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ゆりスナ! 〜引きこもりの少女はスナイパーを目指します!〜  作者: ミカサ
第5章 〜さよなら〜 第1節 ぶつかり合ってすれ違って
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えりかvs阿久津

「くぅ……っ」


「……っ」


 二人の死の輪舞曲ロンドが繰り広げられた。


 偽物の模擬戦じゃない……本物の殺し合い。


 阿久津もえりかも順手で構いナイフを振るいあった。だが、当然リーチは圧倒的に阿久津の方が長い。下手に気を抜けば……1回でも攻撃を受ければ……確実に死ぬだろう。


 えりかも由莉に教えてもらったこと全てを実践した。突き方、捌き方、避け方__何もかも自分の最高を尽くして戦った。けど、それだけじゃ阿久津に勝つにはまだ足りなかった。何もかもが足りなくて徐々に後ろに押されていった。


(当たったら多分死んじゃう……!絶対に避け……だめ、避けられないっ)


 阿久津のナイフとえりかのナイフが火花を散らし交錯する。力の差だって圧倒的に下回るえりかはナイフの腹を残った左手で支えて必死に競り負けないように耐えた……が、不意に右脇腹に鈍い痛みを伴って吹っ飛ばされた。両手で防戦しているえりかの隙を這って左フックが脇腹にぶち込まれたのだ。


「ぐうぅ………っ!!」


 その衝撃で由莉の側まで飛ばされてしまった。受身はとったものの打ち身した身体が少し痛む。


 ___ゆりちゃん……わたし、そろそろ限界かもしれない……っ


「はぁ、……はぁっ、ゆりちゃん……今からすること見てて……」


 ナイフを地面に突き立てて何とか支えにしてしゃがむと由莉が背中越しにいることを確認して出来る限り優しく、哀しさを帯びさせないように目をこすると心の底から息を吸って声の限り叫んだ。


「もし、わたしが死んじゃっても……」


 ____ゆりちゃんが助かればわたしはそれ以外は別にどうなったっていい。だから……だからっ!


「ゆりちゃんだけは……生きてっ!!!」


「…………ぁ」


 ゆりちゃんに教えてもらったことを……さらに……もっと自分に取り込んで……それ以上の力を……出す!この一撃だけはっ!ゆりちゃんから貰ったもの全部ぶつけるんだ!


 ___初めてやることだから出来るか分からない。失敗したら……ううん、絶対成功する!だって……わたしはゆりちゃんのことが一番好きだから!


立ち上がる瞬間、ナイフを握る右手の手首を裏返し順手から逆手へと持ち変えると阿久津に向かっていった。そして、ただの突進ではない。


 0から最速へ___そして最速から0への急ブレーキ、由莉の最も得意とする動きだった。由莉の技を再現しようとしたえりかは自分の脚の力ほとんどを生贄にした。


 ____これはゆりちゃんから見せて貰ったもの



 さらにそこからは……完全に賭けだった。__あれを再現するのは正直、自信がない……それに本当に一発勝負。体力もほぼない……だけど、やるしかない!


(足がつりそう……っ、でもっ、ゆりちゃんを助けるためなら!!)


 リーチ範囲ギリギリに突っ込み阿久津が身構えたその瞬間、残った力の全てを振り絞り力のベクトルを一気に反転させ範囲内からほんの少しだけ範囲外に出た。それによって阿久津の重心を急激にずらした。


 ____これは本当のわたしから盗んだもの!


 二つの自分以外の技術を複合させ、えりか自身の技として昇華させた。


 一瞬の移動からの重心崩しによって阿久津は完全に予想を覆されたようにバランスを崩し、倒れこもうとしていた。


 えりかはこれを好機だと一気に間合いを詰めようとした…………が、脚はえりかの言うことを聞くことはなかった。

 何分にも渡る本気の殺し合い、由莉の速度の再現、由莉と戦った時に使ったあの技の実践……本来なら、最後の一撃の直前でえりかの限界は来ていた。それでも、由莉のためと水の垂れない雑巾から水滴を絞り出すかのように限界を超えた上で力を振り絞って戦っていた。

 だが、もうそこまでだった。えりかは動こうにも1歩も動けなかった。その力すら残すことなく全てを使ってしまったのだ。

 そうしている内に阿久津が体勢を立て直すと右腕を掴まれ、足を掬《 すく》うように前向きに引き倒され、腕を後ろに関節技をきめられて持っていたナイフを取りこぼしてしまった。


「ですから言いましたよ?危ないからやめた方がいいですって」


「…………」


 黙っているえりかだったが、自分の上にナイフが振りかざされているのは何となくだけど分かった。


「最期に言いたいことはありますか」


「ないです。もう、ゆりちゃんに……全部伝えたから!」


 それを聞いた阿久津は一つ頷くと無情にもナイフをえりかの首筋を目掛けて突き刺そうとしていた。


「それでは……さようなら」


 ___ゆりちゃん……っ!


 えりかは阿久津の振り下ろされたナイフの風圧を変にゆっくりと感じていた。


(ここまで……かな。あとは、もう……)


 静かにえりかはその時を待っていた___が、そのナイフがえりかの首筋に到達する事はなかった。ゆっくり目を開け後ろを僅かに振り返ると……ナイフがえりかに到達するギリギリのところで押さえつけている由莉の姿があった。


「……何をしている」


 だれも聞いたことのない由莉の口調と低い声に阿久津も思わず手が緩んだ。


「……えりかちゃんに……っ!何をしようとしたぁぁあーーー!!!」

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