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ゆりスナ! 〜引きこもりの少女はスナイパーを目指します!〜  作者: ミカサ
第5章 第3節 にゃははとねこは笑う
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由莉は怖がりました

「採寸するにゃ。キミたち少し脱ぐにゃ」


「……えっ…………?」

「えっ……!?」


 店の中の少し広めの部屋に連れてくるなり紐式のメジャーを持ちながらそう言い放つ音湖に二人は部屋の隅っこで怯えあがった。


「どうしたにゃ?別にうちも同じ女の子なんだから大丈夫にゃんよ?」


「そういう事じゃないんです……っ、私は___」


「あのっ、ゆりちゃんまだ会って間もない人に身体を見せたくないみたいなんです。……ゆりちゃんは……っ」


 えりかも何とか庇おうとするも決死の思いで教えてくれた由莉の秘密を自分の口で言うことが出来ず俯いてしまった。


「……?そんな暗い顔してどうしたのにゃ。うちも秘密もばらすような軽い女じゃないにゃ。話せば気が楽になるにゃんよ?」


「これ、は……っ」


「何をしてるんですか」


 阿久津が聞きかねたように扉を開けると音湖の脳天にチョップを喰らわせた。あまりの強さに頭を押さえて呻き崩れた。


「あだぁ!?っつぅ……何するにゃ、あっくん…………女の子たちの場所に入ってくるなんて……」


「マスターに消される前に私が消してあげましょうか?」


 ただならぬ雰囲気の阿久津にゆるい口調の音湖の姿がすっと消え、じっと阿久津を睨むような細い目で見た。


「っ!……そこまでそこの由莉ちゃんが大事なのかにゃ?」


「えぇ、この子は大事な家族です。変に関わろうとするならそれ相応の覚悟はしなさい」


阿久津の予想以上の怒りに音湖は目を丸くして仕方ないとため息をついた。


「……しゃーないにゃ。あっくんがそこまで言うなら素肌を見るのはやめるにゃ。さて、それでも採寸はしないとサイズが分からないからにゃ……まず由莉ちゃん、立ってじっとしてるにゃ」


「…………」


 肩をすくめながら音湖はそう言ったが由莉はまだ怖くて上手く立てずにいた。


「ええぃ!しゃきっとするにゃ!裸は見ないからいつまでもうじうじするにゃ!」


「っ!はい……」


 音湖の一喝する声に由莉は不安げに立ち上がると音湖の元へ向かった。


「よろしく……お願いします」


「挨拶出来るのはいい子の証拠にゃ。……それにしてもそこまで人に見せたくないのかにゃ?」


 メジャーで手の長さや胴体の長さを測りながら音湖は由莉にそう聞いてみた。


「……すみません。これはあんまり人に見せなくないんです」


「……そっかにゃ。いつかうちにも見せてもいいと思えるように頑張らないと……だにゃ。あっ、ここの端をかかとで抑えてにゃ」


 言われたように紐の先っぽを踏むとその紐が上にするすると伸びていった。ちらっと見ると26やら27と等間隔で数字が書かれているのが見えた。


「138……由莉ちゃんやっぱり小さいにゃ。そう言えば何歳なのかにゃ?」


「多分身長的には10歳だと思うんですけど……本当は分からないんです。誕生日も年も……」


「年が……分からないにゃ?」


 その言葉を聞いて音湖は確かな違和感を感じた。


 ___おかしいにゃ。もしかして、うちとんでもない事をあっくんから聞き逃したのかにゃ?


「ちょっとあっくん、こっちに来てにゃ」


「……分かった」


 音湖は阿久津の手を掴むと急いで部屋の外へと出ていった。あまりにも突然の行動に由莉もキョトンとしていた。


「ゆりちゃん、さっきは大丈夫だった?」


 えりかが不安そうに尋ねると我を取り戻したようにピクっと跳ねて振り返った。


「う、うん……何とか大丈夫だったよ。ありがとね、えりかちゃん……庇ってくれて」


「ううん、ゆりちゃんが苦しんでるの嫌だったから……」


 いつもまっすぐ純粋なえりかの言葉が由莉の心に染み渡りリラックスする。


「いきなり裸に、は無理だよ……こんなの見られたら……怖がられちゃう」


 由莉はそっと自分の服をめくって脇腹を見た。ずっと少しでも消そうと色々努力してきたがそれでも青い痣はくっきり残っていた。

 えりかもそれを見て心がえぐられるような気分だった。


「ほんとに……ゆりちゃんのお母さんひどい……っ。なんでこんな事……」


「……私はずっとお母さんのストレスを発散させるために使われてきたからね……いつか絶対に……殺す」


 ___忘れてた訳じゃない。今だってお母さんを殺したい……でも復讐なんていくらでもタイミングはある。けど、えりかちゃんと思い出を作れるのは……今だけなんだ。


「それなら、わたしも協力したい……ゆりちゃんをこんなに傷つける人を……許す気になんてなれないよ」


 拳を握りしめ怒りをその言葉に込めているえりかに由莉はそっと頭を撫でてあげた。


「……そう言ってくれるだけで嬉しいよ……でも、それも含めてえりかちゃんの記憶が元に戻ってからね?」


「うん……っ!」


 _________________


「あっくん、由莉ちゃんとえりかちゃんって何者にゃ?」


 音湖に連れられ外に出た阿久津はそう聞かれるとこれまでの経緯を端的にまとめて話した。


「なるほど……にゃ。だから由莉ちゃんは覚えてないのかにゃ…………。にしても、まさかえりかちゃんまでとは思わなかったにゃ」


 二人の取り巻く状況に音湖はかなり驚いたがすぐに落ち着きを取り戻した。


「にゃ……それなら由莉ちゃんには悪いこと言っちゃったにゃ。そりゃ、あっくんもあんな怒るわけだにゃ」


「分かったならいいです。……全く、理解だけは早いのに普段はたまに抜けるところありますよ、ねこは」


「にゃはは……それは申し訳ないにゃ。け・ど・にゃ、仕事では失敗した事はない、そうだにゃ?」


 悪戯に笑う音湖を見て阿久津もやれやれとため息をついた。


「はぁ……分かったなら行ってください。そう時間もありませんし」


「分かった分かったにゃ。それにしても、今日のことを黙ってるなんてあっくんも中々のロマンチストかにゃ?」


「舌引っこ抜きますよ?」


「行ってくるにゃーー」


 音湖はトゲトゲしい阿久津の前からさっと身を引いて2人の元へと向かうのだった。




 ____いつになったら、あっくんはうちに優しくしてくれるのかにゃ?うちは……



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