…


 「気に入ってくれたのね!じゃあ、あなたは今日からスーよ!」


 プルプル…


 こうしてアスカちゃんに新しいお友達ができました。




 スーが住み始めて2か月後、また新しいお客さんがやってきました。


 グゲゲ…


 「あらあらあなたはゴブリンさん?この村に何の様かしら?それと少し匂うから、体を拭いてあげないと。」


 明日香ちゃんは水で濡らした布とスーを呼び、体についた汚れを拭いていきます。するとそのゴブリンに小さな傷がいくつもあることがわかりました。


 「こんなに傷だらけで、一体何があったの?」


 グゲグゲ、グギャ…


 「体が小さくていじめられて、集落を追い出されてしまったの?そう…じゃあここで一緒に暮らさない?」


 グギャ…


 「遠慮なんていらないわ。私も小さくて力も弱いけど、みんなと一緒に楽しく暮らしているもの!」


 グゲー!


 「そう、ここは安全で楽しい場所よ。一緒に暮らしましょう。そうなると名前が必要ね……あなたの名前は”タロウ”でどうかしら?」


 グガ!


 「そう、喜んでもらえて何よりだわ。これからよろしくね、タロウ!」


 こうしてアスカちゃんに新しいお友達ができました。



 



 こうしてどんどん新しいお友達が増えていき1年が経ったころ、大きな大きなお客さんが訪れました。


 バッサバッサ…


 ドシーーン!!!


 大きな音に驚いたアスカちゃんが外に飛び出すと、そこには大きな大きなドラゴンがいました。びっくりしていると、頭の中に声が響いてきました。


 『こんなところに魔物を集めて、お前はいったい何者だ?なぜ魔物と暮すことができている?』


 『こんにちはドラゴンさん。私の名前は明日香です。この世界に魔物使いとして転生しました。困っている子を助けていたら、一杯お友達ができました。』


 『ふむ、確かにお前の声には抗いがたい強制力が感じられる。これが魔物使いの力という事か。お前はこの力で何をする?』


 『何をするですって?私はお友達がたくさんできて幸せよ。これ以上望むものなんてないわ。』


 『それだけの力があればこの世界を支配することもできるぞ?』


 『私はそんな事に興味はないわ。』


 『はっはっはっ…そうか興味はないか。では人の街に行ってみたいとは思わないか?』


 『そうね。まだこの世界の人と会ったことがないわ。どんな人たちなのかあってみたいわ。』


 『ではこの森を、太陽が昇る方向にまっすぐ走ると、大きな人間の街がある。行ってみるといい。』


 『ありがとうドラゴンさん。あなたはこの村で一緒に暮らさないかしら?』


 『我は大飯ぐらいでな、この村におったら周囲の魔物、動物根こそぎ食らいつくしてしまう。申し出ありがたいが、我はお暇させてもらう。』


 『そう…残念ね。じゃあお友達になりましょう。私はたくさんのお友達を作りたいの!』


 『友達か…お前のような純粋な心を持った人間ならば、友達になっても良いだろうな。』


 『じゃあ仲良しの握手をしましょう!そのまま動かないでね。』


 そういうとアスカちゃんは、ドラゴンの右前足の爪に手を触れました。


 『これで私とドラゴンさんはお友達ね!そうだ、あなたに名前はあるの?』


 『我の名は……いや、名前はないから、お主が付けてくれ。』


 『分かった。じゃああなたの名前は…”カイ”ね!』


 『我の名はカイだな。了解した。縁があったらまた会おう。』


 そういうと、ドラゴンは飛び去ってしまいました。


 


 ドラゴンと出会った次の日、アスカちゃんはペロの背中に乗って森を降りていきました。休憩をはさみつつ走ること8時間、大きな塀に囲まれた人間の街が見えてきました。

 門の前には街に入ろうと入国審査を待つ長い列がありました。アスカちゃんはペロに乗ったままその列へと並ぼうとしました。


 すると、列のどこかから「魔物だー!」と叫ぶ声が聞こえ、並んでいた人たちが我先にと門に駆け込んでいきました。ペロとアスカちゃんはポツンと取り残されてしまいました。

 少し待つと、門から鎧をきた騎士の人たちが現れアスカちゃんを取り囲みました。


 「貴様!魔物の背に乗り魔物を操る、魔女か!」


 「いいえ違います。私は魔物使いです。」


 「そんな職業聞いたことない!」


 まさに一触即発の緊張の中、おなかの出た偉そうなおじさんが前に進んできました。


 「お前たち、少し下がりなさい。君、名前はなんという。」


 「私は明日香。この子はペロ。」


 「そうか。アスカ君とペロ君だね。ようこそ私の街へ。歓迎するよ。」


 この人は領主様でした。周りの騎士からざわざわと声があがりますが、領主様が歓迎すると言った以上、抗議する声もなく、アスカちゃんとペロは領主様のお屋敷に招かれました。

