由莉は覚悟を決めました
たまに結構修正いれたりするのでご了承願います
それではどうぞ!
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由莉はその銃に夢中になっていて人が来ていた事に全く気づいていなかったのだ。由莉はハッと気づくと顔を真っ赤にして立ち上がりすぐにその人の元へ向かった。
「は、はいっ!すみませんっ勝手に触っちゃって……」
「ははは、気にしなくて構わない。それで君、名前は?」
「はい、大羽由莉……です。」
「大羽……?……まぁ、いいとするか」
その人は由莉の苗字を聞くとピクっとさせたがすぐに落ち着きを取り戻した。由莉もその反応を見て少しだけ不思議に思った。私の苗字……珍しくはないはずなんだけど……どうしたのかな……?
「……?どうかしましたか?」
「いや、こちらの事情だ。さて、少し色々と聞くがいいか?」
「は、はい……」
(何を聞かれるんだろう……変な質問じゃありませんように……っ!)
「まずは……君に家族はいるのか?」
「……?家族は……お母さんだけで、私は一人っ子です。」
なんで、その質問からなのかな……?あ、でも……そういう仕事だから身内の人がいたらダメなのかも……
「そうか、では次は___」
そこからいくつかの質問をされ、由莉は緊張で体はカチカチになりながらも質問には冷静に返していった。
「……そう言えばこの年齢でこの仕事を見つけたのは君が初めてだな。……この仕事をやろうと思った理由は?」
「えっと……私元々銃……スナイパーライフルにすごく興味があって、ゲームとかでもいつも狙撃しかしていなかったので……それで、やってみたくて……」
「……ゲームと現実は違うぞ?実際の人からは血が溢れんほどに吹き出すし、相当な技術もいる。遊びでやっていける世界じゃないんだぞ。それでも君はやっていく覚悟はあるのか?」
「……っ」
由莉はまるで殺さんと殺気を溢れ出す男性に戦慄を覚えた。身体は寒いし、本当に……殺されそうだった。でも……ここで言わなかったらきっと私が後悔する……そんなの嫌だっ!
由莉は歯を食いしばり声を震わせながらもはっきりと自分の思いを話した。
「はい、もう覚悟は出来てます。それに……私は……本当は殺したい人がいるんです。……自分の手で」
ここで引き下がっちゃったらだめだ。絶対にダメなんだ……っ、絶対に……!
「それは誰だ?」
「……………私の母です」
そう言うと由莉は背中を向いて震える手で自分の服を捲りあげ、背中を男性に見せた。男性はその悲惨さに少し目を細めた。傷は背中や肩やあらゆるところにアザを作っていた。
最近作られたのであろう。右の首元から斜めにかけてバットで叩かれたように赤黒くなっている。わき腹は左も右も両方紫色になっていてまともに見ていられるような姿ではなかった。
実は由莉は母親から虐待を受けていたのだ。いつもは由莉を学校にも行かせて貰えずほったらかしたままどこかに行っているのだがたまに帰ってくると難癖つけて由莉に殴る蹴ると言った暴力を働いていたのだ。由莉は何でこんな事をされるのか分からなかった。いつからかお母さんを殺したい、そう思うようになった。泣かれたら面倒だとかなり前に母親がパソコンやゲームなど一通りあてつけられていた由莉は次第にそれにのめり込むようになっていった。
FPSゲームにはまったのもそれが原因の一端だ。
「だから……お願いします」
(この子、肝が座っているな。この状況でも至って冷静だ。この子だったらもしかしたら……)
先ほどの一連の会話で男性は由莉の自分でも気づいていない能力にその男は気がついた。どれもスナイパーには必要不可欠な要素である。この子はまだ幼い。幼いが故に成長速度、呑み込みの良さも比較的に高い。それにいざという時の冷静さがすでに備わっているのは相当だった。
「……覚悟はあるようだね。言っておくけど死ぬほど厳しい特訓をしなければならない。それでも君はやるか?」
「はい、やらせてください!えっと………なんと呼べば良いですか?」
「そうか……分かった。名前は……君の好きなように呼ぶといい」
「分かりました!じゃあ……マスターと呼びますね!……マスターに早々ですけどお願いがあるのですがいいですか?」
「言ってみなさい」
ダメと言われるかもしれない。けど……もうあそこには戻りたくない。その一心で由莉は無謀とも思える願いをマスターに伝えた。
「私を……ここに住まわせてください」
マスターは少し思案する素振りを見せたがすぐに首が横に振られた。
「いや……それは駄目だ。誘拐とでも君の親戚に騒がれたら厄介だしな……」
「マスター……それはないと思います」
マスターに断られてしまった由莉だが、その理由を覆すことの出来る証拠が由莉には《《たったひとつだけ》》持っていた。自身の一番の秘密。誰にも言いたくない、考えるだけでも頭がおかしくなりそうなそんな秘密だ。
「……何故だ?」
その秘密を由莉はマスターに話すことにした。それでマスターの判断が変えられるかは分からない……けど……それでも、その可能性に賭けたい……っ!
「実は私……どうやら出生届けが出されていない……【この世に存在していない人間】みたいなんです……っ」
「…………なんだと?」
マスターの目の色が少し変わった。それほどにとんでもない事実なのだ。目の前にいる少女が生まれてさえいない存在なんて、普通考えられないのだ。普通、どんな子供でも親が必ず出生届けが出されている……はずなのにそれがされていないのは異常でしかなかった。
「この前、こっそりと住基ネットを調べたんです。けど……そこに私の名前は……載ってなくて……」
この男にとって色々と考えさせられるものがあった。戸籍のない人間はどれだけ探しても名前すら出てこない。スナイパーや殺し屋には向いている。しかし、虐待をされている上に出生届けが出ていない……となると出生届けが出されなかった理由はあらかた決まってくる。「親のストレスの捌け口の道具」……なるほど、それなら出生届けを出さない理由にもなるが……そんなことが……
「マスター……お願いします……私をここにいさせてください……!私……あそこに戻りたくない……っ!もう……殴られたくない……蹴られたくない……っ」
由莉は堪えきれず溢れんばかりの涙を流しながらマスターに頼み込んだ。辛かった。いつも、いつ母親が帰ってくるのか怖かった、どれくらい殴られれば気が済むのか。どれくらい蹴られたりしたら気が済むのか。どれくらい……こんな生活をすればいいのか。逃げたくてもそれすら叶わくて……そんな気持ちを誰かに話すことすらできず、どうしようもなくその悲しみと怒りを忘れようとゲームに熱中して……。
「……分かった。君を信じてみよう。」
「ひっく……ありがとう…ございます……!」
裏の社会で生きてきた人間にとって人を信じることがどれほど危険なのかはその男___マスター自身が一番知っていた。一人の少女の物的証拠もないその根拠を信じるべきなのか、少し迷っていた。しかし、その真っ直ぐで純粋な少女の目には嘘の欠片すらない。その目の中にあるのはただ一つ、
生きたい
その意思だけがこの子……由莉の目に宿っていた。それはその男にしっかりと伝わっていた。だからこそ信じてみようと思った。その思いに、その力に。
「ただし、実力がないとみなせばすぐにここを出ていってもらうぞ?」
マスターが敢えて挑発するような口ぶりをすると由莉は涙を拭って元気な声で、その中には確固たる意思を秘めて返事をした。
「はい……!私、頑張ります!」