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由莉とえりかの戦い 〜幕開け〜



―――阿久津たちと離れてから5分後―――


「さて、阿久津さんの所に戻ろっか」


「うんっ、あんまり長くなると心配かけちゃうし」


祭りのやっている場所のはずれにあるトイレで、ささっと用を済ませた由莉とえりかは急いで阿久津と音湖の元へと向かおうとしていた。


「えりかちゃん、次は何を食べ――――、伏せてっ」


「え……ふぐっ……」


何事かとえりかは声を出そうとしたが由莉に口を塞がれ強引に近くの茂みの影に二人とも隠れた。


(ゆりちゃん、どうしてこんなことするの……?それに……いつものゆりちゃんじゃないみたい……)


不思議で仕方がないえりかだったが……すぐにその行動の理由が分かった。




「おい……少しでも変な動きするんじゃねぇぞ?殺されたくなかったらな」


「んんーっ!」


「ったく、うるせぇガキだな……静かにしてろっ!」


「んんっ!?―――」




隠れていて様子は分からなかったが、何人かの足音、叫ぼうとする女の子の声、怒号と殴った時の音、ぴたりと止んだ女の子の声……これだけあれば状況の推定なんて二人は容易かった。


男達の足音が木の生い茂る場所の奥の方へと遠ざかってから、やっと由莉はえりかから手を離したがその手は微かに震えていた。


「えりかちゃん……待ってて。ちょっと行ってくる」


立ち上がって、男たちが歩いていった方向へ向けて歩こうとした由莉の手をなんとかえりかは掴んだ。


「ま、待ってよ、ゆりちゃん! 一人で行く気なの?」


「……えりかちゃん、行かせて。これは私が勝手にやる事だし、えりかちゃんを危ない目に合わせたくない……」


振り向かずに声を震わせながらもえりかを止めようとしたが、えりかも引き下がるわけには行かなかった。


「ゆりちゃんのやる事ならわたしもやりたいよ。それに……わたしもゆりちゃんと【同じところ】にいるんだよ?」


わたしも、ゆりちゃんと同じ……手を赤く染めてるんだよ? そう言わんとするえりかの様子に由莉もハッとすると真剣な眼差しで互いの目を見た。


「ふふっ、えりかちゃんには敵わないなぁ……。多分、その男たちと私もえりかちゃんも戦う事になるかもしれない。それでも、着いてきてくれる?」


「うんっ、ゆりちゃんのいる所ならどこでもいくよ」


えりかのまっすぐな思いに由莉は数秒俯くとえりかに向かって頷いた。


「分かった。じゃあ、一緒に来て? 本当は阿久津さんと音湖さんがいた方がいいけど……って、もう余裕がないから急ぐよ、えりかちゃん!」


「うん!」


えりかを引き連れて由莉は音を立てないようにしながらこっそりと後をつけて行った。


_____________________


バレないように後を付けていた二人だったが、何分か尾行して、ついにその様子を捉えることが出来た。

5人ほどの男が猿ぐつわをされている一人の女の子を少し開けた場所で囲むように迫っていた。そして、その女の子の姿を見た時、二人とも目を見開いた。


「ゆりちゃん……あれ、もしかして……っ!」


「……あの時、私たちを見ていてくれた子の一人だよ。まちがいない…………っ!」


由莉は怒りを押さえ込もうとしていたがほんの少しだけ外に漏らしてしまった。女の子に酷い事をするその男たちが憎くて憎くてしょうがなかった。


「大人が5人……ゆりちゃん、どうする?」


「本当なら……殺したい。けど、ここで騒ぎを起こすと大変な事になるし……殺さずに無力化……それか、人気のある所まであの子を連れて逃げる。そうすれば私たちの勝ち。でも、あの中から女の子を助けるには……正面から行ってもいいんだけど、浴衣だから動けるか不安だし……。えりかちゃん、1分待ってて。少し考えるから」


どうすれば、最短で、最小の被害で、無傷でその女の子を助けるか由莉は網を張り巡らせるようにたった60秒の間に何十ものパターンを模索した。そうして捻り出した由莉なりの最善策をえりかの耳に伝えるとえりかも頷いた。


「えりかちゃん、行ける? ちょっと負担が大きくなるけど……いい?」


「うんっ、ゆりちゃんの為だもん。がんばるよ!」


えりかの真っ直ぐな言葉を聞いた由莉は無二の友達の言うことを信じて行動を始めるのだった。


____________________



〜由莉たちが行ってから12分後〜


音湖と阿久津は取り敢えず買ったフランクフルトを頬張りながら2人の帰りを待っていた。


「ん〜おっかしいにゃ〜そろそろ来るはずなのに気配が全く見えないにゃ」


「そうですね……何かあったのでしょうか……」


遅くても10分以内に帰ってくると思っていた二人は待っても来ない由莉とえりかの事が心配になり始めていた。


「あっくん、行ってみるにゃ。……少し胸騒ぎがするにゃ」


「勘、ですか?」


「うちの勘は変な時に当たるにゃ。外れるに越したことはないけど、念の為に行くにゃ」


音湖は急かすように阿久津の手を引っ張ると由莉達が向かった場所へ向けて足を早めながら屋台の並ぶ道を貫いていった。

そして、その途中の事だった。


「お嬢様ぁぁ……どこですか……」


(にゃ? さっき由莉ちゃんたちが射的してた時に寄ってた子供の一人の側にいた人かにゃ?)


涙ぐませながら道端に佇むその女性を見ていられなくなった二人は少し声をかけてみることにした。


「どうしたのですかにゃ?」


「お嬢様が……少し目を離した隙にどこかへ行ってしまって……普段では絶対にありえない事なのです。うぅ、お嬢様どこへ行かれたのですか……はっ!? す、すみません! つい…………」


この世界の終わりのような顔で呆然と言葉を紡ぐその女性だったが、見ず知らずの人にこんな事を言ってしまった事が恥ずかしくて顔を赤くしてしまった。


「気にしないでにゃ〜。うち達も2人の女の子の帰りを待っていたんだけど来ないし、今から迎えに行くところだったのにゃ。もし、その途中で見かけたら心配しているから早く帰るように言ってあげるにゃ。出来れば、その子の名前と外見を教えてくれれば助かるにゃ」


「ほ、ほんとですか!? ありがとうございます……! 外見は……あなたの―――」


「音湖だにゃ」


「音湖様……申し遅れました、私は渡辺と申します。外見ですが、丁度お嬢様は音湖様の肩くらいの身長で、髪は長い黒、青の服を来ているのですぐに分かると思います。名前は―――です」


「なるほど……にゃ、分かったにゃ。見かけたら声をかけておくにゃ〜」


音湖は頷くとその女性―――渡辺は「ありがとうございます!」と感謝の意を盛大に表すように腰を90度に折ってお礼を述べた。そんな渡辺を見ながら二人は、その女の子がいるか確認しつつ由莉とえりかがいると思われるトイレへと足を運んだのだった。





――そこに由莉とえりかの姿はなかった

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