 ペロは屋敷の中に入れないため厩舎につながれ、アスカちゃんは屋敷の中で、領主様と食事をしていました。


 「すると、君は違う世界から転生してこの世界に来たと?」


 「はいそうです。その時に神様に魔物使いという力を与えていただきました。」


 「なるほど。しかしこの世界において魔物は人類の敵です。魔物を見れば待ちゆく人々は恐れ、あなたに石を投げるでしょう。気を付けることです。」


 「そうなのですね。ありがとうございます。領主様が優しい方で助かりました。私、領主様ともお友達になりたいです。」


 「何を言っているんだね。一緒にご飯を食べた仲じゃないか!」


 「はい!」


 その後、アスカちゃんは領主様のお屋敷で一晩泊めてもらうことになりました。

 立派なベッドですやすやと眠っていると、突然胸の奥がチクりと痛み目を覚ましました。


 「これは…ペロの恐怖の感情が私に流れている…?」


 急いでベッドから飛び降りると、厩舎へと向かいます。


 そこには、騎士に囲まれうずくまるペロがいました。


 「ペロ!?あなたたち何をやっているの!?」


 「これはこれはアスカさん。私は夕食の時に言いましたよね?魔物は人類の敵だと。敵を殺すことの何がいけないのですかな?」


 傷ついたペロは、もうアスカちゃんの声に応えることはありませんでした。


 「あなたも、こんな魔物のことばかり考えている余裕があると思っているのですか?あなた…いえ、お前のその力は有用だ。その力を皇帝陛下に献上し、この国は世界を統べる大帝国に!そして、その力を与えた私はその功績をもって出世をするのだ!…その娘を連れていけ。」


 「いや…こないで!」


 「暴れるようなら腕の一本や二本折ってしまえ。こちらの命令を聞かせるためには心を折らなければな。そうそう、確か森に魔物の村があるといっていたな。それも焼き払わなければ。騎士たちに伝えよ。明日討伐隊を編成し攻め入るとな。」


 「や…やめて……私のお友達を殺さないで…………私から友達を………奪わないで…………」


 「おやおや、私とも友達だったのでは?」


 「あなたなんか………友達じゃない!」


 「まだ大きな声をだす元気があるようですね。痛めつけてやりなさい。」


 すると騎士たちは剣を抜き、アスカちゃんにじりじりと近寄っていきます。


 「いや!誰か助けて!!!」


 グワアア!!!


 遠くから大きな咆哮が聞こえたと思うと、アスカちゃんの目の前にドラゴンが降り立ちました。


 「カイ!」


 『人間のお主が魔物たちと心通わせているのを見て、お主なら人間と魔物が共存できる未来を作ってくれると、そう思って人間の街に向かわせたが、すまなかった。我の人間の欲を見誤っておった。』


 「ごめんなさい…ペロが……ペロが……」


 『うむ、わかっておる。ゴミ掃除が終わったら、一緒にペロを弔ってやろう。少しまっておれ。』


 そういうとカイはその大きな口をいっぱいに広げて息を吸い、口から激しい炎を吹きました。一吹きで領主の館は炭となり、領主と騎士たちも同じく炭になりました。こうして領主を燃やしたアスカちゃんとカイは、ペロの亡骸を持って村へと帰りました。


 「みんな聞いて。もしかしたらこの村に人間の騎士がやってくるかもしれない。一緒に村を出て逃げてくれる?」


 すると魔物は皆アスカちゃんの質問に各々の方法で肯定の意を表明しました。


 


 こうしてアスカちゃんとたくさんの魔物たちは、いくつもの山を越え、荒野にたどり着きました。


 「みんなここに私たちの国を作ろう。人間なんていらない。魔物だけの国を。」


 こうしていくつもの山を越えたその先の荒野に、魔物たちの国とその魔物を統べる魔王が誕生したのです。その魔王の隣には、アンデッドのフェンリルが、幸せそうにいつも一緒にいるのでした…。

 

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