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5.スターリン・ブロック形成!

 成立直後のソ連は非常に不安定なものだった。立憲民主党カデット、ドン・コサックたちと赤軍の衝突がもたらした動揺は、あらゆる土地に大きな傷跡を残していた。田畑は荒らされ、家畜は略奪され、男は殺され、女も殺され、ユダヤ人は身ぐるみはがされ、カルムイク人は兵隊にとられ、ロシア人は恐怖のために縮こまり、コサックの連中は自信を喪失していた。ともかく、さんざんな有様だった。とても明日の生活の見通しなど立たなかった。


 そこへ共産主義的英雄たちが彗星のごとく現れ、祖国の窮地を救ったのである。わずか数か月の間にソ連はすさまじい経済成長を遂げ、見事、列強の名に恥じぬ実力を取り戻した。その英雄たちを紹介しよう。


 同志スターリン。知識人インテリゲンツィアではなく、運動家の出身。「鋼鉄」のあだ名をもち、敵にも味方にも容赦しない不死身の革命戦士。


 同志レーニン。スターリンの諫め役。


 同志トロツキー。一国革命論に固執し、のちにスターリンに殺されるがその手腕は本物。


 これが「赤の三銃士」と呼ばれるソ連の英雄たちだ。ふつう、「三銃士」といえばフランス王室の「青」と「百合の花」と相場が決まっている。「赤」というのは銃士の敵、枢機官麾下の護衛士隊のカラーだ。しかし時代は変わった。ソ連において「三銃士」といえば、この三人のことを指すと覚えておいて欲しい。ソ連――ロシアにおいては「三銃士」は赤の戦士なのだ。


 さて、同志スターリンは「五か年計画」を打ち出し、さらなる経済発展をもくろんだ。国力の増強こそこの大戦の趨勢を決定すると信じていたのだ。その慧眼には恐れ入るしかない。「五か年計画」というのは、五年スパンで生産活動の目標を取り決め、その達成に向けて国家総動員体制で取り組むという政策だ。ソ連には民間企業が存在しなかったため、こうした国家的事業計画のようなものが成り立ったのである。


 この「五か年計画」を成功させればドイツ、日本への勝利は見えてくる。イタリアにはすでに戦わずして負けている、かの国に勝とうなどと考えるのは愚の骨頂だから放っておくとして、とにかく、「五か年計画」が栄光の鍵だ。必ず成功させなければならない。ではそのための具体的手段は?


 同志スターリンはちゃんとそこまで考えていた。それこそが「スターリン・ブロック」。通称「鋼鉄の防壁」だ。これは田畑コルホーズや商店、議会や軍事施設などを有する地域を小区画に分け、その区画の領域に(当時もっとも安価だった)鉄製のフェンスを設置するというものである。


 これを行うことによって3つのメリットが生じる。


 まず第一に、労働者プロレタリアの無意味な移動を制限することができる。労働者プロレタリアは工場に。農民は畑に。知識人インテリゲンツィアは党事務所に。それぞれ囲い込みを実施し脱走を防ぐのである。とりわけ労働者プロレタリアの脱走、亡命はもっとも憂慮すべき事態であった。工場こそがソ連の富を生み出していたからだ。


 第二に、行政区分が明確になり、煩雑な行政上の手続きが簡略化される。


 第三に、外部の者の侵入を制限することができる。


 「五か年計画」および「スターリン・ブロック」は見事奏功し、ソ連はさらなる躍進を遂げるがそれはまたのちの話である。


 余談だが、他の列強も「スターリン・ブロック」に倣い、主に自国の保有する植民地にブロックを設けていた。特にイギリスの植民地経営においてこの手法は多用されている。

 

 日本の学校にもフェンスというのはまず間違いなく設けられており、公共の場であるにも関わらずあそこは百パーセント閉鎖されている空間であると言えるが、あれはブロックの名残であると見てよいだろう。


 そもそも学校制度、義務教育制度というのはソ連に範をとっているのである。たとえ小学校であろうとも、「生徒会」にはじまり、「給食委員会」「保健委員会」「体育委員会」などソヴェト用語の組織が設けられている。それがなによりの証左だ。そのうち「軍事革命委員会」「非常委員会チェカー」なんかができるに違いない。すでに「生徒会」には「書記」という役職がある。あれは共産党の伝統的な名誉職だ。


 帰りのホームルームで女子たちがいたずらものの男子を糾弾する、それを教師がじっと見守る、あれは革命裁判の再現でなくて、他になんだというのだろうか! 日本の学校はソヴェト政権のシステムを導入している。つまり、赤だ。義務教育は優秀な革命戦士を育成する。少なくとも、その素地は育て上げる。これが歴史家の一致した見解である。


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