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2.連合国結成の歴史的経緯! そしてドイツに総統現る!

 それを、好ましく思わない国があった。


 ――アメリカ合衆国。


 アメリカの産業は黒人奴隷の労働によって支えられていた。たとえば鉄鋼業。カーネギーによって創始されたアメリカを代表するこの産業のほとんどは、黒人奴隷の丁寧な手作業に依存していたのである。たとえば石油業。ロックフェラーが覇権を握る油田採掘事業には、黒人の男手が決して欠かせなかったのである。スミスの旦那に鞭でひっぱたかれながら鍬を振るうのも黒人だし、ナタリーおばさんのだるだるのブラジャーを洗うのも黒人の仕事と来たもんだ。実に痛ましいことに、産業から農事家事に至るまで、黒人奴隷は社会にとって欠かせない存在になっていた。


 そのため、大日本帝国が唱える「大東亜共栄圏」なる構想は、アメリカ合衆国にとって非常に都合が悪かった。


 なにせ、つい先日ロシアで「革命」の勃発を目撃したばかりなのである。「大東亜共栄圏」が「共産主義」のように強力な伝播力を有した場合、それは拡大解釈されて「黒人の基本的人権の獲得」にまでつながる恐れがある。それだけは、経済界のために避けなければならない。たとえ合衆国国民の血を流してでも――。


 そんなアメリカの思惑に同調する国々もあった。主にアフリカに植民地を持ち、アパルトヘイト政策で黒人を縛りつけ、彼らを搾取し続けている西欧の国家群だ。イギリス。フランス。オランダ。スペイン。ポルトガル。西欧諸国は一部を除きアメリカ側に直接的間接的支援を惜しまなかった。さらに先の大戦で敗北を喫し、国力を即座に回復する必要があったロシア――改めソ連も、大国アメリカと友好条約を結んだ。中国はアメリカから経済的支援を受けていたので、自然、合衆国に味方することとなった。


 それらの諸国とは対照的に、たとえばイタリアはちょうどその時期、日本を舞台にしたオペラ、プッチーニの『蝶々夫人』が大流行していたので、なんとなく日本と同盟を組んだ。この国はなにごと対しても徹頭徹尾いいかげんで、特に政治には無関心であることを旨とする陽気な哲学者エピキュリアンたちの国家であり、とうていわれわれ凡人には理解の及ぶものではないから、詳細な描写は省くこととする。ただひとつ書き加えるとすれば、ムッソリーニという犬儒キュニコス派の哲人が出現して、いくらか手慰みに政治に携わった。


 本命はドイツだ。ドイツは第一次大戦における敗北により多額の借金を背負わされており、知の論客タフト、猛の論客ウィルソン、聖の論客ハーディング、勇の論客クーリッジ、信の論客フーヴァーの五代アメリカ大統領に対し激烈な恨みを抱いていた。なにせアメリカによる容赦のない負債取り立てのせいで、きのう手に入れた1マルク紙幣の価値が、きょうにはもう1億分の1になっているのである。ドイツ国民は紙幣などというものへの信頼を捨て、マルク紙幣なんぞは犬に喰わせるか、あるいはおもちゃとして子どもに与えた。


 そんな状況からドイツを救ったのは他でもない、総統フューラーヒトラー。この男はユダヤ人の宝石店を破壊して回り、獲得した富を国民に配布するという義賊的事業で身を立てていた。さらに突撃隊や親衛隊といった軍団の創設によって雇用を生み出し、街をうろつく若者たちに衣食住を与えた。


 結果、彼はドイツ国民の厚い信頼を得て国家元首の位にまで上り詰め、ついにはルターから継承され続けてきた伝統的キリスト信仰を革新。ゲルマン神話に基づく多神教的世界解釈を国民に提示し、これもまた猛烈な支持を獲得した。


 日本とドイツの共通点はここにあったのである。西欧の国家は一神教の精神メンタルを堅持している。ゆえに八百万の神々を有する日本とは本能的に気が合わないところがある。そこへくるとドイツは、この時期ついに多神教へと宗旨替えをした。徐々に民間レベルで(はじめは神道関係者の留学がきっかけとなった)ドイツと日本の精神的・宗教的交流がはじまり、それはやがて公的なレベルにまで達し、最終的にはナチス・ドイツ総統と大日本帝国宰相が握手するまでに至ったのである。


 これが日本とドイツの同盟成立の歴史的経緯だ。


 ところでイタリアは――なるほどローマをその領土内に抱く一神教中の一神教国家だ。日本と手を組むはずがない。前述の説明では理屈が合わないことになる。だが……ここがイタリアのイタリアたるところなのだ。かの国の哲学者シヴィリアンたちはわれわれ凡人には考えつかないような深遠な思想をいつも頭の中で巡らせている。一見奇妙な行動をとるように見えるが、その実、裏には深い深い意味がある。あまりわれわれがそれを考えすぎると、夜、眠れなくなってしまうので、この辺で記述を終えよう。イタリアのことを考えすぎて病をもらい、ついには仏になってしまった歴史家はたくさんいる。あまり、考えないほうがいいのだ。


 *


 さて、これで役者は揃った。


 大日本帝国、ドイツ、イタリア。これが枢軸国陣営。


 アメリカ、イギリス、フランス、ソ連。これが主だった連合国陣営。


 開戦は――1941年8月のハワイ。真珠湾。


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