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由莉とえりかは銃声を聞きました


 イカ焼きを食べ終わった4人は再び気になるものを探して屋台を見回して歩いていた。


「ゆりちゃん、どうしよう……おいしそうなものがたくさんあって少し困っちゃうよ〜」


「どれにしよう……うーん、決められないね」


 食べてみたいものが山ほどありすぎてどうしようかと悩む二人だった…………が、


 パンッ!


「っ!!」

「っ!?」


 二人は同時に反応を示し、音のあった方向に向きながら身構えた。


(今の音……銃っぽい、けど……なんで今まで気づかなかったんだろう……っ)


(この音は……もしかして…………!)


 その方向を見ると、確かにそこには銃が置いてあった。木製の銃把の小柄なライフルっぽい銃をみんな平然と楽しみながら撃っている光景は二人からしたら異常そのものだった。


(なんで……!?誰かがそれで暴れたりしたら……)


(ちょっと……へんな感じがする。なんだろう……)


「……二人とも、そこから動かないでください」


 二人は阿久津に肩を掴まれたのに少し驚きながらも、その命令を違えることはなかった。いざとなったらすぐに動けるように浴衣での動きに不安を持ちながらも、気配を一気に変えた。


「あの銃…………偽物ですよ?」


「そうなのですか…………えっ?」


「……ぇ?」


 二人とも完全にキョトンとしていた。そして、自分たちがとんでもなく馬鹿みたいな事を考えていたんだと由莉もえりかも顔を信じられないほど赤くしていた。


「う……うぅ、ううう……」


「はぅううう…………はずかしいよぉ……」


 それを側で見ていた音湖はお腹を抱えながらも笑うのを必死に我慢していたようだが耐えきれなかった。


「にゃはっ、にゃはは……ひぃ、もう我慢出来ない……にゃはははっ、お腹が痛いにゃ……ぶふっ、今の顔なかなか、だったにゃ……っ、にゃははははははっ!」


 音湖がしゃがみながら大爆笑しているのに由莉もえりかも若干カチンと来て阿久津の前からサッと消えると一気に音湖の耳元まで近寄った。


「……音湖さん、さっきの事言いますよ?」


「……ねこさん、今、少しばかにしてました?」


 殺気……とまではいかないにしろ確実な怒りの篭った言葉はさながら頭の左右に地雷を押し当てられているように音湖は感じた。


 ―――まずいにゃ、まずいにゃ、これとんでもない物を相手にしてるんじゃないかにゃ!? 下手に動いたらうちの首がおさらばにゃ!?


 自分の隠し事を脅迫に使う二人のことをもう子供と笑いとばせなかった。どうにかしてこの危機的状況を回避しないと本当にやばいと音湖は冷や汗を吹き出していた。


 音湖は咄嗟に二人をだき抱えるとすぐさま道路脇まで連れていき、ゆっくりと離し振り向きざまに土下座をかました。


「ごめんにゃあーー!! 許してにゃあぁぁー!」


「……ぷいっ。えりかちゃん、阿久津さんの所に行こっか」


「うん、戻って阿久津さんに……」


「どうするのにゃ? あっくんと会ってどうするのにゃ!? う、うちがどうなってもいいのかにゃ!?」


「はいっ」

「もう、怒られちゃってください」


 無邪気にそう言う二人に音湖はガックガクだった。地雷を何とか回収した直後で調子に乗っていた自分を殴り飛ばしたいとさえ思った。


「ほんっとにごめんにゃ!! お願いだからあっくんには何も言わないでにゃ? 二人のためならうちが何でもしてあげるからにゃ!」


「本当に……ですか?」

「じーーっ」


「本当だにゃ! うちを信じてにゃ!」


 あっくんにバレたら何をされるか分からないと必死に頼み込む音湖を見て二人もやっと一息ついた。


「分かりました、阿久津さんには言いませんから。その代わりと言ったらだめだけど……一つだけ、私たちのお願いを……帰る前に話すので聞いてくれますか?」


 由莉は、正直な話、音湖の事を聞いてからある一つのお願いを持っていた。えりかを助ける為に利用する……と言えば虫が悪いが、そうでもして音湖の助けが借りたいと密かに思っていたのだ。

 その様子にすぐに音湖も気づき、やれやれと膝をつき立ち上がった。


「いいにゃ、聞かなくてもその目を見れば何を考えてるのか嫌でも分かるにゃ。……うちはいいけど、帰りにあっくんに話して許可を貰ってにゃ?」


「はい!ありがとうございます、音湖さん!」

「ありがとうございます!」


「まったく、由莉ちゃんたち、うちが爆笑している時からこのお願いをする事を考えてたんじゃないかにゃ?」


「いえ、あの時は本当にカチンってなりました。阿久津さんに言おうかちょっと迷いました」


「わたしも……笑われるのってなんだかいやだったです」


 もしかして、最初からこの状況を狙って―――と思っていた音湖だったが、悪い意味で普通に怒っていた事に何とも言えないもどかしさが胸の中に込み上げてきた。


「でも、帰る時に言うつもりでしたけど、音湖さんが何でもしてくれると言っていたので……先にこうやって言いました」


「なるほど、にゃ。うちは由莉ちゃんとえりかちゃんのお願いなら断る気はあまりなかったんだけどにゃ? ……とりあえず、あっくんの所に戻るにゃ。何があったのかと思われちゃうにゃ」


 とりあえず死亡フラグをへし折ることに成功して安心した音湖は二人を連れて元の場所に戻った。

 その僅かな間、由莉はえりかの手を少しだけ強く握っていた。誰かを利用するような真似をした罪悪感がえりかを助けるためとはいえ、確かに残っていた。そして、そんな少し辛そうにしている由莉の気持ちは、はっきりとえりかに筒抜けだった。


「ゆりちゃん、ねこさんは気にしてないと思うからそんなに自分を責めないで? 今は楽しもうよ、ねっ?」


「うん……ありがと、えりかちゃん」


 由莉も気持ちを入れ替え、とにかく今は楽しもうと頭の中の負の感情を振り払うと阿久津のいる方へと走っていった。

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