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由莉は憤りを感じました

「やっぱり記憶が戻ったんだね……」



「うん……けど、まだ自分の名前はどうしても思い出せないの……変な黒いモヤモヤってするような……」



 えりかは多少の頭痛に顔をしかめながら思い出したことを由莉に伝えた。



「私には……パパとママがいたんだ……すごく優しい……大好きなパパとママがいたんだよ」



「うん……」



 由莉はえりかが少し笑みをこぼしながら喋っているのを聞いていたが、どうも心から笑っていないように見えた。どうして……そんな苦しそうに笑うの……?



 その答えはすぐ知ることになった。



「けど……私が幼い頃に死んじゃった……パパも……ママも」



「っ!そんな……そんなことって……っ」



 由莉はえりかが今どれほど辛い事を思い出したのか想像もつかなかった。大切な人を失う苦しみを思い出せない由莉にはまだ____

 それでも、由莉はえりかの痛みを自分の痛みのように感じていた。そして、激しい憤りを感じると共にある事が頭をよぎった。



「……えりかちゃん、パパさんとママさんって……事故だったの?」



 事故だったら仕方ないかもしれない。でも……もし__殺人だったなら、自分がその犯人を殺してやる、と由莉は激情に駆られた。



「分からない……それ以上は……うっ……!」



 えりかは途中で頭が割れそうなほど痛み、その場で頭を押さえた。



「えりかちゃん、大丈夫!?」



 肩を支えて不安げに聞く由莉にえりかはそっと頷いた。



「うん……ちょっと頭いたいだけ……」



「えりかちゃん、今日は休もう?もう疲れちゃってるんだよ」



「…………うん」



 由莉はえりかの事が心配でならなかった。まだ、起きて日にちも経ってないのに色々、辛いことを知って無事でいられるわけがない。最悪……あの時の私のように……、由莉はそれだけは防がなければならなかった。それにこれ以上、えりかの苦しむ姿を見ると自分まで壊れそうな気がした。



 二人はまだ昼過ぎだったが、少し早く寝ることにし、そのベットに由莉は左側、えりかは右側で寝転がった。すると余程疲れていたのか、不思議なくらい二人ともすぐ眠気に襲われ、意識を刈り取られた___


 _____________________



 4時間後___



 先に目覚めたのは由莉だった。パッと起きて背伸びをしてベットから降りると、既に空がオレンジ色に染まろうとしているのが窓から見えた。



 もう7時……かぁ……すごい寝ちゃった。ってそろそろ夜ご飯の時間だっけ……そうだ、えりかちゃん起こさなきゃ



「え〜りかちゃん、起きて?」



 由莉はえりかの頬を指でつんつんとした。するとえりかは寝ぼけ眼でゆらりと起き上がった。



「ん……ぁ、ゆぃ……ひゃん……」



 起きたてで舌が回ってないえりかに由莉は思わず吹いてしまった。



「ぶふっ、え、えりかちゃん、舌回ってない……ふふふっ」



 その笑い声でえりかはやっと意識がはっきりとすると目の前で笑いを堪えようとしてぷるぷる震えている由莉がいることに気づいた、



「ゆ、ゆりちゃんなんで笑ってるの?」



「さっきの……えりかちゃんが、面白くて……くすっ」



「わ、わたし……?さっき何かしたの?」



 その正体を聞こうと口を開いたえりかだったが、コンコンとドアをノックする音に気がついた。



「由莉さん、入ってもいいですか?」



「はい!入ってください!」



 すると、阿久津がおぼんに大きな底の深い器2つ持ってやって来た。そこから漂うとてもいい匂いに、由莉とえりかは仲良く腹の虫が鳴った。



「はぅっ……あ、阿久津さん聞きました!?」

「少し……恥ずかしいです……」



 由莉は顔を真っ赤にして、えりかは少しほんのりピンク色にして阿久津の方を見た。すると阿久津はニコニコした表情になった。由莉はこの顔を知っていた。この顔は___私をからかう時だ……っ!




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